鏡の国戦記〜EPISODE MIRA〜第一部(7/14)縦書き表示RDF


鏡の国戦記〜EPISODE MIRA〜第一部
作:亜玲



第七話 遭遇




「う、う〜ん……」

玉吉は保健室のベッドで目を覚ました。周りには誰もいない。時間的には昼休みだろうか。

『そういえば、ボールがぶつかったんだっけ……。誰が俺を介抱してくれたんだ? もしかして、月要さんっ!?』

まさか右海先生にお姫さまだっこされ、しかもそれがクラス全員に目撃されていたなどとは知らず、勝手な妄想を繰り広げる玉吉。

『早く戻って、安心させてやらねぶぁっ!!』

女子(めこ)は早退しているにも関わらず、勢い込んで飛び起きた玉吉。廊下に出て、トイレの前を横切る。昼休みだが、保健室の周りは静かで不思議と先生すら誰も通らなかった。

『おっと、その前に、髪を整えなくては。』

ターンバックしてトイレに入り、鏡の前に立つ。おでこは多少赤く腫れ上がってはいたが、これもいい男の宿命、と一人で頷き頭に手をかけた、その時。


鏡に映っているはずの人物が自分ではないことに気付いた。


その人物は、髪型こそ似ているが姿はまるで違っていて、サングラスに緑の全身タイツという、ダサいんだかスタイリッシュなんだか……という奇妙な格好をしていた。

にこやかな笑みを浮かべ、ひらひらと手を振っている。

「なんだこいつはっ! 幽霊か!?」

玉吉が叫ぶと、

「フッ……、いやだなぁ、幽霊だなんて。俺は鏡の国の皇子。皇子オリエプさ」

全身タイツ男がサングラスをはずす……


『おっ、俺ーー?!』


サングラスをとったその顔は、正しく玉吉自身だった。

『白磁の肌、薔薇の唇、星空の瞳……こんな美貌は俺以外にいないはず!』

玉吉が茫然としている間にも、オリエプと名乗った全身タイツは着々と鏡の中から全身をひっぱりだしている。

「よっ、と」

最後に右足で華麗に着地し、オリエプは玉吉に歩み寄った。

「あぁ、たっちゃん……どれほどお前にあえる日を楽しみにしていたことか……」

うっとりと呟く声の低さまで、玉吉と瓜二つである。唯一違うところと言えば、玉吉より僅かに背が高い所だろうか。

「あ、あの、貴男は一体?!」

突然鏡の中からあらわれた美丈夫(もちろん玉吉ビジョンでの話だが)に胸を高鳴らせながら、玉吉は尋ねた。

すると、オリエプは玉吉の頬に手を添え、少し寂しげな表情を浮かべた。

「フッ……俺を覚えていないのも無理はない。なぜなら俺たちは、生まれてすぐ生き別れてしまったからさ!」

「え? 生き別れ?! それって……」

驚く玉吉に、さらにオリエプは説明する。

「そう、俺たちは生き別れの双子なんだ! あぁたっちゃん、こんなに美しくなって!! お兄ちゃん、感激だぁぁ!!」

がばちょっと兄は手を広げ、


『えぇ?!』


兄の熱い抱擁を受けながら、玉吉は心中で驚きの叫びをあげた。


玉吉の心臓の鼓動は早鐘と化していた。無理も無い。自身が愛し愛されるべき者の理想形――まるで自身と同じ麗しい顔をした人間が目の前に、しかも絵本の中の話の様な夢想的な方法で現れたのだから……。

『あれ、絵本……!?』

玉吉の脳裏には十数年前、ママンのみずみずしい声(高さは違えど声質は玉吉と同じだ)で読み聞かされた絵本のストーリーがぼんやりと浮かんできた。

『なんだったっけな……』

兄と名乗る男に抱き締められ、その体温を直に感じてしまい、玉吉の頭は上手く働かない。


その時、静かな廊下に足音が響いた。どうやら此処に近付いてくるらしい。

「ちっ、誰か来やがった……イイトコだったのにっ……じゃあ玉吉、また後で!」

そう言ってオリエプは鏡の中に吸い込まれて消えた。

残っているのは玉吉の体に残るぬくもりだけである。

『……兄さん?』

玉吉は立ち尽くしていた。


[続く]












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