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非幸福者同盟 作者:相羽裕司

第三話「拠り所の守り人」

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70/この世界はおかしい

 志麻はポケットの中のスマートフォンを指だけで操作し、リンクドゥ『非幸福者同盟』に緊急事態が起こったことを伝える「7」の数字だけを打ち込んだ。後は、アスミたちがこちらの位置情報を頼りに来てくれるのを願う。S市でも栄えている場所である。地下であるとか、路地裏の建築物であるとか、そういった隠れ家的な場所を敵の拠点に想定していた。こんなに堂々と、街の重要施設をまるごと乗っ取っていたなんて。

「少しお話をしましょうか」

 超女王はそう言うと、暮島さんの元を離れ、セミナーが行われていた一角の後方にあるパイプ椅子に足を組んで腰かけた。

「守人さん。私の事を、悪の収奪者だとでも思っているでしょう? でもそれは違うわ。私はそう、夢の過程にいるだけよ」

「どういうことだ?」

 ジョーが両足を広げ、体の重心を戦闘の体勢に移行しながらも、問いかける。志麻も相手の出方を伺いながら、いつでも能力を発動できるように、左手のブレスレッドに手をそえる。

「世界のシステムを作り変えたいの。そのためにオントロジカを集める必要がある。それだけです」

 超女王が空間に手をかざすと、超女王を取り囲むように、空間に複数の大きなカードが現れた。カードの中には、様々な男達の上半身が表示されている。

「これは、『生物の(クイーンズ)宝物庫(・トレジャーズ)』。私に魅了された生物たちや人間の男達の一覧ね。私の本質能力は『女王の(クイーンズ)搾取権限(・ストラクチャー)』。一つ目は、私に魅了された生物のオントロジカを奪い、意のままに操れるようになること。二つ目は、私に魅了された人間に魅了されている人間のオントロジカもまた、私のものになること」

 自身の能力を説明するのが解せない。敵の頭が恐ろしく切れるのは痛感していた。おそらく、説明された以上の何かがある。それでいて、今の話に気になったことがあったので、志麻は警戒を維持しながら尋ねた。

「人間のオントロジカを奪う? 普通の人間も、オントロジカを持っているということ?」
「ふふん。偏角の地の守人さんは、オントロジカにまつわる知識、研究もまだまだのようですね。その地に集積している何らかの次世代エネルギーくらいに思っていたのかしら。そして、存在変動者はそのエネルギーを使うことに長けたものだと。半分正しくて、半分違うわ。オントロジカ自体は、量、質は人それぞれながら、普通の人も持っている。でもその点こそが、私が目指す世界にとってやっかいなのです。だから私は、できる限り普通の人間からオントロジカを取り上げるために、こうして世界を回っているのよ」

 超女王が、空間に出現していたカード群に手をかざすと、カード群がくるくると回り、様々な男達の顏が表示されていく。

「この地で集めた男達はこんな所ね。政治家、学者、お金を持つもの、アスリート、殺人犯、定番だけど、中々に強い人間たちです」

 そして、先ほどの超女王の能力の説明が確かならば、その超女王の手に落ちた強い人間たちに惹かれている沢山の人間のオントロジカもまた、既に超女王の手中にあるということか。志麻は高速で思考する。自分とアスミが守っているこの地のオントロジカの集積体は、まだ奪われていない。ジョーにはまだ教えていないが、それは物理的な形である場所に隠してある。だが、この街の普通の人間たちから集めたオントロジカを既にかなりの量超女王が手にしているのだとしたら、単純に使用できるオントロジカの量で、超女王に勝つことが可能なのだろうか。

 戯れるようにカードを回転させながら眺めている超女王の周囲に、今度は沢山の蝶や蜂が舞い降りてくる。既に沢山の生物を使役してもいる。

「そこまでオントロジカを集めて、何がしたいんだ」

 ジョーの問いに、超女王は語り始める。

「世界のシステムを作り変えたいのです。あなた達だって、今の世界をおかしいとは感じているのではなくて? 今の世界の闇の元凶、それは、愚かな人間が必要以上の力を持ち得てしまうことです。せっかく優れた人間たちが、新しい素晴らしい世界を創っていこうと活動を進めても、どこかで必ず取るに足らない衆愚が邪魔をして、世界の変革はいつまでも進まない。そんな邪魔な人間たちを淘汰すること。具体的には……」

 超女王は自明の理を告げるように続けていく。

「次の時代の鍵となるオントロジカを、世界の上位0・1パーセントの優れた強者で独占したいと考えています。愚かな人間に、可能性を与えてはいけない。強い人間が力を大いに使うことで、世界は新しく、素晴らしく変革されていくのですから」

 超女王はゆっくりとジョーと志麻に手を差し出した。

「さて、提案です。先の戦闘で、私はあなた達、この地の守人を評価しています。私には及びませんが、十分にオントロジカを支配する上位0・1パーセントに入る資格があると考えます。どうです、『世界勝者連盟』に入って、私達と一緒に、世界を良い方向に変革していく仲間となりませんか?」

 超女王の話の展開の前に、志麻は左手のブレスレッドにあてていた手を思わず下してしまっていた。勧誘される、この展開は考えていなかった。そして、超女王が自分が知らないオントロジカにまつわる知識を知っていたことに胸がざわつく。強い側の人間というのは、既にオントロジカの正体について、自分たちよりも掴んでいるのか? そして、その上で自分たちを強者の側に来いと誘っている?

「特にあなたは、イイですね」

 超女王はゆっくりと志麻を指さした。

「自分が強い立場になって、屈服させたいと思ってる人間が、いる」

 志麻は心臓が高鳴るのを押さえられなかった。蝶か。蜂か。超女王は志麻のことをある程度把握した上で語っている。母親の顏が脳裏を過り、いよいよ怒気と悲しみで胸が張り裂けそうになる。そうだ、私の首を絞めたあの女など、存在変動者である私は、屈服させることだって、できるのだ、と。

 ポン、とその時、ジョーが志麻の肩を叩いた。

「ダメだろ、そんなの」

 ジョーが一歩前に進み出た。
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