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非幸福者同盟 作者:相羽裕司

第二話「ジョーとアスミと志麻」

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23/日本海軍の

「おそらくは零時を回り、日付が変わったからだと思います」

 再度の召喚が可能になった理由を、陸奥はそう分析した。

「私がこの世界に出てくるにあたっては、牛人がオントロジカと呼んでいた存在から、私の現界を可能にする『何か』の供給を受けているものと思われます。その供給量に、一日における制限があるのではないかと」

 あくまで仮説であるが、という調子で陸奥は語る。

「日付、というのはそんなに大事なものかな? 何というか、元々はなかった所に、後から数字を割り当てたものだろう」

 スマートフォンに表示される、本日の日付を見ながら考える。

 例えば体力の消耗と、その回復を考えてみる。一定程度消耗すれば、回復に一定の時間がかかる。そして消耗の度合いが大きければ、それだけ回復に時間がかかる。そこまでは道理だ。だがその回復までの時間は通常、個々の身体にとっての時間である。日付が変わったからといって、急にその消耗が初期化されるように回復する、という点に、ジョーは奇妙なものを感じたのだ。

「私は日付、というものは大事だと思いますよ。時間と場所は大事です。そして、ある時間、例えばある日付ですが、それを一定の人達で共有している、ということには、特別な『意味』があると思います」
「ふむ」

 例えば、クリスマスのような特別な日、のようなケースか。各々の主観時間で勝手な日にちにそれぞれクリスマスを祝うのではなくて、十二月二十五日に祝うのだ、とみんなが共有していることに意味がある、というようなことを陸奥は言っている。そういった考え方が、本当に何らかの形で、一日一定時間のみ現界が可能、そして日付が変わると同時に制限時間は回復するという、陸奥の出現のシステムに関係しているのかは、まだ分からないが。

「陸奥は戦艦だって、言ったよな?」

 陸奥の出現条件についてもう少し確かめたい部分もあったが、次いで大事な話題に移る。

「そうですよ~」
「君が、あの不思議な世界にあった、大きな船が人間になった姿だっていうのは、何となく分かってる。ただ、俺はあんまり戦艦というものに詳しくないんだ」
「『陸奥』というのは、今では瀬戸内海(せとないかい)に沈没している、第二次大戦中の日本海軍の戦艦です」

 ジョーは陸奥を客人として扱わんと、居間から座布団を持ってきて、簡単にお茶を準備した。

 静かに湯呑に口をつける陸奥は、和風の趣ではあるが、スリットが入ったスカートという形容が馴染む腰衣から伸びた足を折りたたんで正座している。

 日本海軍。自衛隊ではなくて、か。ジョーは控えめに言って日本史の知識に詳しい方でもないし、ミリタリー系統の趣味も持ち合わせていない。遠い話に感じる。

「最近だと、私の引き揚げの話題が、テレビで放映されたりもしたようですよ」
「そういえば、なんかドキュメンタリーでちらっと観たかもしれない。船に使われてる金属が珍しいとか、そういう話だったっけ?」
「そう、それです。陸奥鉄(むつてつ)はレアなんですよ~」

 牛人との戦いの時、陸奥はジョーの魂から現在の世界の情報を受け取ったと言っていた。だが、一方で陸奥はジョーが知らないような現在のこの世界のことを知っていたりもする。また少し謎が深まってしまう。

「うーむ。この能力自体まだよく分からないが、何故君なのかもよく分からない。あの不思議な世界にあった構築物のうちどれかっていうのなら、俺でも知ってるような有名なものも沢山あったんだが」

 それでも、あの世界にいたサラファンを着た紫の髪の少女は、この戦艦陸奥こそがジョーにふさわしいというように振る舞った。そして、何故かジョーも魂の奥深くで納得し、それが自身に馴染むのを感じてしまった。

 そこまで考えた所で、マンションの玄関の鍵を回す音が聴こえた。

「まずい」

 両親は眠っているので、この時間に我が家の鍵を持ってここに来るのは、九階で夜に活動している姉だろう。陸奥が本質的な所で何者なのかまだ分からないが、見た目は少し年下の少女の姿をしている。この時間に部屋に連れ込んでいるというのは、何か、色々と、ヤバい。

「ゴメン、陸奥、帰って」
「ほわぁ、女性に対してすごい不躾(ぶしつけ)な物言い!」

 そうは言いつつも、第三者がやってきそうな状況を理解し、しぶしぶ、それでいて素早く起動された立体魔法陣に陸奥は入る。

「悪いな」
「まったくですよ、でも……」

 陸奥は魔法陣に消えていく途中、唇につやっぽく人指し指を当てる。

「ジョーさんは何故私なのか分からないなどと言いますけれど」

 こう言い残していった。

「あなた本人に心当たりがないというのに、あなたと繋がっている何かの『縁』を頼りに誰かが助力してくれるのだとしたら、それは素敵なことでしょう」

 立体魔法陣が消滅すると、やがて遠慮なく部屋のドアが開けられ、ジョーの姉、カレンが顏を出す。

「ジョー? 何か今、あんたの部屋から萌え声が聴こえてなかった?」
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