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非幸福者同盟 作者:相羽裕司

第十話「夏の雪明り」

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201/不可思議な私という存在

「もう誰も覚えていないけれど、当時ちょっとはメディアに報道されたような殺人事件に巻き込まれて、私は死んだ。一九九九年の七月までにS市で起きていた有名な猟奇連続殺人事件とは違う犯人だったみたいだけど。お母さんは私を殺した犯人について、私に語ることはなかった。

 二〇〇一年。八月十九日。私の四歳の誕生日の前日に、私は死んだ。では、こうして今話している『私』とは何か。これは、私も自信がないのだけど、『たましい』みたいなものなのかな。お母さん。人形師・空瀬アリカは、私が事切れる間際、『たましい』を自身の本質能力(エッセンテティア)で作り出していた私と瓜二つの人形――義体に移し替えた。正直、最初の義体の頃の記憶って私もないの。もうちょっと大きくなってからかな。一年に一度『私』に行われる『儀式』について、それは他の子たちにはないものだと知ってから、ようやっと私は私の秘密を意識し始めた感じ。

 義体はオントロジカの恩恵で『たましい』との調和を保っているのだけれど、その効果を持続できるのは、一年だけ。だから、毎年誕生日が来る度に、私は『儀式』を行って『たましい』を新しい義体に移し替えてきた――『再臨』とお母さんは呼んでいたけれど。そこに並んでいる人形たちは、過去の私の義体というわけ。

 現在の私は、十二体目。騙していたようでゴメンなさい。私、ジョー君と出会った時はもう、人間ではなかったの。それがちょっと後ろめたかった。でも、それももうすぐおしまい。何の因果か『キセキ』の恩恵を受けて『続いて』きた私という不可思議な存在だけど。お母さんは街から立ち去る時に、言っていたわ。私に割りあてられた『キセキ』の――オントロジカの分量は、十二体目までだって。そうして、お母さんは去って行った。あれで情が深い人だったから、きっと耐えられなかったのよ。人形師であるお母さんがいない以上、十三体目の当てはないの」

 アスミの長い述懐を、この地の奇跡の集積体。『理想的な人間像』は静かに聴いていたようだった。

 ジョーにとって、重要なことをまず、問う。その日は、もう目前に迫っていた。

「次の誕生日が訪れたら、アスミは死んでしまうってことか?」
「どう言えばいいのか、私にも分からない。三歳の時に、私は死んでいたんだと思う。それから、奇跡の恩恵で『たましい』を義体に宿した不思議な存在は続いてきたわけだけど、あと七日間で、その奇跡の時間も終わりということよ。義体への再臨が不可能になった後、『たましい』が何処に行くのかは、私にも、たぶん誰にも分からないわ。それは、神様の領域の話だと思うもの」

 アスミという女の子の「たましい」を慮る。

 途切れる期限を前にしてまだ、彼女は、彼女が消えてしまった後の世界のための・街のための話を、続けて語り始めた。
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