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姫様とオムライス

作者: きらきら星


これは「交流サイト 小説喫茶企画」の企画作品です。

 俺は十数時間持ち続けた鉛筆を机の上に転がした。明後日の高校初のテストのためノートと教科書を相手に終わりのないにらめっこを続けてきてついに俺が折れたのだ。明日は休日だがここで無理をしては意味がないと判断した。そう言えばかっこよく聞こえるだろうか。

 朝からカーテンを閉め切っていたので、今何時か分からない。時計は秒針の音が気になり起きた時間で止まっている。カーテンを開けると暗闇と星空が広がっていた。

 昼食も取らずにらめっこをしていたせいでいきなり空腹がお構い無しに襲ってきた。

「とりあえず、夕食だな」

 カーテンを閉めようとした時、流れ星が見えた。

 咄嗟に俺は……。

「うまい飯が食いたい!」

 と、叫んだ。もちろん、三回も言えることなく流れ星は消えていった。

「馬鹿らしい」

 俺は呟き、確実にある美味しくない夕食を食べに部屋を出た。


 キッチンには両親の置手紙とカップラーメンが置かれていた。

『誠君へ。パパと旅に出たくなりました。2ヶ月ほどで帰ります。探しても無駄ですよ。お昼ご飯はそれを食べてください。夕飯は冷蔵庫に入っています。貴方の大好きなママより』

 俺は置手紙を丸めてゴミ箱に投げ入れた。両親のぶらり放浪の旅は今に始まったことではない。もう慣れたものだ。

 期待もせず冷蔵庫を開け夕飯を見た。そこには、同じカップラーメンが入っていた。

「本気で星に願った方がよかったかもしれないな」

 ピンポーン。

 常温保存か冷蔵保存かどちらを食べるか悩んでいるとお客が来た。今この家には俺しかいない。それに、こんな夜に俺を訪ねてくるような物好きもこの世界にいないだろう。そもそも、空腹の俺はお客の相手をするほど暇ではない。だから、諦めて帰ってもらいたい。

 ピンポーン。ピンポーン。ピン、ピンピンポーン。ピン―――ポン、ピンポン。

 癇に触る呼び鈴の連打に少し苛立ちを覚えたが、ここで出てしまったら負けだと思った。教科書には負けたがこの挑発的な客には負けたくなかった。

 ピンポーン。ドン、ドドドドン、ドンドンドン。

 ついにドアの破壊に挑み始めたようだ。この場合、警察を呼べばいいのだろうか。すると、一旦静まりよからぬ音がした。

 …………ガチャ。……バタン。ゴソゴソ。……タタタタタタタタ。

「い、今開いたよな。それに、勝手に入ってきたよな。しかも走ってる」

 姿が分からない侵入者に対する恐怖より、鍵をかけずに旅に出た両親に怒りが生まれた。ルーズな両親のせいで俺に身の危険が迫っているかもしれないのだぞ。

 俺は近くにあったお玉を手にした。こんな物で対抗できるなど思ってはいない。だが、何か持たないと落ち着けなかったのだ。

 唾を飲み込むとキッチンの扉が開いた。そこにいた侵入者は女の子だった。

 歳は同じぐらいで、黒く長い髪と日常見ない服装をしていた。

 その服装は、ピンク色の薄手の着物で、この暑くなり始めた季節には着苦しそうなぐらい大きかった。彼女の腕を隠し、足も完全に包み隠してもなお引き摺るほどだ。さらに、首に掛けているのは透き通る薄いピンクの羽衣だ。異様な格好だが彼女の白い肌と美しく愛くるしい顔にとても似合っていた。

 彼女に見とれていると指を指された。彼女の顔は不機嫌ですと言っている表情をしていた。

「呼ばれたらすぐに出なさい。やり直し」

 彼女はそれだけ言い残すとキッチンを出て行った。

 ゴソゴソ、……ガチャ。……バタン。一息おいて。……ピンポーン。

 彼女は本当に初めからやり直していた。このまま無視していたら同じ事を繰り返すのかどうか興味があったが、彼女が何者なのかの方に興味が湧き丁寧に接することにした。

「はーい。今出ます」

 玄関を開けるとまたしても不機嫌そうな彼女がいた。目を閉じていた彼女は出迎えると同時に目をあげ俺を睨みつけた。

「53秒。遅い。やり直し」

 そして、無理矢理扉を閉められた。また一息おいて、ピンポーン。

 彼女は完璧主義者か何かなのだろうか。だら、これ以上付き合うのは疲れるのですぐに出た。すると、今度は少し微笑んだ彼女がそこにいた。

「迅速な出迎え感謝する」

 三度目でようやく彼女に認められた。彼女は漆塗りの下駄をそろえて家に上がった。周囲を見渡すと彼女はその場で膝を着いて頭を下げた。

「夜遅く失礼を承知で参りました。安眠を妨げることをお許しくださいませ」

 急に下手に出た彼女に対して、俺もその場に正座をしてしまった。

「いえいえ、って、分かっているなら」

「貴殿ではない。後ろにおられる家主様に言っているのです」

 親父はいないはずだと思いながらも振りかえった。もちろんそこには誰もいなかった。

「ところで、お前は誰だ」

「お前とは失礼なおのこだ。我のことは姫様と呼ぶとよい」

 彼女はナルシストなのだろう。自分で自分のことを様とは。

「姫……さん。ですね」

「姫さんではなく、姫様です」

「……姫様」

「何ですか。庶民の子」

五十嵐誠いがらしまことです。何しに来たんですか」

「庶民の子の名前など興味がありません。そうですね。では、仕事といたしましょうか」

 すると、彼女は懐から筒状の紙を出してきた。その紙を賞状のように広げると彼女はそこに書かれていることを棒読みで読み始めた。

「貴方は、現日本時間の午後10時25分ごろ、流れ星に『うまい飯が食いたい!』と願い事をしました。なので、それを叶えに参りました」

 姫……姫様は、それを筒状に戻し俺に渡した。それより、いつまで玄関で正座をしていなければならないのだろう。

「本来、その程度の願いなど聞いている暇など無いのですが、最後に『馬鹿らしい』と屈辱的なことを言われたので、今回だけ特別です」

「いえ、結構です。それより、貴方、不審者……ですよね。今警察呼ぶので大人しくしていてください」

 自分はただ呟いたつもりだったのだが、外まで聞こえていたのかと少し恥ずかしくなった。

 本気で警察に電話をする気はなかった。ただ、その素振をすれば慌てて逃げ出すだろうと思っていた。だが、姫様は手櫛で黒髪をすいているだけで脅えることもしていなかった。

「別に構いませんよ。貴方にその勇気があればですから」

 受話器を持ち上げた所で俺は止まった。上手く言えないのだが、彼女はこのような状況に慣れているようだ。そうでないのなら、こんなに積極的に乗り込んでこないだろう。

「52人」

「何の人数ですか」

「我を警察に突き出そうとして、逆に捕まった男の数」

 黒いオーラを含んだ笑みを浮かべた彼女は、着物を着崩して白い肩を見せた。

「男など信用されておらぬよ。我が涙を浮かべて『今宵ばかりと拒む私を無理矢理……』と、呟くだけで男はいなくなるものよ。よいか、庶民の子。この世には、勝てぬものがあるのよ」

 姫様は口元を隠してクスクスと笑っていた。

「では、どうしたら帰ってもらえるのでしょうか」

「うぬ。物分りのいい男は嫌いではない。上手い飯とやらを我直々に作りに来てやった。案内せい」

 つまり、夕飯を作ってくれて、それを食べれば満足して帰ってくれるとそう言う事か。それぐらいならと俺は簡単にキッチンへ案内した。


「ふむ、ろくなものが無いの」

 姫様はキッチンに入るなり冷蔵庫を開けた。次に、鍋や包丁の準備。その動きは手馴れていて、実績がありそうで少し期待できた。姫様は食材等の確認を済ませると土鍋にお米を入れて炊き始めた。

「で、何を作って欲しい。分かっていると思うが、ろくなものが無い。無理を言うなよ」

 俺はお湯さえ準備してもらえば十分なのだが、白ご飯がある前提でそれを聞かれると困る。最も早く調理が済みそうなものを考えたが、頭の中にある料理が浮かんだ。それは、素直に女の子に作ってもらいたいと思っているものだった。

 別に姫様にいてもらっても困らない。ただ疲れるだけだ。それなら、美味しいものを作ってもらいたい。と、ここに来て心が少し揺らいだ。

「じゃあ、オムライス」

「ほう、意外と可愛いものを頼むのだの。分かった。しばらく待て」

 そして、姫様は俺に背を向け土鍋だけを見つめていた。だが、それ以外に何かしそうな気配が無い。普通なら下ごしらえをするのでは?と、疑問を抱いてしまいある結論が出そうになった。それを確かめるためにある質問を試みた。

「姫様。よろしいでしょうか」

「なんだ。庶民の子」

「『料理のさしすせそ』をご存知でしょうか」

 姫様は少し空を見つめていた。そして、自信ありげに振り返った。

「もちろん。料理にとって大切な順番だろ」

 姫様は軽く咳払いをしてそれを言い始めた。

「砂糖と塩を間違えても」

 調味料だと言うことは分かっているようだ。

「失敗だと諦めず」

 ポジティブなのは悪いことではないよな。

「酢を入れてみましょう」

 それは料理の失敗の原因だな。

「青春の味がしてきます」

 甘酸っぱい味。間違ってないような気もするが……いや、間違っている。

「それでも駄目なら最終手段。潤んだ瞳で殿方を見つめて『これ、貴方のために初めて作ったの。食べてくれる?』と言いましょう」

「姫様。それをどこで聞いたんですか。初耳なんですが」

「何を言う。21世紀はこれになったことを知らぬのか。後々教科書もこれに書き換えるのだぞ」

 そんな日本になってはもう終わりだと思う。

「なに、冗談だ。安心しろ、毒を作ったりはせぬ。ところで、庶民の子。親は何処だ」

「ああ、旅に出た。当分帰ってこないな」

「子を置いてか。出稼ぎか」

「いや、ただの趣味。よくあることだ」

 すると、姫様は冷蔵庫の中を再び見たり、床を軽く撫でたり、俺の服を見てきた。そして、哀れみを含んだ瞳で見つめられてため息を吐かれた。

「食事も駄目。掃除も駄目。服はしわだらけ。お主一人では大変だろう」

「そんなことは無いぞ。飯はコンビニやインスタントで済ませられるし、掃除はごみ捨てぐらいならするし、服は洗濯機で十分。だから、たいへ……」

 言い終える前に姫様に頭を撫でられた。恥ずかしくなってその手を払いのけてしまった。

「お主、強いの。強い男は嫌いではないぞ」

 しばらく考えた姫様は、腰に手を当て大きく頷いた。

「よし、庶民の子。我をこの家に住まわせろ」

「あの、話の流れが分かりませんが」

 姫様は手で俺の声を遮った。

「いや、いい。皆まで言うな。我の一種の興だ。哀れな庶民の子の面倒を看てやると言っているのだ。そうと決まればご両親に一言言ってこなくてはな」

「な、何言ってるんだ。それじゃまるで結婚みたいじゃないか」

「うぬ。今の日本ならそういわれても遜色ないだろうな」

「そんなに簡単に決めていいのかよ。まだお互いのことをよく知らないのに」

「ふむ。なら主は恋人から始めたいというのかの」

 恋人。そう言われて姫様を落ち着いて見てみた。顔は文句の付けようが無いほど美人だ。体は着物でほとんどが隠れているが、それでもスタイルは悪くないと分かる。

 姫様を彼女にしたら絶対に自慢できるだろう。性格は付き合い始めてからお互い理解し合えばいいと思う。

「できれば、その方が」

 欲深いな俺。いや、本能に正直なのか。こんな綺麗な女性に言い寄られて、断れるはずがないだろ。

「そうか。では」

 すると、姫様は俺の顔を両手で挟み押さえ動けなくした。そして、目線を無理矢理合わせられた。すぐ近くには姫様の顔がある。お互いの息が分かるほどの距離だ。

「ひ、姫様。何を」

「恋人になったのだ。この状況ですると言ったら……。主も男なら分かるだろ」


 ピンポーン。

 鼻先は触れたが唇まで行かなかった時、姫様はピタリと止まった。躊躇と喜びの狭間にいた俺は姫様に言われるまで呼び鈴に気付かなかった。

「客人だの。早くで迎えるのが礼儀だ」

 離れてゆく姫様の顔を見ると、落ち着くためのため息を吐いた。少し心の中でがっかりもしていた。それが分かったのか姫様は笑っていた。

「心配せずともこれから幾度の夜が来ると思っている。それに、……我にも恥じらいぐらいある」

 姫様は赤くなった顔を伏せた。俺も、たぶん赤くなっているであろう熱い頬を軽く叩いて玄関へ向った。


 玄関の扉は既に開けられていてそこには男性が一人いた。

 黒く新品の革ジャンとはき崩されたジーンズ姿で、俺より頭ひとつ分背が高い大人な男性だ。赤く染められ逆立てている髪を見ると怖いと思うが、彼に似合っていて悪くは無かった。

 その彼の後ろには、エンジンが動いたままのハーレーが止まっていた。あれに乗る彼は十分絵になると思った。

「夜分邪魔をする。ここに姫と名乗る女が来なかったか」

 見た目に反して礼儀正しかった彼は姫様を探しているようだ。

「いますけど……兄妹ですか」

「夏彦」

 彼が答える前にキッチンから姫様が出て来た。夏彦は姫様を見るなり少し微笑んでいた。だが、姫様は頬を膨らませていた。

「姫。探したんだぞ」

「今更、何しに来たの。あんたなんかもう知らないんだから」

「悪かったって。姫は待たせられるのが嫌いだったよな」

 姫様の頭を撫でようと手を出した夏彦だったが、姫様に叩き落とされてしまっていた。

「悪かっただと。一年も待たせて、悪かっただと。そんな軽い言葉で許されると思っているの」

「だから、悪かったって。な、そんなに怒るなよ」

「!」

 夏彦は姫様の頬に軽く触れた。だが、体を強ばらせて肩を揺すった姫様は夏彦の頬を叩いて離れ、俺の腕を抱いて密着してきた。

「夏彦には悪いけど、これからはここで暮らすから。もう、来ないで顔も見たくない」

 放心状態になっていた夏彦だが、徐々に目の前にいる俺を見て状況がわかってきたようだ。そして、怒りと諦めを含む矛盾していて複雑な表情をしていた。

「少年。そうなのか」

「い、いや、それは……」

「そうなの。もう、子を作る約束もしたんだ。だから、夏彦は帰れ!」

 俺が説明しようとしたが、姫様が先に答えてしまった。夏彦に殴られるのを覚悟していたが、俺の頬に当たったのは夏彦の大きなため息だった。

「そうか。それならしょうがないな。少年、姫を幸せにしてくれよ」

 夏彦は背を向けて家を出た。彼はハーレーに乗るとこちらを見て何かを投げた。それを姫様が両手で受け取った。姫様が両手を広げるとそこには銀色の安っぽい鍵があった。

「昔みたいにいい生活ができるとは約束はできない。それに、姫に苦労をかけてしまうかもしれない。だけど、姫に孤独で寂しい思いをさせたくない。そう思って、一緒に暮らそうと思ったんだが……その必要ももうないんだな。その鍵は姫が処分してくれ。俺にはもう必要ないものだからな」

 夏彦がヘルメットをかぶろうとすると、夏彦に姫様が抱きついた。

「また、一緒に暮らそうって本当」

「ああ、本当だ。姫にその気があるならの話だが」

「でも、お父様達は……」

「親父達なんか殴ってきてやった。俺達の恋愛に口出すなって。例え、相手が神だろうと人だろうと姫を悲しめる奴は許さない。それが俺のプロポーズだったの覚えているだろ」

「夏彦……」

 二人は強く抱き合っていた。そして、俺と姫様ではできなかったあれをやっていた。


「さて、少年。悪いが姫は返してもらうぞ」

「ええ、どうぞ」

 夏彦の声には相手を脅そうとする要素が含まれていたが、俺は怯むことなく簡単に答えた。

「未練も何も無いといった感じだの。少しは引き止めてもらいたいものだ」

「引き止めると夏彦さんに殴られそうなので。それに……」

「それに。何」

 詰まった俺に姫様が不思議そうに聞いてきた。この時、俺の頭の中には言いたいことが二つあった。だけど、意味が正反対のその二つの言葉のどちらを選ぼうか悩んでいたのだ。

 悩んだ俺は目の前の二人を見た。二人でハーレーにまたがり、笑顔でお互いの顔を見合っている。姫様の笑顔と着飾らない言葉、それを見て俺の選択は決まった。

「それに……二人とも、とてもお似合いの夫婦なので。俺なんかに姫様はもったいなさすぎますよ」

「おう。俺の方が姫に合うって言うのは素直な少年だ」

「うぬ、素直な男は嫌いではないぞ」

 笑顔で二人に答えると、二人も笑顔で走り去っていってしまった。


 キッチンに入るとカップラーメンの隣に白いおにぎりが二つ置かれていた。のりも何も無いただの塩結びのようだ。

 俺はカップラーメンにお湯を注ぎ待ち時間の間おにぎりにかぶりついた。

 予想通り、中に具は何も入っていなかった。炊けたご飯を塩のついた手でただ握るだけの簡単な料理。失敗の少ない料理。すぐに作れる料理。すぐに願い事が叶う料理。すぐに姫様を追い返せる料理。すぐに一人になれる料理。

「はは、こんな時に食べるおにぎりは、しょっぱいものだと思っていたんだがな」

 音のしないキッチンで一人でおにぎりを食べている。

 相当慌てていたのだろう。土鍋はシンクに乱暴に投げ入れられている。冷蔵庫にはのりも梅干もあった。お米にも芯が残っていて食べられるギリギリだ。

「あの馬鹿姫様。慌てたからって、これは無いよな……酷い味だ」

 俺は、甘くてじゃりじゃりとするおにぎりを味わいながら一人で食べていた。



 ピンポーン。

「誰だよ。こんな朝早くに」

 俺は眠い目を半分閉じながら客人を出迎えた。すると、癇に障る偉そうな声が聞こえた。

「何度言ったら分かるのだ。遅い。やり直し」

 そして乱暴に扉を閉められ、一息おいてピンポーン。

 俺は目の前の現実を早く確かめたくて慌てて出迎えた。

「迅速な出迎え感謝ずるぞ」

「なんで姫様がいるんだよ。昨夜の感じだともう再会できないって空気だったのに。また、夏彦と何かあったのかよ」

「庶民の子が心配することではない。ただ、夏彦を懲らしめるためだ。今晩世話になるぞ」

 姫様はまたキッチンに入った。

「オムライス。作ってやるからそこで座っていろ」

「姫様」

 今度の姫様はエプロンを持参してきたようでそれを着けて振り向いた。

「うぬ、なんだ。庶民の子」

「おはようございます。昨夜はおにぎり、ありがとうございました」

 俺は座ったままだが頭を下げた。すると、姫様も照れくさそうに頬をかいていた。

「うぬ、感謝と礼儀を知っている男は嫌いではないぞ」

 目の前に笑顔の人がいる。こんな朝を迎えたのは数ヶ月ぶりだと思う。



 これは、後になって分かった話だが、姫様が来た日の丁度一年前の7月7日の夜は大雨が降ったそうだ。そして、姫様が来た日。あの日の天気は雲ひとつ無い晴天。織姫星と夏彦星は一年越しの再会をした七夕の日だったそうだ。


時期外れの作品でしたでしょうか。

初のラブコメ?を目指しているうちにいつもの暗い恋愛物に……。

読んでいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] うぬ、素直な男は嫌いではないぞ。姫が素敵。 はじめまして速水詩穂と申します。 まず、姫が素敵。そうして会話のテンポが読みやすかったです。小説、と言ったら描写もある程度必要かと思いますが、なん…
[一言] こんにちは、Merlinです。全部読ませていただきました。 些細なことから始まったこの物語。姫様の正体があの織姫とは・・・^^;夢にも思いませんでした。 っていうか姫様、大胆ですね〜^^;見…
[一言] なんだかどこかで見たような話でした。 両親の留守中、夜中にインターフォンが鳴っても出なかったのが不思議です。 両親が出かけていると知らずに訪ねてきたのかも知れないですし、 近所の人が回覧板を…
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