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第一部
異変/追究 (3)
 自宅にいるときと変わらぬ冷淡な雰囲気を漂わせながらぼんやりとバスに揺られていると、不意にポケットの携帯電話が小刻みに振動した。この振動リズムはメールではなく電話だ。
 面倒だと思いつつルキトはとりあえずケータイを開いてみる。画面には友人である『()(むろ)(りゆう)()』の名前が。
 今はバスに乗っている最中だし、何よりも朝っぱらから会話するには些か億劫な相手である。しかし彼の性格上こちらが電話に出ない限り延々に鳴らし続けそうだったので、ルキトは手短に通話を終えることを前提に仕方なく電話に出た。
「……もしもし?」
 限りなく低いテンションで言う。すると返ってきたのは真逆の調子だった。
『よぉルキト! 今どこだ?』
 底抜けに明るくてひょうきんな声音。ルキトは鼓膜に軽い痛みを感じつつぼそぼそと答える。
「どこって、バスの中だけど……」
『もう学校に着くあたりか?』
「いや、まだ半分ぐらい……」
『ならちょうどよかった! 途中で降りて土手の方に来てみろよ! 面白いものが見れるぜ!』
「なんだよ、面白いものって……」
 リュウヤの言葉は意味深だったが、実際のところ面白かろうが面白くなかろうがバスを途中下車してわざわざ土手まで赴くという時点でルキトの心は既に拒否の方向に向いている。外は真夏の太陽によってじりじりと照り返っているし、炎天下の徒歩は極力避けたい。
 しかしリュウヤは声に含みを持たせて巧みにルキトの意識を引き寄せる。
『お前と、そしてあの蝙蝠(こうもり)先生が目を付けそうなヤツだよ。そこまで言えばだいたい想像つくだろ?』
「セオが目を付けそうなヤツ……?」
『相変わらず鈍感だなぁ、るっきーは。まぁ来てみりゃ分かるって! それじゃあ土手を越えた先の河原のあたりで待ってるからなー!』
「いや、ちょっと待っ……」
 用件だけ伝えて一方的に電話を切るリュウヤ。
 ルキトの望み通り通話は手短に終わったが、これは悪い意味での手短だ。ルキトの意見が全く挟まれていない。
 ルキトは腑に落ちない顔でケータイを閉じ、ポケットにしまう。と同時にバスが土手付近の停留所に差し掛かった。何とも皮肉なタイミング。
 ルキトはしばし考えた後――結局バスを降りた。セオが興味を抱くかどうかは知らないが、リュウヤが目を付けたのならそれ相応の意外性と驚きは保証される。しかし当のルキトは日頃から意外性と驚きを追い求めているわけではないので、ささやかな好奇心だけを胸にとぼとぼと土手への道を歩んだ。
 クーラーの効いた車内とは違って、外はやはり暑い。今年の夏は平均気温が高く長引きそうだ。
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