ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
第一部
見つける/秘める (4)
 部活に所属している生徒は各々の活動場所へ向かっていき、そうでない生徒は三十分も経てば一人残らず学校から去っていく。下校を告げるチャイムが鳴った後に生徒が取り得る行動は大概そのどちらかだが、ルキトの向かった先は部活棟でもなければ昇降口でもなかった。
 帰りのホームルームが終わってしばし座席で待機し、生徒たちが程よく散開したのを見計らって教室を出る。階段を下り、一階の廊下を進み、辿り着いた先は校舎の一番隅の部屋だ。
 ルキトにとっては行きつけの場所、物理準備室。別名、セオの書斎。
 扉をノックをするとすぐに返事が返ってきた。セオは帰りのホームルームが終わると職員室に寄ることなくこの部屋に直行する。なので入れ違いになることはない。
「おや、ルキト君。帰らないのかね?」
 入室したルキトをセオは意外そうな顔で出迎える。
「今朝の話の続きをしようと思って来たんだよ」
「今朝の話? はて、何だったかな?」
 セオはわざとらしくしらばっくれながら紅茶を煎れる準備をしている。ティーポットに茶葉を入れてゆっくりとお湯を注ぐその仕草は、ルキトのことに構っている暇などないと言わんばかりに丁寧で慎重だ。
「クレーターのことを調べて、もし犯人がブレシスだった場合どうするか、あんたは今朝俺に訊いてきただろ? 一応ちゃんと考えてきたんだけど……」
「ああ、そういえばそんなこともあったねぇ」
 またもやわざとらしく閃き顔を作るセオ。
 この問題にルキトは半日も悶々と悩み込んでいたというのに、セオの方はまるで気に留めていなかったようだ。何だか釈然とせず、ルキトは拗ねるように唇を尖らせる。
「それで、答えというのは出たのかね?」
 ライティングデスクの椅子に腰掛けてじっくりと紅茶を蒸しながらセオは改めてルキトに顔を向ける。
 ルキトは気を取り直し、小さく頷いて口を開いた。
「俺は――ブレシスと話がしたいと思う」
 ――ぽつりと零れたルキトの言葉(こたえ)
 セオは見開いた目でルキトを見つめ、ルキトは唇を噤んでセオの反応を待つ。
 水を打ったような静けさが室内に過ぎり――
「ふふっ……ははははは!」
 セオが堪え切れずといった様子で豪快に吹き出した。
 ルキトは恨めしそうに黒スーツの男を睨みつける。
「あのさ……俺は結構真面目に言ったつもりなんだけど」
 真剣に考えて出した答えをこうも無遠慮に笑われるとは、怒るのを通り越して逆に羞恥の念が込み上げてくる。
 ルキトがいじけるように黙り込んでいると、ひとしきり笑いを堪能したセオがようやく息を整え終えた。
「いやいや、失敬失敬。あまりにもキミが面白かったので、ついね」
「俺は別に面白いことなんて言ってない……」
「そうだね、ははっ、その通りだ。ブレシスとお話がしたい、か。うむ、いいじゃないか、キミらしくて。はははっ」
 賛同しながらも肩を震わせるセオ。完全に小馬鹿にされている。
 虫の居所が悪かったので、ルキトは早急に話を進めることにした。
「で、どうなんだよ。力を貸してくれるのか?」
 すぐには答えず、セオは時間をかけて抽出した紅茶を小洒落たティーカップに丁寧に注ぐ。湯気と共に立ち込めたアップルティーの芳香を瞼を細めて味わい、一口啜って舌鼓を打ってからようやく口を開く。
「――いいだろう。今夜にでもそのクレーターを調査しに行ってみようではないか」
 セオは案外とあっさり承諾する。
「俺の答えに納得したのか?」
「納得もなにも、それはキミ自身が考えて出した結論なのだから、私がどうこう口を挟む必要はない。私がキミに要求したのはあくまでも今回の調査の目的と動機だからね。内容に関してまで正誤の判断を下すつもりはないよ」
 もっともらしい口調で語り、セオは緩やかに紅茶を啜る。どうにも煮え切らない気分だったが、とりあえずこれで先に進めそうだ。
小説家になろう 勝手にランキング


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。