平時の戦車
元々、外に出たのはパーティまでの時間を、観光で潰す予定だった。朝食はそれのついでだ。なので、朝食の次は観光だ。
『何処を見て回るのだね』
「決めてないのだよ」
『ではどうするのだね』
「・・・そこら辺をテキトーに?」
『それは観光ではなく散歩だな』
・・・観光と言っても、特に見て回る場所がある訳でもなければ、観光名所なんてものも知らないのだが。
今現在の場所は、サンドイッチ店から北西に進んだ場所。元々、サンドイッチ店は西に位置していた為、中央より西に、そして北進んだことになる。中央からは西北西の場所だ。
ここら一帯は農地ばかりで、見たところ三浦式だろう。多くの食物が実っている。
発展した現代、それも日本という極東に暮らす自分からしたら、この中世ヨーロッパ調な町並みは見ているだけで満足する。現代日本は、やはり日本であって、発展した今も、どこか和風な感じがする。だが、この街は和風のわの字が感じられない。洋風のそれである。その雰囲気、感触、居心地は、実に新鮮で飽きない。
それは、森の中で生活する彼女、エルフという種族にも同じ事である。
「あれは?」
『あれは売店だ。あそこで物品を売買するのだ』
「・・・あんなに大きいのに?」
『大きければ大きい分、扱う品種も増やせる。より多くの人が求める物を揃える事ができる』
「でも、あれだけ大きかったら、お金も一杯必要じゃない?」
『お金を用意する方法は何種類かある。稼いで集めたり、投資してもらったり』
「・・・私達とは規模が全く違う」
『もっと大きいものもあるぞ』
彼女は、人間の社会に興味が尽きないようだ。この世界、ゲームの中の世界の人間も、我々と同じ人間である。その発展の道筋も似たり寄ったりだ。
アスファルトではないが、石畳でしっかり舗装された道。ヨーロッパ特有の柱・梁と壁で支える木骨造の家々。水の出る蛇口。人々が手にする貨幣らしき円盤等々、現代を生きる我々にとっても、形は違うけれども、馴染み深いものが確かに存在していた。
「無料で使える施設もある」
『公共施設の事かな。あれは税で成り立っている』
「・・・税?」
彼女は実に勉強熱心だ。
『インテレッセ嬢、いっその事、ここで勉強しては?』
「べ、勉強?」
『人間の暮らしに興味があるのだろう?』
「・・・うん。興味、ある」
『なら、ここの教育施設に通う、というのを提案するよ』
「・・・考えておく」
教育は良いぞぉ教育は。知恵が国を富ませるからな!支配し易いからとかで教育しないのは全く持って駄目ですよマジで。
エルフがどのような国かは知らないが、エルフの国には無い事が、人間の国で学べる事だろうからな。逆また然り。エルフと人間との関係が良好に結ばれる事を願おう。
「それはそうと、貴方はどうする?これから」
『自分か』
そういえば、これからどうするかを具体的に考えていなかったな。この身では、何をしても不自由が付きまとう事だろう。擬人化のスキルがあればこの問題は解決されるが、不自由が薄れただけだし。
何をする、かー。これはゲームだし、何かを楽しむ、クリアする事が目的だろう。最終目標はサーバー同士のチーム戦だから、己を鍛えないといな。強くなりつつ、楽しめれば良い訳だ。
とどのつまりは、戦闘だ。戦ってれば強くなる。第一、自分は戦車だ。戦車は戦ってこそだ。戦う車と書いて戦車なのだから、戦う事こそが自分の進む道だろう。
『戦闘を続ける』
「なぜ?」
『戦う車と書いて戦車。ならば戦わねばなるまい』
「・・・そう」
次の戦いの為に。その次の戦いの為に。最後に待つ、サーバー戦の為に。
今のままでは到底足りない。確実に、鉄を裂き、穿ち、融解させる技が飛び交う筈だ。その戦場に、今の自分は相応しくない。より堅く、より駿足で、より強力でなければならない。
戦力も揃えなければならない。戦車は単独では駄目だ。数を揃え、統制し、その突破力を持って敵陣に風穴を開ける。ただ開けては意味が無い。塞がれないようそれを維持する部隊も必要だし、突破・防衛・侵攻を支援する航空部隊もしくは砲兵等の支援部隊も必須である。
これを成すには、組織を作るか、所属せねばならない。よし、見えてきた。何をすれば良いかが。
『この国を富ませれば、自分も・・・いや、”我々”も強くなれる』
この国で近代兵器を生産する。より強力で扱いが簡単な小銃や野戦砲を売り込み資金を手に入れる。それを源にして、生産体制の強化、新技術・兵器の開発を行う。これが取り合えずの目標で良いだろう。
『砂狐隊長の考えている事と似たような結果になったな』
武器を開発し、生産し、運用すると言っていた。ならば、自分の考えに共感してくれる可能性が高い。
『となれば、あそこに所属するが吉だな。駄目なら傀儡にすれば良い』
「心根が漏れてるよ」
『これは失礼』
組織に所属して、そこで戦車として動くことにしようか。
「何をするかは、決めたみたいね」
『あぁ。感謝する』
「私はただ聞いただけ」
『きっかけを与えてくれた。それだけでも十分だ』
「・・・なら頂いておくわ」
さて、やる事も決めたし、本来の目的である観光に戻るとしよう。
といっても、辺り一帯は畑ばかりだ。特に目に付くものがある訳ではない。
『インテレッセ嬢、次は何処を観光する?』
「何処、といわれても、ね」
『確かにな。自分も特に何かある訳ではない』
そうだねー。何かしら暇つぶししたいんだよなー。・・・そうだ、手伝いクエストでもするか。無償で。
『自分の都合に付き合ってもらって良いか?暇なので』
「・・・暇だしね。わかった」
『手始めに、そこの方のお手伝いをしよう』
「・・・え?」
『さぁ行こう。情けは人の為ならず、だ』
近づいたのは、沢山の作物を積んだ荷車を押す老人へ近づいた。
「何すれば良いの?」
『自分が引っ張る事を伝えて了承を貰い、縄を結ぶ。それだけだ』
「・・・わかった」
「ほっほっほ。ありがとう、お陰で楽が出来るわい」
「い、いえ。暇でしたので」
『自分が引っ張るだけだしな』
重いのは人間基準であり、戦車である自分からしたら軽い。いつも通りのペースでこれを牽引する。元々低速であるが、その速度は人間の歩行速度と大体同じなので、速すぎて物が落ちることもない。
「ここですね、縄を解きますので、待ってて下さい」
「ありがとう、お嬢さん。これはお礼じゃ」
「え、そんな私は特に何かした訳じゃ・・・」
「よいよい。これはわしの気持ちじゃからの」
「・・・わかりました。受け取ります」
「ほっほっほ。ありがとうのう」
ご老人の商品を納めている場所についた。どうやらここは卸売業を務める場所のようで、多くの食物が収められていた。
『もっと手伝いをすることにしよう。勿論無料でだ』
「・・・なにをしたいの?」
ご老人から貰った林檎を手にしながら、キューポラから応答するインテレッセ嬢。因みに林檎の数は2つであった。有難いがどうしようかな。
『手伝いをする事で印象操作を試みる。将来的な活動には、住民の協力が不可欠になるし、何より親しくなる事で多くの情報を取り込みたい』
「中々に、汚いというか、姑息というか」
『情けは人の為ならず、と言っただろう。情けは自分の為なのだよ』
「うわぁ」
此方は信用と情報を得る。相手は手伝って貰え、且つ対価は信用と情報なので実質対価が要らない。実にWin-Winな関係だろう。
因みに、欲しい情報は人々の暮らしや流行などの、一般的な情報であって、○○企業の秘密だったり、何処何処で闇取引がある、とかの情報ではない。
『そんな事より。その林檎は食べないのかね?』
「・・・食べて良いの?」
『一つ残しておいてくれ』
「食べれるの?」
『・・・食べれたら良いな』
アイテムボックスに入れておくとしよう。
あれから暫く、卸売業を中心に色んな所へ出向いた。大重量を運べる為、一度に大量の作物を運搬したり、金属等の重量物を多く運んだ。
特に金属関係は嬉しかった。金属の動く場所は工業が関わっていると相場が決まっている。お陰で、北側の重工業関係にも顔を出す事が出来た。そこでも、幾つか運搬のお手伝いをして、自分が危険ではない事をアピールした。
だが、だ。結果から言うと、この試みは失敗した。
「・・・美味しいけど、こんなに食べれない。それに扱えない・・・」
多くの料理とお菓子、装飾品、武器、防具に囲まれたインテレッセ嬢の姿が、砲塔の天板にあった。
そう、自分の目論見であった信頼の向き先が、自分ではなく、彼女に向かったのだ。
冷静に考えれば当然である。”お手伝いをする戦車の補佐をする少女”ではなく、”戦車でお手伝いをする少女”と、他者の目には映るだろう。当たり前だ。見た事も聞いたことも無いものに意思があり、それが手伝いをするとは思わないだろう。それよりかは、見た事も聞いたことも無い”道具”を扱う少女が手伝っている、という考えになる筈だ。
『まぁ、それでも情報は手に入ったし問題は無い』
「なんか、ごめんなさい」
『ならば、料理とお菓子は半分残してくれ。食べたい』
「あ、うん。わかった」
自分は食には目がないのだ。とくに甘味は大好きなのだ。
・・・食す為にも擬人化は必須か?
お久しぶりな匿名です。
最近とっても忙しいです。資格検定や大会へ向けた練習等々。毎日忙しいですわ。お陰で投稿ができなかったです。申し訳ありません。
・・・来年はこれに就職もしくは進学活動が必要なのか・・・嫌になる。
PCがやばいですねーえぇ。ゲームの起動がとても不安定です。インターネットや小説筆記には問題ないんですけどねぇ。何故でしょうか。
19日目昼