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四十九

作者:心楽
夏のホラー2009参加作品です。感想、評価待ってます!
 僕の兄は大学生で、人を驚かすのがとても好きな人だった。
 大学の大事な講義や会社の面接を休んでまで、僕や家族、友達を驚かせていた。
 時には、三階から傘を開き庭に飛び降りて、リビングでくつろいでいる家族を驚かせようとし、両足の骨を折った事もあった。
 僕が何故そんなに人を驚かすのに人生まで費やそうとしているのか、と兄に聞いてみたら兄は即座に
「俺が人を驚かすのは、その人の人生に刺激を与えるためだよ」
と言った。
 そして兄はニヤリと笑うと僕に言った。
「驚いたか?」
 それに対して僕はニヤリと笑い言った。
「笑える」
 これは僕と兄だけのいつものコミュニケーションだ。
 僕が驚かせれたらいつも兄が問いかけていて、いつの間にか僕も『笑える』がお決まりの答えになっていた。
 そんな楽しい兄が、一ヶ月前に交通事故で死んだ。
 原因はドライバーの不注意によるものだった。
 やりきれない思いを抱え葬儀を終えた僕達家族は明るい日差しを失ったかのように意気消沈していた。
 その日から、僕は高校から帰る時に足音が一つ、増えているのに気付いた。
 こちらが早足になると足音も早くなり、同じ間隔を保つように付いてくる。
 最初はストーカーかと思ったが、僕はある日後ろを振り返って見てしまった青白い顔に落ち窪んだ目をした、生前の快活さを失った兄の顔が電柱から覗いているのに。
 それからずっと兄は後ろに着いてくるんだ。
 しかし、今日は違った。いつもの同じ間隔を保つ足音でなく、明らかに近づいて来ているんだ。
 後ろを振り返ると兄は四つん這いになって僕に追いつこうとしてくる。
「うわぁぁぁぁぁあ!」
 情けない叫び声を上げて僕は走った。
 が、兄はドンドン速くなって僕との差を縮めてくる。
 兄との間が二メートルにまでなった時、僕の体力は限界に近づいていた。
 その時、家が見えた。
 最後の力を振り絞り、全力で走ると鍵を一生に一度ぐらいしか出来ないほど早く開けた。
 すぐさま、開けたドアに滑り込み、鍵を閉めてドアに背を預けてヘナへナと座り込む。
「助かった〜」
 異常な量の冷や汗をかきながら部屋に戻りベッドに寝転び、ホッと一息ついた瞬間、

バンッ!

 窓が叩かれる音がして、振り返り窓を見る。
 するとそこには赤い手形がついていた。
「あ……あ……」

バンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッ!

 音ともに凄まじい数の真っ赤な手形が窓に付いていく。
 するといきなり音は止んだ。
 僕は恐怖でどうすることも出来ず、ただベッドの上に座り込み、じっと窓を見ていた。

ドチャ!

 気味の悪い音ともに兄の顔が窓に張り付いていた。
 歪んだ鼻、腐ってぶら下がっている顔の肉、乱れた髪の毛、瞼の肉がなくなった剥き出しの目。
 その目が何かを探すように部屋の中を見渡し、僕と目が合い、兄は不気味な笑みをした。
「うわぁぁぁぁあ!」
 僕は大声を張り上げ部屋から出ようとするが、ドアの向こう側から押さえつけられているのか開かない。
 その間にも兄はガラス窓を破ろうとするかのように窓にぶつかってくる。
ドチャ! ドチャ!
 と嫌な音を立てながら。 体から気持ち悪い汗をかきながら、僕は泣き叫んだ。
 すると、
「どうした〜?」
 父の声とドアをノックする音がした。
 慌ててドアを開けようと力を込めると、いとも簡単に開いた。
 転がるようにして外に出ると父が驚いた顔をして立っていた。
「どうした?」
「あ……兄……兄貴が」
 父の問いに震える指で窓を差したが、そこには赤い手形も変わり果てた兄の姿もなかった。
「窓が……どうかしたのか?」
「違うんだよ! 今そこに兄貴がいたんだよ!」
「バカなことを言うな。智則は死んだんだ」
「本当なんだ! 信じてよ父さん!」
 高校生にもなって情けない話だが、僕は泣きながら父に今までのことを語っていた。
 それを聞いた父の顔はほとんど信じてないようだったが、僕の必死さに押されたのか次の日、知り合いの霊能者に相談する事になった。
 次の日、僕は父の車に揺られて、その霊能者に会いに山を登った。 山の上には古びた神社があり、その前で一人の老女が待っていた。
「こんにちは」
 見た目の割に元気な挨拶をされたのに驚きながらも僕も挨拶を返し、神社の中に入れられた。
 神社の中にはもう準備がされていたのか、しめ縄が真ん中に張られ、それを囲むように巫女服の女性四人が一つ空席で、円になって座っていた。
「さっそく、始めましょうか。しめ縄の中に入って真ん中に座って下さい」
 と巫女服の女性の一人が言った。
 僕がしめ縄の真ん中に入ると老女は空席になっていたところに座り、僕が聞き取れないくらいの早口で、ぶつぶつとお経のようなものを唱えだした。
 他の四人も呼応するようにお経のようなものを唱えだした。
 一時間は経っただろうか、突然周りの空気が重苦しくなった。
 異変に気付いた老女達は声を張り上げ、お経を唱えだす。
 すると、ズズッズズッと上から物音がしたため、見上げると天井の板を外しながら顔を覗かせる兄がいた。
 外見は日が経つにつれ、酷くなっていってるようだ。
 兄は板を外し終えると、そこから蛇のようにぬるりと抜け出て、ゆっくりゆっくり逆さまのまま僕に手を伸ばし近づいてくる。
「ヒッ!」
「動くな!」
 悲鳴を上げ、しめ縄から出ようとしたが老女に一喝され、座ったまま兄が近づいてくるのを待つしかなかった。
 だんだんと近づいてくる。
 ポトリッポトリッと兄の体液が落ちてくる度、しめ縄から出そうになるが、それを頑張って堪える。
 涙がこぼれ、鼻水も出てくる。
 今の僕の顔はとても汚いことになっているだろう。 しかし、近づいていた兄は突然動きを止めると、まるで巻き戻しのように天井に戻っていき、板を閉めた。
 呆然と兄が出てきた天井を眺めていると、何かが倒れる音がした。
 音のする方を見ると老女が倒れていた。
 巫女服の女性が一斉に老女に近づいていくが、老女はそれを手で制し、僕の方を見て立ち上がる。
「今日はここで寝なさい。明日、話をしよう。ワシは疲れた」
 嗄れた声で老女は言うと巫女服の女性達に支えられ部屋を出ていった。
 数分すると巫女服の女性が布団を持って現れた。
 女性は僕に布団を渡すとすぐに部屋から出ていく。
 まだ夜にはなってないが、どうせ起きていても何もないだろう。
 今日は寝よう。
 布団を敷き、そこに横になって目を閉じた。





 僕は眩しい朝の日差しで目を覚ました。
 頭を掻いて、二度寝でもしようと布団に寝転んだ時、襖が開き老女と両親が入ってきた。
「良く眠れたか?」
「まあ、一応」
 そういえばあんなことがあったのに、普通に眠れてしまった自分に驚きながら答える。
「そうか。ああ、そうだ。もう縄から出てもええぞ」 僕の答えを聞きながら老女は微笑んだ。
 僕はしめ縄から外に出て、両親の隣に座った。
 横一列に並んだ僕達家族の前に老女は腰を下ろす。
「兄はもう出てこないのでしょうか?」
 一番気になる事を老女に尋ねる。
 老女は渋い顔をして口を開いた。
「あれを除霊するのは無理じゃ」
 僕の希望が……消えた。
「他の霊能者の方でも無理でしょうか?」
 母が身を乗り出して老女に言うが、老女は首を横に振る。
「ワシが出来んのだ。他の誰も出来ん。あれは怨みが大きすぎる」
「……そんな」
 母は口を両手で覆い、父は青ざめた顔で膝の上に置いた拳を握りしめている。
 僕はと言うと呆然とした顔をしてるに違いない。
 何で僕が兄に怨まれなければならないんだ。
 昔から仲良し兄弟で通っていたのに、仲が良いと思ってたのは僕だけなのか。
「だが、逃げる方法はある」
「何ですか!?」
 視線を落としていた僕達家族は顔を上げ、老女の方を見る。
「あれが死んでから何日経つ?」
「一ヶ月と一週ぐらいです」
 毎日、兄の遺影に手を合わせる母が答えた。
「四十九日じゃから、後二週。後二週逃げ切ればもう安心じゃ」
「何でですか?」
 率直な疑問だった。
 怨みを持っているなら四十九日でいなくならないだろう。
 僕が死ぬまでこの世に残り続けるんじゃないのか?
「あれは確かに怨みが大きいが、まだ、悪霊になっていないからの。悪霊にならん限り四十九日で終わりじゃ」
「まだ悪霊になってないだけで、悪霊になる可能性はあるということですよね?」
「まあ、そうじゃな。しかし、二週逃げ切ればいいのだ。後、ここに居ても他の霊もお前に寄ってくるかもしれんから家に居なさい」
「分かりました。どこに居ても一緒何ですか?」
「そうじゃ」
 なら、学校も普通に行くか。
「ありがとうございました」
 そう言って両親が立ち上がったので、僕も立ち上がり部屋から出ようとすると、僕の手が皺だらけの手に掴まれた。
 びっくりして振り向くと老女だった。
「これをやる」
 そう言うと懐から、御守りを取り出した。
「これは霊を遠ざける効果がある何時でも持っておれ」
 老女は僕の手に御守りを握らせ、その手を両手で包みこむ。
「頑張りなされ」
 老女の優しさに感謝を抱いた。
「ありがとうございます」 僕は礼をすると、車の方に走って行った。








 それから兄はほとんど現れなくなった。
 もし、現れても御守りを握ると、苦しそうな顔をして何処かに消えて行くのだ。
 そして、僕は四十九日目を迎えた。
 学校も終え、帰っていると足音が聞こえた。
 振り返ると兄がいた。
 もう隠れる気はないのか、堂々と歩いている。
 もう顔の皮は全てはがれ、剥き出しの目でこちらを見ている。
 身体全身の肉が腐っており、所々肉が完全に腐り落ち、骨が見えている。
 こんなのを見ても僕はもう慣れてしまったのか、余り恐くはなくなった。
 僕が走り始めると兄も四つん這いになり駆ける。
 段々距離も近づいてきたが、いつものことだ。
 この手の中にある御守りを握れば兄は消える。
 ギュッと御守りを握りしめて走り続ける。
「えっ! あれ!」
 何度も御守りを握りしめるが、兄はいなくなる気配はない。
「何でだよ!」
 御守りを握りしめながら走るが兄は段々と速くなる。
 が、家が見えた。
 助かった。
 急いでドアの前に立ち、鞄に入れてある鍵を取り出……せなかった。
 鍵が鞄に無い。
 いつも鞄に入れてあるのに今日に限って、無い。
「父さん! 母さん!」
 ドアを叩くが一向に出る気配はない。

ヒタッヒタッ

 後ろから兄が手を前に出し、ゆっくりと近づいてくる。
「来るな! 来るな!」
 兄が近づいくにつれ辺りに腐敗臭が充満する。
 僕は両手で御守りを握りしめる。
 しかし、兄は近づいてくる。
「……あっ……あっ」
 口から音が漏れる。
 兄は僕の顔に両手を添える。
 僕は実の兄に殺されるのか?
 何で僕何だよ!
 理不尽だ!
 涙や鼻水が顔から溢れ出す。
 誰でもいいから助けて!
 兄は僕に顔を近づける。 僕の鼻先に兄の変わり果てた顔がある。
 削げた鼻、頭髪も半分くらいは抜け落ちて、口から腐敗臭が溢れ出している。
 兄は剥き出しの目で僕と目を合わせる。
 終わった。
 諦めて、僕が目を閉じた時、
「お……どろ……いた……か?」
 兄が喋った。
 僕が目を開けると、兄の変わり果てた顔は笑ったような気がした。
 その瞬間、兄は頭から砂のようになっていき、風に吹かれて消えた。
 呆然としている僕の後ろで、ドアが開く音がした。
 振り向くと、いつも鞄に入れてある鍵を右手に持った父が立っていた。
 苦笑しながら父は言った。
「悪かったな」






 次の日、僕は兄の遺影に手を合わしていた。
 死んだ日からあんなことをしていた為、絶対に兄の遺影に手を合わせるかと思っていた僕が手を合わせている。
 手を合わせる理由は、結局今までのは全て兄の手の込んだイタズラだったのだ。
 兄は死んだその日に父と母の夢に現れ、弟(僕)
に何が起こっても心配しないでくれ、お願いを聞いて欲しいと言ったそうだ。
 そのお願いの一つが、僕の部屋まで兄が出た日の前の日に、次の日弟(僕)の部屋のドアを外から押さえて欲しい、静かになったらドアを開け、近い内に霊能者の所へ連れて行って欲しいと言ったそうだ。
 そして、老女にこのことを電話で言うと、やはり老女もグルだった。
 老女が言うところによると、あの除霊中に兄が現れ、老女と巫女服の女性達に理由を話したらしい。
 それに老女と巫女服の女性達に乗り、素晴らしい演技力で兄がまるでとても強い霊のように仕立て上げたのだ。
 老女が渡したあの御守りには霊的な能力はまるでなく、あの晩に適当に作ったらしい。
 最後に頑張れと老女が言ったのは、僕ではなくて隣に居た兄に言ったらしい。
 兄はそれに親指を上に向け答えた。
 老女は笑いながら話していた。
 それから少し経って、四十九日目の一日前、四十八日目に両親の夢に出て、最後のお願いをして、今までありがとうと兄にしては珍しい月並みのセリフを言って消えたらしい。
 そしてその最後のお願いとは僕の鞄から鍵を盗って欲しいということだったと両親は言っていた。
 結局知らなかったのは僕だけで、皆は兄のイタズラに加担しているグルだった。
 死んでなお、兄は両親の夢に出たり、初対面の霊能者に堂々と話したりと、色んな意味で人を驚かしながら、僕に僕の人生最大の刺激という名の驚きを与える為準備を整えていたのだ。
 僕一人を驚かせる為にここまで手の込んだことをやるなんて、全く。
「笑える」
 遺影に笑いかけると、鞄を持ち学校に出掛けた。
 もちろん鞄に鍵はちゃんと入っている。

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