挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
非幸福者同盟 作者:相羽裕司

第十一話「君の名前は」(前編)

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

219/257

219/過去編――一九五八年・二~旅立ち

 過去編――一九五八年・二/

 S市には、三つの古い武家がある。

 弓村(ゆみむら)甲剣(こうけん)槍間(そうま)

 実戦の技術としての「術」から、時代の流れに適応するための「道」へ。その変化の過程を誠実に生きる家々。多くの街の人達は三家をそう認識していた。

 しかし、建前と本音、表と裏が存在するのがこの国の常である。複雑な絵から一本の真実の線を見抜く眼力を備えていた新和は、三つの家の隠れた本質を既に捉えていた。

(彼らは、人間の認識に干渉する(すべ)を持っている)

 映認(えいにん)の弓村。破認(はにん)の甲剣。操認(そうにん)の槍間。三家とも、歴史の奔流の中で、それぞれに伝承されるその本質たる「奥義」を次の時代に生かすことこそを望んでいた。

(おそらくは僕と同じように、早い時期に「不思議な力」の一旦に目覚めた一族たちなのだ)

 お互いが現在の世界では異質な存在である。互恵関係は早くに成立し、新和は三家のうちの一家・槍間の協力を得るに至った。

 まだ幼い自分が、そして東洋人である自分が、卓越した実力だけで正統に評価されるような世の中になるのは、まだまだ先の話だろう。

(何しろ、僕は片隅の島国の十二歳だからな)

 同じ言葉。同じ肌の色。同じイデオロギー。そういうもので「仲間」を括り、他を排斥することで精神の安定を保つ。そんな現在のまだ至らない世界に、少し切なくなる。人類がそういった観念から解き放たれるのはいつになるのだろう。分かっているのは、待っているだけではダメだということだ。リミットがある話なのだ。他の勢力が有利になる前に、人類救済の計画は進めていかなくてはならない。

 ソビエト連邦で進展の先を目指すと決めた。ならば、現行の世界では、自分もソビエト連邦に合わせた外装を身に着けていた方が、都合がイイ。

 密航船が待つ港に赴く途上で、新和は「操認」の槍間から受け取った紫のリボンを髪につけた。

 たちまち、少なくとも外部から認識される点においては、新和の外見は成人のロシア人のそれになった。真っ直ぐな黒髪は軽くウェーブがかかった栗毛に。漆黒だった瞳がより深淵な色合いを携えるように。顔の堀は深く。肌の色素は薄く。外部から認識される新和は、もう幼い子供じゃない。大きく頑丈な身体に、知的な風情の美丈夫(びじょうぶ)だ。

(名前も、変えた方がイイな)

 あちらのお国では、ありふれた名前でいいだろう。じゃあ。


――スヴャト。


 この時はまだ、父と母がくれた名前を捨てる意味に、少年は気づいていない。

 進展を目指して少年は天に吼える。

「宮澤新和にさようなら。今日から僕は、スヴャトポルクだ!」


  /過去編――一九五八年・二
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ