挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
幻想大陸 作者:しるうぃっしゅ

四部 西大陸編

87/106

七十九章 七つの人災5













「ギガガガガガァァァァーーーーー!!」
「グギャギャギャギャ!!」
「ガガァァァアアアアアアアアアーーーー!!」

 雄叫びをあげるサイクロプスが、ギガスが、数多の巨人種に属する怪物達が雪崩を打って暴走する。
 彼らの狙いであり、対象。死の体現者。ヒトの姿をした絶望。決して勝てぬと本能に感じさせる剣士に向けて殺到した。

 一体どれだけいるのか。数えるのも馬鹿らしい、呆れるほどの戦力比。
 数の暴力による単純計算で考えるならば、キョウに勝てる道理があるわけもない。しかし、キョウは悠然と、揺らぐことなく進撃する魔軍を見据える。歓喜に満ち溢れ、真正面から迎え撃ったガルガンチュアと同様に雲霞の如き巨人種を迎え撃つ。

 キョウは傭兵王や剣姫のように、多対一を可能とさせる特異能力(アビリティ)を所有しているわけではない。彼にあるのは対個人に特化して特化して特化した必滅呪詛。
 それはこのような百を超える敵を相手にするには全く役に立たない部類と言っても過言ではない。
 彼にあるのは刀一本。小狐丸と言う名の相棒。そして、その身一つ。

 それでも―――剣魔は不動。

 焦燥も恐怖も一切見せず。
 醜悪でおぞましい肉の荒波を黙って見つめる。

 まるでそれらの圧倒的な進撃など、そよ風程度にしか感じていないかのように。
 足元に打ち寄せる小さな波にしか見えていないかのように。

 ヒュゥっと短い呼気が口から漏れる。
 それだけで増大していく剣魔の剣気。彼の肉体が確かに揺らぐ。
 ぐらぐらと。ざわざわと。ゆらゆらと。まるで蜃気楼のように、キョウの身体を歪ませる。
 あまりにも規格外で表現し難い、質量を持った圧力。獄炎の魔女の超魔法力に匹敵する、一筋の光も存在し得ない深淵の気配。


 巨人種は知らない。理解できない。 
 彼らが戦いを挑もうとしている相手は、対個人に限定すれば最高峰の特異能力(アビリティ)を持ちながら―――それに頼らず、操血に比肩するほどに、女神を至高と戴く狂いし神兵を斬滅せしめた至強のヒト(何か)だということを。 



 巨人種の視界に映ったのは黒い雷。
 それはキョウが黒い衣服をはためかせ、身体を沈め大地を這うように駆け抜けた光景だということに、彼らの生涯が潰えるまで気づくことはなかった。
 彼らがそれを認識するよりも尚速く、小狐丸が空間に弧閃を刻み付ける。

 本来では有り得ない。人間では為し得ない。
 ガルガンチュアが特異能力(アビリティ)で魔の軍勢を切り裂いた時の巻き戻しを見るかのように―――だが、今度は何の異能も使用せず、ヒトの業のみで剣魔はそれを為す。

 七つの人災の誰もが呆れ、そして認める。
 物心つく前から操血に愛情を注がれ、育まれ、鍛えられた生粋の戦闘者。
 異能や魔法を含めなければ、間違いなく世界(アナザー)に於いて並ぶ者無き最強の称号を戴く剣士は止まらない。

 そもそもが、下位中位巨人種如きで―――幾ら頭数を揃えたとしてもキョウ=スメラギの進撃を止めることなど、絶対に不可能。
 ここにあるのは、数の力をねじ伏せる、圧倒的な個の暴力。

 完成された剣士。完全に到達したはずの人間―――しかしながら、その成長は未だ止まず。
 限界も天井も知らず、ただひたすらに最強へと邁進していく剣魔が淡々と荒れ狂う。


 その姿は美しかった。
 刀一振りを携えて、百鬼夜行を蹴散らす様はまるで予定調和の如き舞台。
 誰もが見惚れ、観客になってしまう不思議な光景だった。






 ―――されど、そこに割ってはいる異端が一人。








「―――キョゥゥゥゥゥゥゥゥウウウウウウウウウ!!」






 美声が一陣。
 彼方から息を乱しながら疾走してくるのは、現在の剣魔の相棒―――獄炎の魔女。
 彼女の額からは幾筋もの汗が滴り落ちる。キラリっと光を反射して宙に散っていくさまは透明な宝石のようにも見えた。


「……ディーテか?」


 周囲に迫っていた巨人種を軽々と薙ぎ払い、声のした方角へと視線を向ける。
 彼の視界に入ったのは、やはりというべきかディーティニアで、まさかこんなに速く追いついてくるとは思っていなかっただけに、流石のキョウも驚きを隠せなかった。 


 疾駆するディーティニアの足が途中で止まる。
 短い瞑目。彼女が再び目を見開くと、その翡翠色の両眼が一際強い輝きを放った。


「―――任せるのじゃ!!」


 瞑目と同様に短い宣言。
 一体何を任せろというのか。どうすればいいのか。
 普通ならばそう問い返してもおかしくはないが、キョウはそれに即座に反応する。地面を蹴りつけ、この場から離脱。
 群がる巨人種を置き去りに、ディーティニアが仁王立つ場所まで一足飛びで駆け抜けた。

 それは阿吽の呼吸。相手のことを即座に理解することが出来る以心伝心。
 僅かなタイムラグもなく、絶妙なコンビネーションを見せる剣魔と魔女。

「キョウの敵はワシの敵じゃ。滅びよ、小僧ども―――」


 両足を肩幅に開き、右手を広げ迫り来る巨人種へとかざす。支えるように左手を右手に添える。
 既に練り固めていた魔法力を身体の内から解放。轟々と、まるで彼女を称えるように大気を熱していく大爆熱が、獣のように雄叫びを上げた。

 空気が火傷をしそうなほどに熱く。
 大地が黒く焦げ、周囲の建物が蒸発していく。あらゆる存在を燃やし尽くそうとする獄炎が、遂には空までも朱に染める。
 魔女の本気。全力は、実に容易くあっけなく、世界を灼熱の海へと変化させていった。

「―――灼熱の大炎国(ムスペルヘイム)!!」

 魔女の力ある言霊の解放。
 朱の空でも目に留まる一筋の赤い線。やがてそれは超速で文字を描き始める。天空に浮かび上がったのは直径数百メートルの六忙星。それが揺らめき怖気を感じさせる真紅の炎が舞い降りる。魔方陣から降り注ぐ数千の炎雨は、まるで異界よりの地獄の死者を連想させた。

 襲い来る数百の巨人種を空から穿つ魔女の裁き。 
 炎の雨の一粒一粒は、数十センチもの巨大さで、それに触れただけで巨人種の命は消失した。
 そう―――あまりの超高熱により、焼けるという事象を超過し、接触するだけで消滅していくのだ。

 降り注ぐ灼熱の大炎国(ムスペルヘイム)の超範囲から逃れることも防ぐことも出来ない巨人種達は、瞬く間にその数を減らして行く。
 どこまでも規格外で、魔法という枠組みを外れ、神秘や奇跡といった領域すらも通り越し―――それこそ神罰と例えるしかないほどのディーティニアの超越技の咆哮。

 呼吸した熱で肺が火傷をしかねない熱量を伴って、魔女の超越魔法が巨人種達に終わりを告げた。


 その一呼吸。僅か一度の瞬き程度。
 そんな一瞬としか言えない時間で―――キョウの視界に入る大地は焦土と化した
 数十メートルどころか数百メートル。否、キロにも及ぶ命無き死の大地を創造したディーティニア(化け物)に、間違いなく誰もが言葉を失うだろう。こんな現場を見て絶句する以外にどんな対応をすればいいのか。

 しかし、キョウは特に驚くでも慌てるでもなく、目の前に巻き起こされた惨劇を当然のこととして受け入れる。
 この魔女ならば。ディーティニアならば、この程度(・・・・)ならば為すだろう、と。

 ある種の信頼。信用。そして、期待と確信。
 キョウは獄炎の魔女の力量をだれよりも理解し、悟っていた。

 剣士としての極限と魔法使いとしての究極。
 方向性は違えど、二人はどこか似通っているのだから。



 熱せられた空気が肌をチリチリと焼く。
 それが元に戻るまで少なくない時間を要するのは一目瞭然。
 額に滲み出た汗を手の甲で拭うと、キョウは隣にいる銀髪の魔女の頭を、トレードマークの三角帽子の上から軽くポンと叩く。
 弟子に対する扱いとは百八十度異なる対応。カクリヨが見たら怒り猛ること間違いなしの光景だが、それは剣姫が自分の行為を思い返せばある種当然。しかし、それがわかっていてもカクリヨの行動が普通になることはないだろう。その程度で治るようなら遥か昔に治っているはずなのだから。  

「―――な、なにをするのじゃ」


 キョウに叩かれた―――というよりも頭を撫でられたというほうが正確なのだが、そんなディーティニアは、わふっと声を上げ突如沈み込んできた帽子に驚きながら唇を尖らせて上目遣いで見上げる。
 ただし、言葉とは裏腹に不満げな様子は見られずに、どこか嬉しそうな表情をしていた。

「いや、何。助かった、すまんな」
「―――う、うむ!!」

 パァッと花が咲く笑顔で頷くディーティニアは大層可愛らしい。
 満面の笑顔でキョウを見上げるが、すぐさまそれを隠すようにキュッと唇を引き締めて真剣な表情になる。

「全く……ワシを置いていくからこのような大変な目にあうのじゃぞ? 少しはワシの有り難味がわかったか?」
「ああ。こういう複数を相手にする時は、お前がいてくれる方が助かるな」
「そ、そうじゃろう。そうじゃろう」

 置いて行かれたことを根に持っているのか、ディーティニアの発言には少しの棘が含まれていたが、それを特に気にするでもなく素直に認めたキョウに、彼女は毒気を抜かれてしまったのか複雑な表情を浮かべる。
 必要とされる嬉しさと置いていかれた悔しさ。後者に関しては、キョウが説明したことが正しいと理解している。だが、理性が納得するかどうかは別である。しかも、宿敵であるナインテールだけを連れて行ったのだから、ディーティニアとしても悔しさは加速する一方。それを動力源として、急いで駆けつけたのだが―――。


「―――なんだか、どうでもよくなったのじゃ」


 帽子の縁を指で触りながら、ぽつりと誰にも聞こえないように小さく呟いたディーティニアが呟いた。
 下手な言い訳もせず、直球に思ったことを伝えてくるキョウに、自分の中の悔しさが霧散していくのを彼女は理解する。
 会ったら色々と言ってやろうと考えていたディーティニアであったが、空気の抜けた風船のようにそれらはどこかへ消えていってしまった。

 ―――全くこの男は。出会った当初からいつもワシの心をかき乱す。


 キョウが幻想大陸へ来てからまだ数ヶ月。
 つまりは、キョウとディーティニアが邂逅してそれだけの月日しか流れていないということだ。
 幾ら孤高の魔法使いだったとはいえ、随分と長い時を生きているディーティニアは、親しくした間柄の人間はそれなりにいる。
 だが、そんな彼ら彼女らよりも、余程親しく感じられる。まるで心がキョウを求めているかのように。身体が熱くキョウを欲しているかのように。不思議な感情が湧き立ってくる。


「どうかしたか?」
「……べ、別に何でもないのじゃ」


 帽子の上からワシャワシャと頭を撫でるキョウに、そう言い放ったディーティニアは、ふんっそっぽを向くものの、やはり撫でられる感覚が心地よいのか口元がにやけるのが我慢できなかった。




「おおっと、ディーテ。抜け駆けは関心しないなぁ」



 そんな二人の空間を邪魔するが如く、甘ったるい声が割って入ってくる。
 ザッと地面を擦る音を響かせて、土煙をあげながら姿を現したのは、金色の九本の尾を風になびかせる幻獣王ナインテールだった。
 じっと見据えてくる彼女の圧力に、自分が撫でられている事に改めて気づいたディーティニアは、慌ててキョウの手から逃れるように離れる。そして離れた後に、しまった―――言葉に出さずとも表情がそう雄弁に語っていた。


「まったくもって、油断も隙もないよねぇ。流石は獄炎の魔女」
「この場合その称号はあまり関係ないと思うのじゃが……」
「―――黙らっしゃい!!」

 慌てながらも冷静な突っ込みに、ナインテールはピシャリと言い返す。
 あまりの勢いに、反射的にディーティニアも口を閉ざすが、対する幻獣王は止まらない。

「折角、剣士殿と二人っきりになれると思ったのに、街に着いたらいきなり巨人王とのバトルだし。僕なんかアエロとガチンコのど突きあいだったんだよ? しかも気がついたら化け物染みた二人組みがいるしさぁ。僕なんかとばっちりで殺されそうになったし……それで、あっちの二人の護衛してたらキミが何時の間にか現れて剣士殿に撫でられてるとか。僕だって撫でられたいのに。うん、撫でられたいのにさぁ。なにさ、そんな色っぽい顔して。発情してるんじゃないよぉ。いいかい、僕だって撫でられたいんだからね!!」
「な、なんじゃ。よくわからんが、大変だったんじゃのぅ……う、うむ」


 後半からは支離滅裂な台詞になっているが、ガルルルっとディーティニアに威嚇してくるナインテールに、理不尽なものを感じつつ労いの言葉をかける。
 ようするに、ナインテールもキョウに撫でられたいと言うことなのだろうが、肝心の剣魔は明後日の方向を向いて我関せずの立場を取っていた。

 卑怯な、とも思わなくないが、頭の中でキョウがナインテールを撫でている光景を思い浮かべるとチクチクと胸に棘がさしたような痛みが襲ってくる。
 一体これは何かとも考えるが、あまり気分のいい感情でもなかった為、とりあえずナインテールの対処を先にして、考えるのは後へと回す。



「……ああ、ディーテ。立派になって。喧嘩できる友達もできたのですね」


 ギャーギャーと何やら言い争いを始めたディーティニアとナインテールの二人のちびっこ同士の争いを遠目に見ながら、ホロホロと喜びの涙を流す人物がいた。その正体は―――五大魔女の一角。流水の魔女ティアレフィナだった。
 彼女のすぐ傍にはシルフィーナと、自分の足で歩いているアトリの姿があった。
 顔色はまだ優れないものの、先ほどまでは誰かの肩を借りて歩いていたというのに、今はふらつきながらも自分の足で歩けていることにキョウは違和感を持つ。

 とりあえずちびっこ二人組みを置き去りにして、彼女達三人へと近づいていくと、そんなキョウに気がついたティアレフィナがほんわかとした笑顔で迎え入れる。

「あらあら。お疲れ様です、スメラギ様。簡単にではありますが、アトリから現状の話は聞かせていただきました。開いた口が塞がらないとはこのことですね。まさかお一人で、あの巨人王三体を相手に完勝されるとは」

 言葉とは正反対に特に驚いた感情一つ見せていないティアレフィナは、にこにこと笑顔を絶やさずにキョウを褒めそやす。
 一片の悪意も、嫉みも何もない。純粋な称賛に、キョウは慣れていないのか、頭を軽く下げるに留まった。
 そして軽く咳払いをしつつ、彼女に疑問をぶつけるために口を開く。

「その―――随分と速い到着でしたが」
「ああ、はい。実はこう見えて私はそれなりにツテがありまして。知り合いに頼んだら、ここまで特急で送って頂けたのです」

 キョウ達と然程変わらない時間で到着したことを問いかけると、何でもないようにティアレフィナがそう返答する。それに納得しきれないのか、キョウは内心で首を捻った。
 何故ならば、キョウが馬を飛ばしていたときに出会った避難民達はあれから程なくして街へと到着したことだろう。間違いなくパニックに陥ったはずだ。そんな中、巨人種達に襲われている渦中のこの街へと魔女二人を送り届ける奇特な人間などいるのだろうか、と。
 己の死すらも厭わない。そんな気概を持った人間などそうはいないはずだ。
 そのように感じた疑問に答えたのは、意外にもティアレフィナではなく、脇腹を押さえているアトリであった。

「多分キョウちゃんの感じている疑問はわかる。でも、ティアはちょっとアレなの。なんというか、熱狂的というか、その……狂信的な信者がいるの」
「狂信的って……。ひどいですよ、アトリ」

 ぷんぷんと怒っているのか怒っていないのか、全く持って不明なティアレフィナが反論するものの肝心のアトリは、ふっとそれを鼻で笑う。

「ティアは無償で大陸中の人の怪我を治して回ってるから。ティアのためなら命も賭けるって人はそれこそ星の数ほどいる」
「私としては、命を賭けてもらっても嬉しくないといいますか……困っちゃうんですけど」
「……なるほど。納得した」

 アトリの説明を聞いて、キョウは頷く。
 恐らくは、ティアレフィナに以前命を救われたであろう人物が、彼女達をこの街の近くまで連れてきたのだろう。アトリの言うように、命を賭けるというのは決して大げさでも何でもない。そこまでの恩を感じているということなのだ。


「それはそうと話は変わるが……アトリ」
「……うん? なに、キョウちゃん」
「怪我は大丈夫なのか? 一人で歩けているみたいだが」
「完治には程遠いけど。あっちあっち」

 チョイチョイと指でティアレフィナを指し示すアトリの行為が何か一瞬わからなかったが、ふとあることを思い出す。
 以前ティアレフィナのことを聞いたとき、魔女のなかでも治癒魔法を最も得意とするのだと。うろおぼえではあるが、記憶の片隅に埋まっていたそれを思い出し、もう一つの疑問も解決するのだった。


「まぁ、死ぬような怪我じゃなくて何よりだ」
「―――うん。有難う。キョウちゃんのおかげ」
「もう少し早く駆けつけることができれば、怪我も負わなくて済んだんだがな」
「ううん。命があっただけでもめっけもの。本当に助かったから。感謝してもしきれない」

 普段は常に眠たげな様子のアトリにしては、珍しくしっかりとした口調で、瞳をきらきらと輝かせて話す姿を興味深そうに窺っていたティアレフィナだったが、何やらピンときたのかアトリへと近づくと耳元に口を寄せ、何事かを囁いた。
 その瞬間、ボッと天雷の魔女の顔が真っ赤に染まる。まるで瞬間湯沸かし器のように、熱でもあるのかと勘違いしそうなほどに赤くなっていた。色白の肌をしている分、余計にそれが目立っている。

 その様子に、ティアレフィナは己の直感が間違っていないことを確信。
 我が子を見るかのような暖かくアトリを見守っていたが、何かを思いついたのかもう一度ヒソヒソとキョウには聞こえない程度の大きさで再度囁き始める。


 そんな二人に嫌な予感に襲われるキョウだったが、逃げるわけにも行かず些か居心地が悪く感じていたその時。


「あ、あの……これ、よかったら」


 震える声で差し出されたのは小さな水筒だった。
 差し出してきたのはシルフィーナで、キョウのことが怖ろしいのか、今にも泣き出しそうな表情でぷるぷると震えている。
 それでも勇気をだして渡していたのだから、無下にするのは悪いと考え、キョウはそれを受け取った。

「ああ。助かる。丁度喉が渇いていたところだったんだ」
「―――は、はぃ」

 こくこくと何度も頷くシルフィーナは、どこか小動物のようで可愛らしい。
 水筒を受け取ってもらえたのが嬉しかったのか、泣きそうな表情の中にも安堵が見え隠れしていた。
 蓋を外し、水筒に口をつけて中に入っている水を含む。冷たいとはいえず、温い温度だが、喉が渇いていたというのは本当で、渇きを潤すには持って来いであった。
 ゴクゴクと音を立てる勢いで飲み干していくキョウとそれを見守るシルフィーナ。

 そこに内緒話を終えたのか、アトリがちょこちょこと歩み寄ってきて―――。


「キョウちゃん、キョウちゃん」
「―――ん?」


 水筒を一気飲みしている最中のため、視線でアトリへ対する返答としたキョウだったが―――。



「ディーテが一号さん。私、二号さんでもいい、のじゃー」
「―――ごふっ!!」

 突然のアトリの言葉に、キョウが口に含んでいた水を咽ながら噴出す。
 彼の口から飛び出した水は、情け容赦なく傍にいたシルフィーナに降りかかる。頭の上から水浸しになったシルフィーナは―――予想通り涙目になりながら、ぷるぷると震えていた。 

「キョウちゃん。私、尽くすタイプ……なのじゃー」

 ごほっごほっと咽るキョウへと淡々と告げてくるように見せかけて、そこはかとなく頬を薄っすらと朱に染め上げているアトリ。
 そんな彼女の背後にてどこか満足そうに微笑んでいるティアレフィナが、少しだけ憎らしく思うキョウであった。




 













御感想御意見おまちしてります。
それと、もしよろしければですが。感想を書いていただける際に、好きな(お気に入り)キャラも付け加えていただけると嬉しいです。

+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ