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非幸福者同盟 作者:相羽裕司

第三話「拠り所の守り人」

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69/異変

 暮島さんと言ったか。男の方も腕を組んだ女と寄り添って歩いているのが楽しそうでもあり、またその時間に満ち足りているように見える。カレンも身内のひいき目抜きでも可愛らしいと思うのだが、どちらかというと愛嬌があるという方向である。比べて、暮島さんが連れている異国風の女は圧倒的に綺麗であった。連れ立っているだけで男が満足感を抱くのも分かるというような。

 二人の後をしばらく追跡していくと、やがて八階建ての多目的施設に辿り着いた。名のある芸術家が設計した建物で、壁全体がガラス貼りになっている。イベント会場になったり、個人や企業向けにセミナールームを貸し出していたり、上の方の階には図書館もあった。正面の自動ドアが開き、二人は中に入っていく。続いてジョーも中に入っていくと、本日は一階のスペースはビジネス系のセミナーが開かれているようだった。登壇している講師がスクリーンに資料を写して何かを話していて、並べられたパイプ椅子に座っている沢山の聴衆がそれに耳を傾けている。

 入口から数歩進んだ所で、暮島さんは立ち止まり、ゆっくりとジョーの方を振り返った。

「さて、そろそろ、僕たちを付けてる理由を聞かせてもらおうか」

 尾行は筒抜けであったらしい。確かに雑な追跡であったかもしれない。ただ、バレていたならそれはそれで、面と向かって聞いてみることにした。

「暮島さん、ですよね。失礼ながら、そちらの女性は?」
「なぜ、僕の名前を?」
「宮澤カレンの弟です。暮島さんのことは姉から少し聞いていました」
「ああ、カレンさんの」

 暮島さんの表情に動揺のようなものは見られない。ただ、知人の知人が現れたといった程度の反応なのが逆に気になった。

「どちら様ですか?」

 遠慮がちに声をあげたのは、暮島さんと腕を組んでいた異国風の女である。腕は組んだままで、控えめに尋ねながらも、どこか男の所有権を主張しているようでもある。

「ああ、宮澤カレンさんという……」

 女に応えようとした暮島さんは、途中で言葉を区切った。

「あれ、何だっけ」

 暮島さんは呆けたようにそんなことを言う。何だっけとは何だ、などとジョーも思考に空白が生まれる。

 すると、異国風の女性は暮島さんと組んでいた腕を放し、手をゆっくりと自身が纏っているアオザイの胸元に持っていった。そして、胸元を留めていたストリングを外し始める。

 そのままでは、乳房が顕わになる。突然の女の行動に理解が追い付かなかった瞬間である。女の胸元から、何か高速の黒い影がジョーに向かって伸びてきた。

「『機構的な(リ・エンゲー)再契約(ジメント)』」

 後方から志麻の声が聴こえたのはその時で、向ってきた黒い影は、志麻が投擲し、途中でサングラスからナイフに再構成された刃で切り裂かれていた。

 地面に落ちた切り裂かれた黒い影の正体は、毒蛇であった。

 次いで、一階のスペースでセミナーを行っていた登壇者が、聴衆が、皆ジョーの方を向いていることに気づく。暮島さんも彼らも、瞳からは光が消え、死体のように虚ろに、それでいて、攻撃性を解き放つのを、一歩手前で押さえているかのような危険な雰囲気を纏っている。

「建物全体に結界が張ってあるわ」

 遅れてジョーの横までかけよってきた志麻が苦々しく告げる。

 アオザイを着た、褐色の肌の異国風の女は外したストリングを留め直しながら、涼やかに語りかけてきた。

「直接は初めましてになりますね、この地の守人さん」

 女は黒髪をかき分けると、優雅に笑い、己の存在を告げてきた。

「『世界(せかい)勝者(しょうしゃ)連盟(れんめい)』が二位、超女王エルヘンカディア」
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