昼休みの学生食堂。
大勢の学生たちで賑わう学食の隅っこで細々と昼食を摂っていたルキトは、完全に上の空だった。
「なぁ、ルキト」
ラーメンをズズズと啜りながら、ルキトは呆然とした顔で虚空を見つめている。食事をしている行為すら忘れている様子。箸を動かす手も機械的だ。
「おい、聞いてるのか?」
二度目の呼び掛けでようやくルキトは我に還った。正面に座ってカレーを食べていたリュウヤの存在を再認識する。
「ん……なに?」
「『なに?』じゃねーよ。朝からずっとその調子じゃねーか」
スプーン片手に呆れるリュウヤ。ルキトは落ち込むように目を伏せる。
「……考えてたんだよ。セオから言われたことを」
「いや、まぁそうだろうけどさぁ。いくらなんでも悩みすぎだろ。ブレシスじゃないオレが言うのも悪いけどよ、そんなに難しい問題かね?」
そう言って暢気にカレーを掻き込むリュウヤを睨み、ルキトは口を尖らせる。
「……簡単じゃないよ、そんなに」
セオからの質問に対する答えを――クレーターが出来た原因を調べ、もし犯人がブレシスだった場合どうするつもりかの結論を――ルキトはあれからずっと考えていた。しかし一向に答えが見えて来ず、ルキトは悶々としていた。
これだけ考えても分からないということは、もしかしたらルキトはリュウヤと同じようにただ単純な好奇心に突き動かされているだけなのかもしれない。そうでないとしたら、答えはルキトの心のもっと深いところに沈んでいるのかもしれない。
今朝、ルキトはセオの部屋から去る際に「また来る」と言ってしまった。それはつまり、今日中に答えを見つけて報告するという意志表示だ。プラス、ルキトなりの強がり。
しかしこの分では、不本意な報告になりそうだ。
「あのなぁ、お前はいつも深く考え込むクセがあるけど、必ずしもそれが正しいとは限らないぜ? 深いところに答えがあるなんて、最初から決め付けるなよ」
「……なにを言ってるんだよ?」
いきなり意味深なことを口走るリュウヤにルキトは怪訝な目を向ける。
リュウヤはスプーンをピッとこちらに向け、いつもよりも幾分真面目な顔を作って言った。
「潜って駄目なら浮いてみな。答えなんてのは、場合によっちゃ水面にプカプカ漂ってるモンだぜ」
「浮く……」
ルキトはリュウヤの言葉を頭の中で反芻する。彼の言いたいことは何となく分かる気がした。もっと単純に考えればいいということ。
ルキトが河原のクレーターを見て興味を抱いたのは、言わば直感的なものだ。だとしたら、クレーターに発起する事柄も同じように直感的な見解をもって捉えるべきものなのかもしれない。ルキトはそれに気付く。
「そ・れ・か・ら!」
再び黙考に突入しようとしたルキトを、すかさずリュウヤが引き留める。
「一人で考え込むんじゃなくて、オレにもちっとは相談しやがれ。何のためのリュウヤ様だと思ってるんだ、ええ?」
「……いや、リュウヤに相談しても境遇が違うからあんまり意味は――」
言いかけたところで、ルキトの口が止まる。端と何かを思い付いたような表情。
「あ……分かった」
ぽつりと呟くルキト。
「何が分かったって?」
「答え」
「えっ、マジかよ!?」
ルキトは頷きつつ、自分でも内心驚く。
あまりにも簡単で単純な答えだ。まさか本当に浅い場所に浮かんでいたとは。
しかしこれは紛れも無くルキトの答えだった。水面に浮かぶ破片を組み合わせた結果の形。ルキトが自分で完成させたのだから、ルキトにとっての真実の形であることに間違いない。
ルキトは立ち上がり、知らぬ間に完食していたラーメンの器を返却口に持って行く。慌ててリュウヤも後を追ってくる。
「待てよ、教室に戻るのか?」
「ああ。昼休みはもう半分過ぎてるから、放課後にでもセオのところに行ってくるよ」
「おいおい、その前にオレに教えてくれよ。お前が出した答えとやらをさ」
ルキトは歩きながらリュウヤを振り返る。一言で済む内容だったし、何よりもリュウヤの言葉のおかげで見つけることができたと言っても過言ではなかったので隠さずに教えることにする。
「俺は――」
しかし、すぐに言葉は途絶える。
後ろを向いて歩いたせいで、ルキトは誰かにぶつかってしまった。
「あっ……!」
ルキトはよろめくだけで済んだが――
「ッ――!?」
ぶつかられた方の女子はバランスを崩して床に尻餅をついてしまった。
ルキトはすぐに体勢を立て直し、慌ててその少女に右手を差し延べる。
「ご、ごめん……大丈夫?」
腰の痛みに顔を引きつらせていた少女は、次の瞬間、煮えたぎる怒りと敵意を剥き出しにしてルキトを睨み上げた。
「どこに目を付けてるのよ……ッ!!」
食いしばった歯から獣のような唸り声を漏らし、少女はルキトの手を打ち払う。
自力で立ち上がると、少女はルキトには一瞥もくれずに苛立った歩調で去っていった。
唖然とした顔で立ち尽くすルキトの傍らにリュウヤか追い付く。
「悪い悪い! オレが無理に呼び止めたせいだ。ごめんな!」
詫びるリュウヤを余所に、ルキトは少女の立ち去っていた方向をじっと見つめていた。
「あの人……誰?」
「ん? ……ああ、二組の御戸永憐だ。見てくれは悪くないが、あの通り跳ねっ返りな性格でね。男子も迂闊に近づけない女だよ」
見た目が云々というのはどうでもいいのだが、ルキトのクラスの隣の生徒だという情報には少し驚いた。
普段からあまり人と話さないルキトは他のクラスの生徒はもちろん、自分のクラスメイトの名前すら十分に把握していない。だからリュウヤの幅広い人物名鑑はこういう時に役に立つ。
「おやおや? るっきー、まさかエレンのことが気になるのか?」
ニヤニヤと面白そうに笑うリュウヤを無視し、ルキトは呆然とした顔のまま小さく呟いた。
「ミトエレン……」
彼女に叩かれた手の平が、剣山に刺されたようにひしひしと痛む。
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