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非幸福者同盟 作者:相羽裕司

第十話「夏の雪明り」

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197/凍結の概念

(「お母さん!」)

 空瀬アスミは、現実世界で目を覚ました。

 感じていた幸福感はそこにはなく、母・空瀬アリカは「欧州へ行って」いて、アスミは迫りくる脅威の前に、自分の命を代償とした特攻をしかけた現実があった。

 白い天井が、瞳に映っている。

(生きて、る?)

 徐々に、自分が真実(しんじつ)大王(だいおう)に「(とき)のカッシーラー」を仕掛けるまでの経緯(いきさつ)を思い出し始める。ぐるぐると思考が回っていると、傍らからアスミを気に掛ける気配がした。

「目を覚ましてくれて、良かった」

 聞き覚えがある声と共にアスミの顏を覗き込んできたのは、翡翠(ひすい)の瞳だ。聖女・中谷(なかたに)理華(りか)だった。

「私、どうなったの?」
「生きてるよ。まだ、ね。胸には穴が空いてしまったけれど」
「痛くないわ」
「私の『操認(そうにん)』で痛みを感じないようにしている。こちらも効いてるようで良かった。通常の麻酔は、アスミさんには効かないだろうから」

 徐々に、現実世界で「まだ」自分が生きていることを理解し始める。理華が使った「破認(はにん)」も解除されているようで、様々な人々から認識されてる感覚が戻っている。

「ジョー君は?」
「無事だよ。前の車両に乗ってる。ここは、祝韻(しゅくいん)旋律(せんりつ)で用意した救急車両の中だ」
「そう。とうとう、色々話さないとな」
「我々は大白山に向かってる所だ。どちらにしろ、『理想的な人間像』の近くでオントロジカの供給を受けないと、あなたは危ない」

 理華の言葉が、何だか遠くに感じられる。一度死んだようなものだし、もうしばらくしたらどうせまた死ぬ運命の自分。そんな自分を、どこか遠くからもう一人の自分が他人事みたいに眺めてる感じ。ただ、理華の助力は行き届いていてありがたかった。友人と呼べるような関係ではなかったけれど、長年互恵的な関係を維持してくれた彼女に、今は感謝の念しかない。

「そうだ。敵は。真実大王は?」
「四号公園で”止まって”いる」

 理華は確認するように言った。

「あなたの心臓にあった『氷』と『マグマ』のうち、『氷』とは限定的な(ひょう)結界のような能力を私は想定していたのだけれど、違うね? 現在、四号公園は、『時間』が止まっている。まるであの場所だけ、世界から切り離されたように」

 補い合う関係の中でも、アスミは理華に対しても秘匿はあった。しかし、『街を守る』という二人で共有した目的を尊重するために、今はもう全てを理華に話して、後を託さなくてはならない。

「そう。『氷』はね、この街でも冬に氷柱(つらら)が見られるような意味での凍結ではなくて、『時間概念の』凍結なの」

 アスミ自身も、大王の能力の前でも有効なのかどうかは賭けであったのだが。

「敵の封印に成功したということ?」
「いいえ。残念ながら解けない氷はないの」

 アスミが告げた数字は、ラッキーナンバーから始まり、曜日、福神の数、などなど。意味深なものだった。

「七日間。正確には後七回太陽がこの地に昇り、街を照らしているまでが有効期限。八回目の太陽が昇る時、四号公園の時間の凍結は解けるわ。また、大王は収奪を始めるでしょう。それまでに何ができるか、だわ」

 理華は、アスミの手を握って、しばらく車両が揺れるのに身を任せた。

 やがて、車両が安定走行に入ると、ポツリと応えた。今日が、八月十二日だから、と前置きした上で。

「八月二十日。ちょうど、アスミさんの誕生日の陽が昇る頃。真実の暴風は再び吹き荒れるわけか」
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