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非幸福者同盟 作者:相羽裕司

第四話「サヨナラの色」(後)

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96/強襲作戦

 高速の飛翔は、またたく間に愛護大橋中央の上空に達し、三人は眼下に陣取っている超女王と十二人の男達めがけてダイビングを開始する。アスミとの飛翔を経験したことがある志麻はともかく、ジョーの心境はいかばかりか。一方で志麻もジョーの心配をしている場合ではない。逆襲の能力行使のためにダイブの最中も詠唱を続ける。

 やがて突撃する風球は、結界の上部を貫き、愛護大橋の真ん中に位置する超女王の一団の頭上を捉える。敵がこちらの強襲に気づくまでは、まだ数瞬あるだろうか。手筈通りならまずはアスミが。

 志麻がそこまで思考した所で、アスミは握っていた志麻の手をパージすると、そのまま左の(しょう)を突き出し、敵の頭上に向かって攻撃を撃ち放つ。

竜型(ドラグ・)収束風陣砲(トルネード)っ」

 志麻が知るアスミの技でも強力な部類の、螺旋状に尾をひく風の龍である。これで勝てないまでも、超女王の周囲の男達だけでも薙ぎ払えたならば。

 しかし、志麻の期待は、ギロリと上空に向き直った超女王が笑みを浮かべていたのを認識し、不安に変わる。

 超女王のすぐ横にいたスーツの男が、流麗に、しかし(はや)く拳を天に向かって突き出した。その姿は、勝鬨(かちどき)をあげているかのようでもある。拳圧、というのだろうか。通常、普通の人間のパンチが本質能力(エッセンテティア)による大技を凌駕することはあり得ない。しかし、アスミが放った風の龍の(あぎと)は、その男の拳から生まれた風圧で分断され、霧散させられてしまった。あたかも、大仰な龍の方が虚構で、その男の生身の拳から放たれる拳圧の方が真実性を帯びているとでも言うように。

「受身!」

 アスミの叫びと共に、風の球体の中にいた三人は、ちょうど超女王らの頭上で左右に別れる。志麻はアスミの風に守られながらも前方回転受身を取り、いよいよ愛護大橋のアスファルトの上に降り立つ。ちょうど、橋中央に位置取る超女王の一団を中心に、橋の南側に志麻が、北側にアスミとジョーが別れて着地した形だ。

「志麻!」

(分かってるって)

 強襲の第一手は無効に終わったのを理解する。だとするならば、次の一手は自分の番だ。
続けていた詠唱の最後の部分を詠み上げる。

「アイアンマンさん達、アイアンマンさん達、世界を壊す幾多の歩み、貫いてみましょう徒党の意志」

 志麻はキっと男達の中央に位置する超女王を睨みつけると、両の掌を開いて左右に突き出した。するとちょうど志麻の両手の先に位置していた、大橋の左右の鉄の欄干(らんかん)が青く眩い光を発生させ、北の端から南の端まで、連続でその存在が「組変わって」いく。

 長い詠唱時間と、この地のオントロジカの供給を志麻の身体に受けられるだけ受けることで可能になる奥義。この技があるゆえに、アスミに『ハニヤ』の使用をまずは様子見にさせた、「鉄人間(アイアンマン)」の連続再構築である。現れた鉄人間の数は九体。どうだ? 如何に強いパンチを放てる人間でも、生身の拳は本当の鉄の拳には勝てないぞ?

 志麻がそう心的な気勢をあげかけた時である。一方で、どこかで冷静だった自分が気付いてしまった。超女王が、唇を動かし続けていたことに。

(同系統の能力者? 詠唱?)

 結界を張って以降、超女王本体の動きが少なかったのは、密かに詠唱を続けていたからか。

 超女王はアオザイから伸びる華奢な両手を、憎らしいことに先ほどの志麻と同じように左右に突き出すと呟いた。

「『生物的な(ストロング・)自己実現(エボリューション)』」

 超音波、という比喩が馴染む。何かしら、人間の認識能力では捉えられないような波長が超女王から周囲に円形に伝播すると、超女王の周囲を取り囲んでいた男達が、それぞれの身体の核が(うず)くとでも言うように体を震わせ、甲高い叫び声をあげ始めた。

 月下に吠える、十二体の(おす)

 その狂おしいような叫びに、志麻が本能的に恐怖を感じた頃には、男達の姿は変容を始めていた。

(そういえば、最初に大天寺山で戦った大熊は、何か様子がおかしかった)

 魅了した生物を使役できるだけでなく、その生物の存在を変化させられる能力、ということか。

 目の前の光景は、おぞましいの一言だ。身に着けていた衣服は破れ去り、何やら、身体の大きさが三メートル、四メートルにまで膨れ上がってる男もいる。黄土色(おうどいろ)の筋肉。口が裂ける者。耳が突き出る者。目が窪む者。連中は最早人間とは形容し難く、一種の「怪人」であった。

「鉄人間さん!」

 怪人たちが脅威の本領を発揮する前に、叩かなくては。

 受け入れられないものを必死に否定するように叫んだ志麻の声は上ずり、控えめに言っても、もう余裕はなかった。
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