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幻想大陸 作者:しるうぃっしゅ

三部 東大陸編

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四十三章 決戦2











 戦争開始から十二時間。プラダの街の南門にて。
 そこにあったのは―――半日が過ぎてなお、変化のない戦場だった。
 相変わらず減ったようには見えない、地平線の彼方まで続く黒の大海原。
 確実に数万の死者を冥土に送ってはいるものの、それでも死者の王の兵隊は尽きることなく進軍を止めない。
 彼らが厄介なのはその数だけではない。

 普通の人間―――それこそキョウがアナザーで相手をしてきた相手ならば、ここまで圧倒的な差を見せ付ければ逃亡するものも多かった。
 逃亡はせずとも腰はひけ、まともな戦いをすることも出来なくなったものだ。
 人間である以上それは当然であり、責める事はできない。
 だが、今キョウの目の前にいる死者は違う。彼らは意思を持たない。感情を持たない。
 それこそ最後の一体になるまで戦い続けるだろう。
 思考回路も残っていない死者は単純な戦闘力という点では生きていた時より低下している。少数ならばそれはマイナスにしかならないが、これだけの数を揃えた時点で恐るべき効果を発揮していた。

 
 この戦場において、カルラは自分が足手まといなことを十分に理解していた。
 傍から見れば、彼女の手は数千の敵を屠り、キョウ=スメラギの横で戦い続けることが出来ているのだから―――城壁の上から彼らを見守っている誰もがそんなことは思ってもいなかった。
 それでも、カルラは自分の無力さに心が押し潰されそうになる。
 一体何度横で戦っているキョウに命を救われたのだろうか。
 カルラよりも遥かに多くの敵を相手取っている剣士は、彼女に危険が迫ればそれを撃ち払う。しかもカルラに気づかせないように、自然と。キョウはカルラを責めはしない。叱りもしない。言葉も無く、彼女を救う。

 それに、カルラは既に数度の休憩を取っていた。
 戦場の空気。命のやり取り。永遠に続く死者の重圧。
 それらが彼女の体力を想像以上に削っていく。呼吸が乱れ、四肢が重くなり、思考も鈍っていく。
 そんな時に限って、キョウは声をかけてきた。後退して休め、と。彼の言葉に内心で安堵して、水の中にいるような鈍くなった身体をおして、後方へと下がり僅かな休憩を取る。

 多くの死者を打ち倒していながら―――それでも、カルラの心には鬱蒼とした感情が積もりつつあった。
 彼女の前にて決して退かぬ背中を見せ付けてくる尊敬すべき男は、未だ一度(・・)の休息を取ることも無く、ディーティニアを守護する無敵の盾として敵からの侵攻を防ぎ、最強の矛として蹴散らし続けていた。


 カルラの視線の先にて、長身の肉体が翻る。
 地響きをたてる強烈な震脚。アナザーにて生まれ、《操血》によって歪んだ愛情を注がれ育まれた一人の剣士。
 全身を包む黒い服が隠す彼の肉体が限界ぎりぎりにまで膨張し、手に持つ二本の長剣を操ることを可能とする。
 人を斬るためだけに育てられたキョウ=スメラギの肉体は、喜々として眼前に蠢く死者を斬り伏せていった。
 どれだけの敵がいようとも、彼を襲う敵がいるならば。彼が斬らねばならぬ敵がいるならば。

 より力強く。より速く。より華麗に。より確実に。

 キョウの斬撃は疲労しながらもなお―――彼の前に立つ敵の存在を許さない。


 牙を剥き、迫り来る怪異を前にして、両手に持つ長剣を振るう手を休めることなく、目に付く端からそれらを薙ぎ倒していく。
 如何に無限の軍勢であろうとも、同時にキョウへ襲い掛かってくる敵は精々数体が限度。
 それならば、彼にとっては動きの鈍い普通の死者ならば赤子を捻るような相手ばかりだ。
 銀閃が空を渡るたびに、時には頭を潰され、上半身を両断され、胴体を唐竹に叩き斬られる。

 その間、僅か二秒程度。
 斬った死者が地に伏して、塵と化すのと同時に新たな死者が歩み出す。
 そして時折―――。

 死者の軍勢の合間を縫って、新たな異形が姿を現す。
 普通の死者とは異なる、怪異。それは将軍級魔族であったり、巨人族であったり、魔獣であったり法則性は特にない。
 ノインテーターが節操なく自分の配下に加え続けてきたご自慢の兵士を投入してきているのだろう。

 キョウの視界から逃れるような機敏な動きで駆け回る黒い影。
 魔獣かとも思ったが、どうにも違う。他の死者など比べ物にならないほどの明確な邪悪さを撒き散らし、彼とディーティニアの身体に纏わり付いてくる。
 嫌な汗で背中を濡らすキョウへと、死者の間隙を縫って飛び出してきたのは―――彼が初めて見る種の怪物だった。

 もはや肉の一片も残っていない白色の骨のみで構成された異形。
 動く度にカラカラとまるで化生が笑っているかのような音をたてる。
 全身の骨格は人に酷似しているものの、細かい部分がどうにも異なっていた。全長にして二メートルを超える骨の怪物が、右手に所々欠けている剣を、左手には腐食しかけている盾を持ち、躍りかかってくる。

「―――スケルトン? いや、人ではない? まさか―――」

 四体からなる骨の怪物の剣が四方から振り下ろされる。
 僅かな遅れも無く見事な連携で、キョウの頭と胴と足と手を狙ってくる研ぎ澄まされた剣撃。
 防ぐか避けるか。一瞬の躊躇いが彼の心に浮かび上がった。

「気をつけるのだ、キョウ!! そやつ、白色の騎士(ロード)と呼ばれるかいぶ―――」

 キョウからの返事はなく。
 ザッパンっと奇妙な響きが彼の返事となった。

 縦横無尽な骨の怪物の連携を、完全に見極めた剣士は一瞬の躊躇いを行動で取り戻す。
 左の剣で上空から飛び掛ってきた白色の騎士を左斜めへと叩き落すと、頭と胴体を寸断され砕き落とされた骨が左前方から迫ってきていた別の骨へと直撃し、僅かな遅れを作り出す。
 それと同時に右剣で、正面から突撃してきていた敵を右へと叩き弾く。上半身の骨を砕かれた相手は右から躍りかかってきていた四体目の敵へと四散して激突する。

 残された左右の二体は、たかが骨をぶつけられただけ。
 その程度で怯むこともない。恐れることも無い。
 だが、それが生み出した零コンマ一秒の遅れが、死神の二刀を飛翔させるには十分な時間であり―――。

 キョウに向かって放たれていた二本の剣はかいくぐられ、股下からの切り上げが木片を砕くような音を響かせて、白色の騎士を両断するに至った。
 次いで振られた剣の腹が宙に浮かぶ骨を叩きつけ、前方の死者達へと流星群と思わせる速度で飛来しそれぞれの身体に風穴を開ける。

「……ワシの忠告が終わる前に片付けるとか、嫌らしいやつじゃのぅ」

 ぼそっと恥ずかしそうにディーティニアが背後で呟く。
 死してなお戦いに対する渇望を抱き続ける魔族の成れの果て。骨のみになってでも命を奪い続けようとするベルセルク。
 優れた速度と剣の技で生者を虐殺して回る死神を一呼吸する間もなく殲滅したことに、若干呆れたため息をつく。

「まぁ、死神としての()が違うわ」

 右手を振り払い、放たれた炎の連弾が、キョウの前方の死者を焼き尽くす。
 さらにもう一度今度は天空からの炎の雨を降らし、周囲一帯の死者の息の根を止める。

 ディーティニアによって作り出された空白の十秒で、深呼吸を繰り返す。
 まだまだ余裕そうに見えるキョウだったが、相棒である獄炎の魔女は気づいた。

 彼にも疲労の色が見え始めたということに。

 いや、そもそも今頃になって漸く疲労が出てきたということ自体がおかしい話だ。
 太陽の角度から考えて戦闘から既に十二時間を少し超えた程度の時間は経っている。
 その間、カルラもいたとはいえ―――実質一人で死者の軍勢の猛攻を防ぎ続けてきた。
 そんなことが出来る人間をディーティニアとて知らない。魔法も使わず、特異能力(アビリティ)も使用せず―――それでなお大地を埋め尽くす大軍勢を前に一歩も退かない。
 疲労が出て当たり前だ。当然だ。

 ディーティニアはガリっと奥歯を噛み締めた。
 どうするべきか、必死になって思考を纏める。ここからどう動くべきか。
 一端プラダの街の中に逃げて体勢を整えるべきかとも考えたがそれは危険だ。
 正面から戦えるこの状態だからこそ拮抗を保つことが出来ている。もしも、城壁を乗り越えられ街の中に侵入されたら。流石に打つ手がなくなってしまう。    

 ならばキョウが言っていたように全力で不死王の首をとりにいくか。
 それもまた危険と隣りあわせだ。前方に広がるのは未だ減ることが無く、底を見せない死者の群れ。
 そこからノインテーターを探し出すのもまた一苦労。王位魔法を持ってすれば死者を薙ぎ払い道を作ることも可能とはいえ、それはつまり底の見えない敵の中にキョウを放り出すことに等しい。
 ディーティニアもともにいけば活路は開けるのだろうが、彼女の身体能力では間違いなく足手まといになる。幾らキョウとはいえ常にディーティニアに注意しなければならない状況で、それこそ四方八方から襲われれば長い時間は持たないだろう。

 目まぐるしく思考を繰り返すディーティニア。
 機を待てと言ったものの、果たしてそれが何時来るのか。本当に来るのか。待ち続けて良いのか。それならば可能性にかけて全力が出せる今のうちに一か八かに賭けた方が良いのではないか。

「―――機は来るさ」

 思考の迷路に陥っていたディーティニアに声をかけるのは呼吸を整えたキョウだった。
 ハっと見上げれば、何時もと全く変わらない彼の横顔が映る。

「安心しろ。ようやく、身体が温まってきたところだ。あと一週間でも戦い続けられるぞ」

 軽口を叩くキョウだったが、それを証明するように進撃を開始した脅威を剣で叩き斬る。
 攻撃する暇さえ与えない嵐のような連斬が、彼の前に立つ敵をことごとく塵へと変えていった。 
 キョウなりの慰めだったのだろうか。それでも、まるで彼の言葉が真実であるかのような心強さがディーティニアの心に染み渡る。

炎槍の連撃(フレイムジャベリン)!!」

 天に掲げた手の平の上に精製された巨大な幾つもの槍が、振り下ろすと同時に前方の敵達を貫き、焼き払い、蹴散らしていく。大地を削る破壊音が鳴り響き―――。

「……全く。格好つけおって……」 

 爆発音に紛れて、ディーティニアがぼそりっと小さく呟いた。
 言葉とは別に、先程まであった悩みは一掃され、普段の彼女の表情を取り戻している。
 迷いを捨て、キョウの背後に立つ小さな魔女は覚悟を決めた。一か八かに賭けるのではない。
 自分達の目的を為すためには、ここで死ぬわけにはいかないのだ。
 ならば必ず来るはずの、流れを変える一瞬を見極めねばならない。

 それまでは、この状態を維持しよう。
 確固たる決意を決めたディーティニアとキョウ。
 そんな二人を祝福するように―――その時はきた。

「だから、ちょっと!! あがらせてって!! これ届けに来ただけだから!!」
「いや、危ないですから!! ちょ、駄目駄目!! 誰かとめてくれぇええ!!」

 南門の内側から聞こえる女性の声。
 どこかで聞いたことがあると眉を顰めた、キョウ達の耳に―――人間を薙ぎ倒す音と悲鳴が届く。
 石段をかけあがっていき城壁の上まで駆け上がってきたのはフリジーニだった。

 彼女は壁の上から身体を乗り出し、眼下に広がる光景を見下ろして息を呑む。
 ここまでの死者の数に驚きながら、それでも未だ戦い続けている目的の人物を見つけて目を輝かせた。

「いた!! いた!! ごめん、遅くなって!! ようやくできたよ、キミの武器が!! キミだけの刀が!! キミのための一刀が!!」

 背後から警備兵によって連れ戻されようとするが、それらを無理矢理振り払い、胸元に抱いていた黒鞘の刀を頭上に掲げた。
 寝食惜しんで打ち続けてきたというのに、彼女には疲労の後は見られない。
 まるで我が子を自慢する母親のように、両手で刀を握り締め。

「さぁ、受け取れ!! キョウ=スメラギ!! これが私の最高傑作!! 後にも先にも、並び立つことは無い至高の一品だよ!!」

 歓喜の声をあげながら、十メートル以上離れた眼下で、見上げているキョウに向かって両手に持っている刀を投げつけた。
 放物線も描かずに、一直線に投げ飛ばされた黒鞘に納まった刀が剣士へと迫り、それを許さぬとばかりに襲い掛かってきた死者へと二振りの長剣を投げつけ背後の敵ごと貫いて止める。
 空手となったキョウは、後ろも見ないで右手を軽く振れば―――彼の手にはまるで最初からあったかのように黒鞘の刀が握られていた。
 それはまるで何十年もの付き合いを感じさせるほどに手に馴染む。

「その刀に銘は、ない!! 私がつけるべきものじゃないからだ!! ソレはキミの、キミだけの刀!! キミの分身だ!!」

 両手と身体を背後から警備兵によって掴まれて安全な場所へと連れて行かれようとするフリジーニは、それでもまだ叫ぶことを止めはしない。

「私が打って、キミが使い―――そんな私たちをユエナが結んでくれた最高の刀だ!! だからこそ、キミが名付けろ!! その刀に相応しき銘を!!」

 喉が破れんばかりに叫び続けるフリジーニに対して、キョウは右手で柄を握った刀をまじまじと凝視していた。
 不思議な刀だ。何故かわからないが、自然とそう感じた。手に取っただけで―――これが自分とともに生涯を歩み続ける真の一刀なのだと心が理解している。

 清浄な風が一陣。
 腐臭漂う空気をかき消した。
 生者へ対する飽くなき憎悪が腐った肉体を動かす原動力となっていた死者の群れが、どこか恐れたかのように歩みを遅らせる。

 パチンっと鯉口を切った。

 そして―――。

「―――俺の前に立ち塞がる全てを、俺とともに斬り払え。行くぞ、《小狐丸》」

 次の瞬間―――渦巻く死者の群れが音も無く霧散した。
 黒鞘から抜き放たれた白銀の輝きが、一瞬十斬。
 疲労の果てを感じているというのに、キョウの動きは生涯最速となる領域に確かに達した。
 手には僅かな抵抗もなく、小狐丸は死者を断ち切る。
 これまでキョウの全力に耐え切れなかった武器達とは違い、彼の全てを受け入れながら刀身は喜びに満ち溢れる様を証明するかのように、美しく照り輝く。
 ただの剣士が無限に蠢く死者の海原を切り裂いた。

 彼の動きを見切れたものはこの場にはいない。
 ディーティニアもカルラも、まるで幻をみたのかと思わせるほどの斬撃だった。
 閃光にしか見えないキョウの剣閃に、ぶるりと背筋を震わせる。
 その輝きに追従するかのように、空が金色に煌いた。

「―――雷撃の雨(ライトニングレイン)

 感情を乗せない淡白な言霊が一言。
 天空に打ち上げられた数十の雷矢が、雨のように降り注ぎ、キョウへと再び殺到しようとしていた死者を貫いていく。
 どこか懐かしい―――そして、まさかと思いながら背後の城壁の上を見上げれば、そこには金髪のエルフの姿。
 眠たそうに目をとろんっとさせた少女が、ふらふらと上半身を揺らしながら立っていた。

 予想外の人物の登場に、ディーティニアが目を見開いて―――。

「アトリ、お主何故ここにいる!?」
「……や、お久し。ディーティニア」
「う、うむ。久しぶりじゃな。いや、それよりお主何故ここにおるんじゃ!?」
「……先日たまたま寄った所だった」
「それならもっと早く出てこぬか!!」
「……寝てたから仕方ない」
「ね、寝てた!? この、どんだけ寝るのが好きなのじゃ、お主は!!」

 突然現れた金髪のエルフ―――天雷の魔女アトリと怒鳴りあいを始めたディーティニアだったが、一方のアトリは怒鳴られているというのに、ふぁっと欠伸をしている。
 それに再び怒鳴りつけようとするも、無駄だと悟った獄炎の魔女は落ち着かせようと深呼吸を何度も繰り返した。

 その後ろでは、寝ることに関してはお前も人のこと言えないんだが―――とキョウが呟いていたのは幸か不幸か、ディーティニアの耳には届いていなかった。

 アトリと叫んだ名前を聞いて首を捻るのはキョウ一人だ。
 どこかで聞いた名前なのは確かなのだが、いまいち思い出せない。
 記憶を辿りながら、迫ってきていた死者を小狐丸で薙ぎ払う。全くといっていいほど手応えもなく、敵を両断できる切れ味に一種の感動さえ覚えていた。

 そんな時、再び上空から雷の矢が降り注ぐ。
 今度は死者のみならず、キョウに目掛けて金色に輝く矢が落ちてきて、慌てて身をよじることによって紙一重で回避する。
 一瞬肝を冷やした彼がアトリに一言告げようとするよりも速く、ディーティニアが城壁の上にいるアトリを指差して。

「アトリィイイイイイイイ!! お主、キョウを狙ったな!? 焼き尽くすぞ、この小娘が!!」

 冷静な仮面を脱ぎ捨てて、ディーティニアが怒鳴り散らす様子に唖然とする警備兵や探求者達。
 それを気にする余裕もなく、獄炎の魔女の様子に少しだけ驚いたのか手に持っていた弓を後ろに隠し、明後日の方向を見上げて吹けない口笛を吹いて誤魔化そうとする。

「……手が、滑った?」
「何故に疑問系じゃ、こら!! 魔法に手が滑るも何もないじゃろうがぁ!!」
「いや、だって。その人が不死王じゃないの?」
「はぁ? 何を言っておるか? どこをどう見たらキョウがノインテーターになる?」
「……え? だって、その人ここから見える範囲で一番やばくない?」
「まぁ、それは……否定できぬが!!」

 ギャーギャーと騒ぎ立てるディーティニアとアトリを背後に、一人戦い続けるキョウ。
 いや、体力が回復したカルラが申し訳なさそうに隣でともに戦い始めた。

「……第一私はノインテーターの顔を知らない。だから、間違えても仕方ない」
「死者と戦っているんだから仲間なのはわかるじゃろうが!!」
「……今来た所だからわからないし。それにきっとその人とノインテーターと一緒にいても区別つかないかも?」
「だまらっしゃい!! キョウの方が一万倍格好いいに決まっておろうが!!」
「……え?」
「……あっ」

 シーンと静寂が周囲一帯を包み込んだ。
 自分が何を言ったのか理解したディーティニアが顔を引き攣らせ―――そして、顔を真っ赤に染める。

「……ふーん。へー。そーなんだ」
「ちが、違うのじゃ!! 違う違う!! 違うから!! 絶対に違うから!! 本当に違うから!!」

 無表情ながら、どこか面白そうに若干口元に笑みを浮かべたアトリに対して、ディーティニアはあわわっとパニック状態に陥っていた。
 立場が完全に逆転した二人の様子を、やはり茫然として眺めている警備兵達。

「あのディーティニアが……これは他の三人にも伝えないと駄目かな」
「ちょ、待て!! 待つのじゃよ!! た、頼むから!!」

 南門まで駆け寄っていくと、ガンガンっと門を叩きはじめる。
 アトリっと悲壮な叫び声が轟く。幾度か門を叩いていたディーティニアだったが、ハっと何かに気づいてしまったのかギギギと壊れた機械のように首を動かしてキョウの方角を向く。

 小狐丸を横一閃に閃かせ、数体の死者を断ち切ると、上空から舞い降りてきた飛竜の奇襲を容易くかわし、再度空に飛翔しようとした飛竜の頭を真っ二つに両断した。
 アトリとディーティニアが怒鳴りあっている最中でも休むことなく戦っていたのだが―――そんな彼に申し訳ないと思うよりも。

「ち、違うのじゃぁ……キョウ、違うのじゃ!! い、いや……違うが違うのじゃ!!」
「……もうわけがわからん」

 頭痛がしてくるのを感じながら、視界を覆わんと迫り来る死者を切り払う。
 手に持つ小狐丸のおかげか、感じていた疲労が消し飛んでいた。身体中が刀を振るたびに疲れるどころか、逆に肉体のキレが増していく。
 瞬く間に数十の死者を屠りさったその時。

「―――雷刃の爆砕(サンダーブレイク)

 ディーティニアを弄くるのに飽きたのか、矢をつがえていない弓を構え―――気がつけばその弓には金色の刃が引き絞られていて、片手を離せばキョウの前方に広がる死者の軍勢に雷の刃が着弾し、爆砕。
 地面が抉れ、死者が吹き飛ぶ。百体以上の敵を滅ぼした魔法を放ったアトリは、フっと鼻で笑いながらその光景を見下ろしていた。そして未だ、違うのじゃーと力なく呟いているディーティニアへと視線を送ると。

「……遊んでないで働く」
「……そ、そうじゃな……」

 何時もであったら、お主が言うなと言い返していただろうが、生憎と今のディーティニアにそんな余裕があるはずもない。
 パチンっと頬を叩いて気合を入れなおすと、獄炎の魔女は城壁の上で援護をしているアトリを見上げた。

「お主が来てくれたのは、有り難い。すまぬが王位魔法で奴らを蹴散らすのを手伝ってくれ。お主と二人がかりならば……不死王のもとまで辿り着ける可能性が高い」
「……うん、了解。でも、誰が不死王を倒すの?」
「それは勿論―――」

 二人の視線が前方で戦い続けるキョウの背中に突き刺さる。
 戦闘を継続しながらもきっちりと聞いていた彼はそれに手をあげて答えると小狐丸を目の前で振り切り、前傾姿勢を取った。

「では、行くぞ。アトリ、先手はお主に譲ろう」 
「……ほいほい。じゃ、行く―――」

 突然言葉を途中でとめると、アトリは魔法を詠唱するでもなく遥か西の方角へと視線を向ける。   
 その方向をディーティニアも釣られて見てみるが、生憎と城壁の上に立っているアトリほどの視界の高さがあるわけでもなく、死者の軍勢しか見えなかった。

「のぅ、アトリ。一体どうした?」  
「……王位魔法はもうちょっと待った方がいいかも」
「うん、お主何を言っておるの―――」

 パキィリ。

 ディーティニアの言葉が喉で詰まった。
 彼女の前で、世界が凍っていく。比喩ではなく、現実に―――目の前にいる死者達を凍らせていった。
 西の方角の大地が、生命の輝きを無くし始め、群がる死者を氷像に変えていく。
 地上を分厚い氷雪の闇に閉ざしていき、数百どころか千を軽く超える死者を動かぬ氷の内部へと固めた。

「……なんだ、これは?」

 戸惑いを隠せないキョウが、突如巻き起こった異常事態に驚きながら―――それでも手を休めることなく死者を二度と目覚めない眠りへと落としていく。
 カルラもまた、下がった周囲の気温にブルリっと身体を震わせて、唖然と西の方角を見つめる。

「―――砕けよ」

 凛、とした美声が不思議とこの場にいた者達すべての耳に届く。
 それを合図に、ピキリっと氷像に皹が入る。それが一つ、二つ、三つと数多く、大きく広がっていき―――ドンっと大地を震動させる轟音で粉々になって砕け散った。
 パラパラと氷が散る様は、視線を釘付けにするほどに幻想的な光景だ。
 ごくりっと意識しないで、唾液を嚥下したカルラがぽっかりと開いた西の方角を見つめた先には。

「―――お主もきたか、小娘め」

 ディーティニアの嬉しそうな、それでも苦渋が僅かに混じった呟きが漏れた。

 西の方角。
 死者達から見れば斜めの傾斜となった上方にて、バサリっと旗をはためかせる騎士団。
 全身を金属の鎧で包んだ千人からなる精鋭部隊。《七剣》第四席ライゴウにより直接指導されている神聖エレクシル帝国の中でも群を抜いて鍛え上げられた一騎当千を為す騎士達だ。
 各々の手には長槍が握られていて、自分達を遥かに凌駕する敵数を見ても、怯む様子は誰一人見られない。

 そんな千の騎士の前に立つのは四人の戦士。

 《七剣》第四席。鬼人族のライゴウ。
 《七剣》第五席。人間のアールマティ。
 《七剣》第六席。人狼族のアルフレッド。

 そして―――。



 神聖エレクシル帝国最強の矛。
 絶対無敵。絶対不敗。絶対最強。
 単騎で戦争の勝敗を覆すことができる、魔法戦士。

 《七剣》第一席。ハーフエルフのアルストロメリア。








 今ここに勝敗を決定付ける転機が訪れた。








意外としっかりと読んでくれている方がいて感動。
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