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非幸福者同盟 作者:相羽裕司

第三話「拠り所の守り人」

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49/強い男たち

 夕刻。空瀬神社の横に位置する、アスミの家にジョーが訪れると、居間のテーブルの上にはラップトップパソコンに、何やら小型の機械の(ねずみ)が置いてあった。アスミが蚊取り線香に火を付け、どこか懐かしい香りが漂ってくる。志麻は線香の煙を少しあおいだ後、機械鼠に手をかざす。機械鼠は志麻の能力の産物なのだろう。ワイヤレスで転送されたデータが、ラップトップパソコンで再生されはじめる。立ち上がった再生ソフトから聴こえてきたのは、少しくぐもった男の話声だった。その男の述懐から、ジョーは意味がある単語を拾い出す。

「『超女王』って言ってるな」

 志麻が解説を始めてくれる。

「一ヶ月ほど前に県庁を襲撃して逮捕された男の音声よ。警察の取り調べ室に機械鼠を潜り込ませて拾ってきてるんだけどね。正確には、『超女王様と新しい世界を創るため』って言ってるわ」

 続いて、台所から桃のジュースとコップを人数分運んできたアスミが情報を繋いでいく。

「他、市の有名企業の社長の突然の一家心中未遂の時とか、刑務所で凶悪犯が脱獄をはかった時とか、この時期にシンクロするように、事件性がある出来事の中で『超女王』を口にする男たちが現れている。そしていずれのケースも、(からす)の群れ、爬虫類、猛犬など、事件の中で生物が使役された痕跡があるの」

 もともと、超女王という敵は、ここ数か月アスミと志麻が追っていたターゲットという話だった。まずは、敵存在(そんざい)変動者(へんどうしゃ)が街に入っていると当たりをつけた背景を二人は説明している。

「で、今日新たに得た知見っていうのは、まずはこれ」

 桃のジュースが注がれたコップに口をつけながら、志麻が片手でキーボードを数回叩くと、情報管理ソフトが立ち上がった。画面にはいくつかの人物の顏写真が表示されている。その中に記憶にある顏があった。

「このコック帽の男は、志麻の家で戦った奴じゃないか」
「そう、ちょうど行方不明になった届けが出ていたから分かったんだけどね。市の有名レストランのコック長よ」

 志麻があげた店名は、高級なフレンチで知られるお店であった。

「超女王と関連がある、つまりは使役されていた可能性がある男達のリストだけど、こっちも見てみて」

 志麻が再びキーを叩くと、顔写真が経歴情報に変わる。

「何というか、街の中でも『強い側』の男性が多いわよね」

 企業の社長。弁護士。地域では有名なアスリート。大学教授。そして有名店のコック長などなど、か。確かに。お金、知識、肉体、名声、形は違うが強い立場の男達である。先ほどの脱獄をはかった凶悪犯なんかも、捉えようによっては「強い男」と言えなくもない。

「それでね、この男達の住んでる所や職場の分布を示したのがこれ」

 そう言って志麻が次に出した画面には、S市の地図と、超女王に使役されたと考えられる男達の分布が赤い点で表示されていた。

「S駅から、北らへんか」

 分布は、偶然とは思えないほど、一定の地域に集中していた。S市の中核駅から北方面に10キロ四方。S市でも、色々と栄えている場所である。

「超女王の拠点は、この辺りのどこかにあると推察されるわ」

 そう指摘した志麻と、後方で壁にもたれかかりながら画面を見ていたアスミの表情が真剣なものになった。同年代の女の子よりは、研ぎ澄まされた空気を纏う、「守人」の顏。それゆえにジョーも察した。

「こちらから動くつもりなのか」
「大天寺山のこちらの拠点が相手に知られているから、こちらも相手の拠点は突きとめておきたいわね。私の家や、ジョー君の家が知られるのも時間の問題かもしれないし」

 敵の意図は分からないが、志麻の家が敵に知られてからも、ここ数日大天寺山の方に何かあったということはない。ただ、そういう状況でも油断せず、こちらの拠点の一つが相手に知られているのは重い事態だと捉えているようだ。

「仮に敵の拠点を突きとめることができたとして、その後はどうするんだ?」
「まずは穏便に話し合いを試みたいとは思ってるわよ。この地のオントロジカは諦めて帰ってくれませんかって。でも、望みは薄いでしょうね。相手が話を聞いてくれないようなら……」
「その場合はたぶん、戦闘になるわ」

 アスミも志麻も、戦闘というものをこれまで経験してきたし、今回のケースでも起こり得る、という前提で話している。ここまでの二回の戦いは思いがけず巻き込まれる形だったので、こうして前もって戦闘という事態が意識されるのは、ジョーとしては少し怖い。

 アスミが蚊取り線香に視線を送ると、線香の先の火が僅かに活性化する。起こり得る戦闘に対して、自身の能力を調整するがごときである。テーブルの上の機械鼠の存在といい、改めてこの二人は非日常の顏を持つ、存在変動者なのだと胸にとめる。

 結局、既に志麻が索敵で放っている機械鳥と機械鼠に加えて、アスミ、志麻、ジョー、そして陸奥の四名で、実際に該当地区に赴いて超女王の拠点を探すことで話がまとまった。明日は休日で街は人が多いので、決行は週明けの月曜日。

 こうしている間にも、街の人間が超女王に使役され、新たな事件が起こる可能性がある。そうそう猶予がある事態でもないのだと、ジョーは気を引き締めた。
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