戦車の役目
後書きにステータスを追加しますた。
森に響くエンジンの音。それと甲高い鳴き声が響く。
「キキー」
「キキキー!」
「キキ、キキキキーッ!」
前進前進また前進、遮蔽物の所まで。時々振り返り、敵を伺う。投石の数から大体6~7匹だろうか。稀に木から木へと飛び移る茶色の影が見える。その影に目星を試みたが失敗した。どうやら発動に条件があるようだ。今の所、目星が成功したのは角兎とアサシンキャットのみ。一致している条件のは・・・全体が見えている、だろうか。いや、今考えるのはよそう。この猿を殲滅してからだ。
前進を続けていると、木々に変化が見られる。針葉樹の数が減っていき、スペースが広がっているのだ。そして減った針葉樹の代わり広葉樹が見られるようになってきた。いつの間にか南下していたらしい。
道中、後ろの猿以外のモンスターと出会ったが、基本的には無視した。走りながら撃った所で当たらないからな。あと集中力が途切れるかもしれないから手は出さなかった。ただ、目の前に現れたモンスターには申し訳ないがご臨終してもらった。蜘蛛のようなモンスターだったか、ぶつかると同時に緑色の体液が溢れ出たが、死ぬと同時にそれも消えていった。
前進を続ける。時々正面に現れる木々を右へ左へと躱す。そして避けた木に石が当たる。当たって弾かれ時々めり込む。中々の威力と伺えるが、装甲には無意味だ。稀に命中弾がでるが、装甲の薄い背面でも無力化に成功する。当たり所が良かったようだ。装甲が施されていないラジエーター部分に当たらない限り大丈夫だろう。
目の前の木々の向こう側に、広場のような場所が見えた。それと何やら炎の様なものが見える。そこへ向かって前進する。広場、それに炎が見えるという事は何かあるという事だろう。川だろうか、岩だろうか。もしかしたら人工物があるかもしれない。遮蔽物として使える物があればいいのだが。
木々を避け、遂に広場へ出た。
視界に入ったのは、剣や槍、杖で武装した緑色の人型と、武器が満載された荷車、そして手を縄で拘束された人型だった。
武装した緑色の人型は、色からも判るがとても人間には見えなかった。顔は人と言うには醜すぎた。身長は1m位だろうか。剣や槍で武装しているのは皮製と思われる鎧を身に付け、杖で武装しているのはローブを身に着けていた。共通しているのは、武器も防具も全てボロボロで薄汚れている、という事だった。
対し荷車に満載された武器はどれも汚れておらず、新品のように見えた。
最後に、手を拘束された人型。身に着けているのは、元々は服として機能していたのだろう。だが、今のそれは裾や袖が破れ、土で汚れていた。ボロボロの布切れのようなもの、と称する方が正しいと思えるレベルだ。膝や足、靴は土で汚れ、擦り傷が見える。恐らく長時間歩かされていたのだろう。
緑の人型は焚き火の回りに集中しており、荷車に2、拘束された人型の付近に3だった。拘束された人型は一箇所に集められており、緑色はそれが逃げ出さないように見張っているように見えた。とても疲れているのだろう、地面に座り込み、互いに身を寄せ合って怯えている。
焚き火の周りにいる緑の人型は座り込んで口元に何やら運んでいる。食事中か?ならばこの集団は休憩中なのだろう。休んでいる数は8~9だろうか?となると合計は13~14か。
このまま進み続ければ、拘束された人型へ突っ込むことになる。右の無限軌道を止め、左側のみ動かし続ける。すると右側にブレーキがかかり、左側だけが前に進もうとする。そのまま車体は慣性の法則に従って右方向へドリフト、滑るような軌道を描いていく。
軽い二号戦車の車体は中々止まらずに滑り続ける。土を舞い上げながら地面に履帯の跡を刻む。
滑り続けた二号戦車は焚き火の上に停車した。その際、緑の人型を吹き飛ばしたが、上手く吹き飛ばせたな。吹き飛ばされたそれらから緑色の体液が飛び散り、何やら折れた音が当たりに響き渡った。落下の際にも似たような音が漏れた。
自分の突然の登場に、辺りが静かになる。誰一人喋らず、無事な緑の人型も動けずにいる。猿も石を投げて来ない。誰もが現状に、頭が処理限界に達していた。ただただ、二号戦車の非力なエンジン音だけが唯一の音だった。勿論だが自分はその中に含まれてはいない。現状に至った原因は自分で、張本人だからな。
突然だが私は戦車である。戦車の役目の内の一つに、歩兵を守る、というのがある。歩兵では突破が困難な敵の防衛陣地というのは、機銃や野砲が大量に配備されており、歩兵の突破は困難である。もしこれに歩兵が突っ込めば、瞬く間に機銃に薙ぎ倒され、野砲に吹き飛ばされる。
戦車はその歩兵の代わりに突撃し、敵の攻撃を一身に受け止めるのだ。戦車は歩兵では突破困難な目標へ矛となり、歩兵では耐えられない攻撃に対する盾となるのだ。
また戦車に限らず、歩兵や砲兵を含めた”軍隊”の目的は、国民や非武装の民間人を守る事である。つまり、少々強引だが戦車の役目は国民や民間人などを守る事も目的といえるだろう。
そして、その守る対象にこのようなモンスターは含まれない。
・ゴブリン
緑色で人型のモンスター。繁殖力が高く、また多種族の雌を孕ませる為驚異的な繁殖力を誇る。従来は本能、食欲、睡眠欲、性欲に従っているが、ある特定の条件下では統制が取れた軍隊と化す。
ヒューマンやエルフ、ドワーフ等の雌が被害の対象になる事が多い。
このようなモンスターを守る価値や必要はない。対しこれは別だ。
・エルフ
森に生きる民。とても美しい種族で、寿命もとても長い。森に生きる為、ヒューマン等の街にはとても少ない。精霊や妖精に最も近い存在であり、魔力適正にも優れる。
この時点でやるべき事は決まったも同然だ。国民や民間人とは言えないだろうが、戦車としてやらない訳には行かない。ここでやらねば戦車が廃るのだ!
遮蔽物を探す事が目的だったが、その目的を防衛戦へと切り替える。
破片や爆風に巻き込まれたら危ない。砲弾をHE弾からAP弾、またの名を徹甲弾。簡潔に言うと鉄の塊を装填する。
素早くその場で旋回する。砲塔も同時に旋回し、薙ぎ払うように射撃する。有り難い事に防衛対象であるエルフは疲れからか座り込んでいる。対し攻撃対象のゴブリンは立っている。エルフ達の頭上を通り越すように、機銃と機関砲による射撃を行う。毎分800発の鉄の雨と、20mmの鉄塊が見張りのゴブリン3体の上半身を吹き飛ばす。それに伴い突然の轟音が静寂を引き裂いた。
自分の攻撃を皮切りに、それぞれが処理落ちから現実へ強制帰還する事になった。しかし帰ってきたからといって混乱から立ち直れる訳ではない。自分はこの世界観からしては異物、ゴブリンもエルフも戦車を見た事はない。それに他から見れば轟音と共にゴブリンの上半身が吹き飛んだように見える筈だ。混乱は必須だ。
それを利用し自分は行動を続ける。次は荷車の2体。その2体は荷車の反対側に隠れている筈だ。今は直視できない。
上から見ると、エルフと焚き火、荷車は直線状に並んでいた。エルフと荷車の間に焚き火があり、エルフが荷車から武器を取る為には焚き火を避ける必要がある。そしてその焚き火にはゴブリンが集まっている。武器を渡さない為の配置だろう。中々考えられている。
そして今、自分は焚き火の上で停車している。自分は荷車側から斜めに入って来た。その時ゴブリン2体が見えた為、反対側にいると判断した。
その場で信地旋回を行い、素早く回り込む。この程度の荷車ならば破壊は容易だが、後の事を考えると壊したくない。
やはり後ろにいたか。驚きが表情として見て取れたが、この2体は驚くべき行動に出た。なんと武器を構えて自分へ突っ込んできたのだ。自分の常識では戦車へ突っ込むなど狂気の沙汰。その為とても驚いたが、相手から突っ込んでくるなら手っ取り早い。装甲に槍が突き立てられるが、無視して突っ込む。そのまま轢き殺し、遅れて剣を構えながら向かってくるゴブリンへ機銃を撃つ。移動しながらの攻撃の為、撃った銃弾に対し命中した銃弾は少なかったが、毎分800発の高連射がそれをカバーし、ゴブリンの体を引き裂いた。
焚き火のゴブリンを吹き飛ばし、見張りのゴブリンを薙ぎ倒し、荷車のゴブリンを今殲滅した。これでゴブリンは全滅だ。だが敵はまだいる。
そのまま前進して荷車の周りを回り、エルフ達の下へ急いで向かう。くそっ、回り込むときに速度が落ちたか。間に合うかっ?
距離はそんなに離れていない。20mも離れていないのだ。二号戦車ならば直ぐだ。
白く変色した焚き火を踏み締め、更に加速する。10mを切った。あと少し――
視界の端に石を捉えた。突然時間の流れが遅くなったように見え、石の動きが不思議とはっきり見えた。それでも石の動きは速かった。先程まで視界の端にあったその石は、今は中央、そして――
「きゃッ!?」
一人のエルフへ命中した。
Scheiße!間に合わなかったか!あの猿共、生かしては帰さん。ここで全滅させてやる。
猿は小賢しかった。瞬く間にゴブリンを全滅させた自分ではなく、拘束されたエルフを狙ったのだ。自分より明らかに戦闘力が低いエルフを狙う。それを判断できるだけの知恵はあるらしいな。だが非武装を狙うか、許せん。
これ以上の被害を出す訳にはいかない。エルフ達へ次の攻撃が注がれる前に、その間に割り込む。早速投げられた石が自分に直撃するが、エルフへ当たる石は全てこの身を持って防ぎ切る。背面のラジエーター、冷却器の上面の装甲化されていない部分を突き破った石が複数あったが、レジエーターが損傷しただけだ。戦闘に支障はない。まだまだ余裕だ。
敵に対し最も分厚い正面を向けるのが戦車戦の常識だが、より守る範囲を広げる為に側面を敵へ向ける。正面より側面の方が広いからな。側面装甲へ石が当たるが、側面は15mmの装甲板で構成されている。15mmは機銃やPTRSのような対戦車ライフルには無力でも、投石程度なら十分な装甲厚だ。
今戦闘を行っている場所は開けた場所である。その為石が何処から飛んでくるかがよく判る。敵はその石が飛んで来た方向の木の上にいるのだろう。
機関砲と機銃を、石が飛んでくる方向の森へただただ撃ち込む。敵の正確な位置は判らない。だが大体の位置ならば判る。敵がいると思われる範囲に、数撃ちゃ当たるの考えで兎に角撃ち続けるのだ。
「キ、キーッ!?」
「キキャー!?」
「ギギギャー!!」
時々悲鳴に似た鳴き声と落ちてくる影が見える。うむ、確り当たっているようだ。猿も木から落ちる、だな。それに伴い投石の数も減る。これは勝ったな。
森の中では飛んでくる石の方角から、猿の位置の逆算が難しかった。また猿と距離が近く、木に登っている為高かった。その為主砲の稼動範囲に収める事ができなかった。そして弱点である背面を見せる訳にはいかなかった。以上の理由が原因で、森の中では猿を殲滅する事はできなかった。
だが今は違う。自分は広場へ出たが、あの猿共は広場へ出ずに森に留まった。この時点で距離が広がり、猿共を主砲の稼動範囲内に収める事ができた。そして広場からは投石が何処から飛んできたかがとてもよく見える。これが猿の位置の露見に繋がり、猿共への攻撃が可能になった。
最後の背面の問題は、それより優先すべき対象の登場により解決された。戦車は元より盾となるべき存在である。自分より優先すべきは守る対象、身を呈してでも庇うのだ。それが戦車の役目だ。
攻撃を続ける。相手も石を投げ続けるが、装甲で無力化する。また石がラジエーター部分へ入るが、問題は無い。幾らか管が曲がるが冷却に支障は無い。
暫く攻撃を続けていると、石が飛んでこなくなった。
全滅させたか・・・?いや、まだ潜んでいる可能性が否定できないが・・・。
・・・・・・・・・。
・・・・・・。
・・・。
・・・熱源探知にも音源探知にも反応はない。つまり、見える範囲にあの猿はいない、という事か。
ふぃ、これは勝った・・・と見て大丈夫だろう。防衛対象は・・・一人、石が当たった筈だが大丈夫だろうか。
パンツァー 二号戦車F型 lv 8 up!
攻撃力 2cm kwk 30機関砲
7.92mm MG34機関銃
砲塔装甲 正面30mm
側面15mm
背面15mm
上面10mm
車体装甲 正面30mm・下部35mm
側面15mm
背面15mm
上面15mm
速度 40km/h 140ps
重量 9.50t
称号
・陸戦の王者 new!
・エルフの楯 new!
スキル
・目星 2lv
・拡大眼 3lv
・熱源探知 2lv
・音源探知 1lv
・マッピング 3lv up!
・風魔法 1lv
・火魔法 1lv
・迷彩 1lv
・隠密 1lv
・走破 6lv up!