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非幸福者同盟 作者:相羽裕司

第十話「夏の雪明り」

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209/259

209/八月十五日~終戦の日

 八月十五日。

 ひい祖父たちが戦った先の戦争で、この国が負けた日。戦争が終わった日。

 早朝、スマートフォンのラジオアプリを一度だけ立ち上げた。途切れ途切れに戦争の特集番組が流れていた。

(ひぃじーじ達が戦ったという先の戦争も、俺にはもうピンと来ない)

 幼少時からこの時期に繰り返される、悲惨さを訴えたTV番組の知識と。もはや消耗的にゲームや漫画の題材となった形での戦争しか、知らない世代。

(戦艦陸奥があっても、敗けたんだ)

 漠然とだけ知ってる。世界史を覆った強者の力学の前に、沢山の人間が死んだのだ。その力学は、七十年あまりたった今でも、強靭に世界を覆っている。そう。かつて戦うことができなかった悔恨を胸に奇跡の力で常世に降臨した、愛すべき陸奥も。本当の強者の前に、その力を出し切ってなお敗れ去った。死んだ。

 死、か。死んだら、人はどうなるのだろう。

 一日中河川敷のベンチに座って、スマートフォンから流れる音だけを聴いていた。

 生きてるだけの、伽藍(がらん)。時間の感覚が、ない。いつの間にか、時刻は夕刻になっていて、河川敷の原っぱも夕焼けに染まっていた。

(アスミの、バカ)

 やがて、か細い音量で「亡き王女のためのパヴァーヌ」が流れていたスマートフォンの電源が、切れた。

 もう、リンクドゥで連絡も取れない。

(違う、な)

 ジョーの頬を、涙がつたっていた。人一般よりは強さを志していた時期なんかがあって。男だし、泣いたりなんて、しない方だったのに。

 喉元がひくついて、嗚咽(おえつ)となる。

(アスミ。死んでしまったら、もうケンカもできない)

 機知とユーモアがある人間を気取りながら、根が可哀そうなくらい真面目で、先々の気遣いをしてる女の子。

 怒ってくれていい。

 きついことを言ってくれていい。

 拒絶されたっていい。

 ベンチにもたれ掛かったまま、とめどなく涙があふれてくる。

(アスミに、生きていてほしい)

 クールぶって大人びた人間を標榜しながら、どこか抜けていて、性根が面白い一緒にいて楽しい女の子。

 うざがられてもいい。

 呆れられてもいい。

 傷つけられてもいい。

(もっとずっと、そばにいてほしい)

 抱きしめたいのに、もはや自分も彼女も脆すぎる。

 身体に力は入らない。心はとうにひび割れている。

 あらゆる繋がりが途絶えている。

 ただ一人で泣いている。

 ただ一人の人間を想って、悲しんでいる。

 そうして、ただ、時間だけが過ぎていくと、ついには涙も枯れてしまった。ジョーは全てが終わろうとしているのを自覚した。

(もう――)

 こういうことか。

(アスミという女の子は、いなかったんだ。言葉にしてしまうなら――彼女は普通の人間ではなかったんだ)

 だとするならば。

(アスミという虚構に光を求めていた宮澤(みやざわ)ジョーという存在もまた……)

 このまま、瞼を閉じてしまおうという時だった。

 闇の帳が落ちる間際に。

 ジョーの背後に、気配が現れた。

 気配の主は知っている人間で。その時。


――夏には咲かないはずの、花の香りがした。


 懐かしい、自分が生まれた時から、ずっと側にいてくれたヒトの匂い。

  ◇◇◇

「見―つけた」

  ◇◇◇
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