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非幸福者同盟 作者:相羽裕司

第二話「ジョーとアスミと志麻」

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42/必殺

 ジョーが振り返ると、大熊との攻防を演じている陸奥の姿があった。

 くり出される大熊の剛腕に、陸奥も拳や蹴り技を合わせている。ただし、奇妙な点は、大熊の攻撃が、およそ野生動物とは思えないほど、シャープにくり出されていることである。くり出される突きは、ボクシングのストレートパンチのごときだ。

「この熊、何か動きが人間っぽくないですか?」

 何度目かの攻防の後、バク転の連続でジョーの横までやってきた陸奥が、ちらりとふってくる。

 ジョーに変わって見解を述べるのはアスミだ。

「超女王の能力、ただ使役できるだけじゃなくて、使役した存在に何らかの変化をもたらすこともできるみたいね。さしずめ、今のアレは、熊人間?」

 ゆらりと巨体をこちらに向けて、歩を進めてくる大熊に対して、ジョー、アスミ、陸奥は臨戦態勢をとる。

「『雷火(らいか)』が使える間合いに入れればいいのですが」

 陸奥がそっと伝えてくる。

「なんだ、それは?」
「私の主砲です。前の世の話になりますが、当時最大口径の40センチでありました。この姿の私には、概念武装として右拳に宿っています」

 陸奥の言動には、当たればあの大熊も沈められるのですが、という含意がある。

「あの、熊らしくない器用な両手が邪魔で、懐まで入れないのですよね」
「分かった」

 ジョーが一歩前に出る。何とか隙を作ってみるか。

「待ちなさい。あいつの両手を一定時間(ふさ)げばいいのね?」

 振り返れば、後方の縁側で能力を使うために詠唱を続けていた志麻である。

 志麻の能力にはナイフへの再構築など小規模の発動から、中規模、大規模の発動と段階があり、基本的に大きくなるほど詠唱に時間がかかる。戦局上、大きな力を使う必要があるかと準備していたが、場の流れから、中規模の能力行使に切り替えることにする。

 志麻は、両の掌を庭の両端にそれぞれかざす。庭は普段は趣があるであろう日本庭園であったが、東西の両脇には、石柱が立っていた。志麻は、まさにその二本の石柱に何かを施そうとする。

「『機構的な(リ・エンゲー)再契約(ジメント)』」

 二本の石柱は青い光に包まれて構成子に解体されていくと、やがて浮遊し、庭中央の上空で合体した。

「ゴーレムさん、ゴーレムさん、世界を壊す第一歩、掲げてみましょう石の意志」

 上空にて再構成された存在は、石人間(ゴーレム)であった。ドシンと地面に着地すると、激しく両手で両胸を叩く。

 最早近接の間合いまで近づいていた大熊に対して、志麻が石柱から再構成した石人間は、相撲の力士がやる「はっきよい」の体勢に屈んでみせた。

「GO!」

 志麻が掛け声をかけると、石人間はぶちかましの勢いで、大熊に向かって突進していく。生じるのは、大熊と石人間の激しい激突である。

 こちらまで衝撃が伝わってくるような接触から、押し合いの攻防。わずかにだけ、石人間が大熊を数センチ後退させた時である。石人間は、がっちりと大熊の両腕を掴み、頭上に掲げて固定してみせた。

「両手、封じたわよ!」

 志麻の声を待たずして、陸奥は走り出していた。

「ありし世の栄光の収束、この世にて生かさん我が象徴」

 俊足の踏込で、邪魔な両腕がなくなった大熊の懐に入るやいなや、前傾し、右拳を極限まで右回転させてタメているあの体勢は。

(中段のコークスクリューブローか!)

 ジョーが予測した瞬間、赤い光が陸奥の身体を駆け巡る。今まで彼女を覆っていた存在変動律が単純な光であるなら、それは稲妻と形容される存在に変容し、陸奥の踏み込んだ左足から右拳にかけて放電されていた。

「主砲発射っ」

 掛け声と共タメを解放し、回転する拳を繰り出す。全身のバネを使ってくり出されるストレートパンチに回転力を加えた打撃の極み。放たれた陸奥の渾身のコークスクリューブローは、大熊の鳩尾(みぞおち)にめり込むや否や極大の赤光を放ち、巨体を彼方まで吹き飛ばす。さながら赤いレーザー砲の一撃は、庭の外円の石垣をも貫通して、大熊を山の彼方まで吹き飛ばし、完全にノックアウトしていた。

 遠方に、大の字になって伸びている大熊の体が見える。

「成敗」

 どエライものを見たな、という感想もつかの間、昨晩と同じように、陸奥の周囲に立体魔法陣が出現して、陸奥の体と重なっていく。

「あれぇ、やっぱり主砲は、蛍光灯が全力で光ってる感じになっちゃうみたいです。本日はここまでですね」

 そう言い残して、魔法陣の中に陸奥は消えていく。今回は去り際に、「また明日」と口が動いていた。
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