どこでもない屋根の上。夜闇に紛れて空気のように佇む人影があった。
その者が纏うは、言うなれば弱者を圧倒する強き存在感を放つ純白の白衣でもなければ内に秘めた底知れぬ智謀を隠さんとする漆黒のスーツでもない。
彼が羽織っているのは、夜風に吹かれればそのまま抗うことなく掻き消されてしまいそうなほど儚げで淋しげな輝きを零す、銀色のマント。
月光に照らされたマントの布地は細やかに煌めいているのに、その光は星などではなく涙のような憂いを帯びてただ小さく瞬くだけだ。だからなのだろうか、そのマントに身を包んだ金髪碧眼の青年も、とても悲しげな顔をしていた。
「『異例者』……君は傾いたままの天秤を、どうやって水平に戻すつもりですか?」
『愚者』を名乗る青年は静かに独り言を呟く。独り言故にその言葉は誰の耳にも届くことなく夜の帳に溶け、何の意味も持たぬまま沈む。そして彼自身もまた夜風に乗って姿を消す。
銀マントの青年がそこにいたという痕跡は、涙の粒ほどにも残らない。
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