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非幸福者同盟 作者:相羽裕司

第九話「サヨナラの音」

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185/四号公園

 陸奥が幾ばくかの時間を稼いでくれたためでもある。三人を乗せたフェラーリは、大王に追いつかれる前に、四号公園に到着した。アスミによれば、少しばかりこちらに有利な準備がある公園らしいが。

 国道沿いの小規模の公園である。ジョーはまず、現在中に人がいないことを確認する。見えるのは、数点の錆びついた遊具。ベンチ。街灯。水飲み場。そんな所だ。市中心部の栄えている勾灯台(こうとうだい)公園とは比較しようもなく閑寂(かんじゃく)だが、今はその人気の無さがありがたかった。

 フェラーリからジョーとアスミが降りると、すぐに脅威はやってきた。残された打てる手は限られている。公園の中心にジョーが、入り口付近に志麻がフェラーリと共に陣取り、アスミはその中間くらいに位置取って敵を迎える。

 大王は、どのような準備が施されていようと、意にかえさないといった風情で、国道から大きく跳躍すると、直接公園の中心に降り立ってきた。ジョーとの距離は、正面から対峙して十メートル。その鍛え抜かれた筋肉の鎧と、なびく黄金の髪は、実際の身長差以上に、ジョーよりも巨大な存在であると感じさせる。

「死ね。貴様に残されているものも。この街の全てのオントロジカも、我が手に入れ、より良い世界のために使ってやる」

 大王の言葉は確信に満ちている。己が、己の言葉を誰よりも信じ抜いている。

 ジョー達が最後の攻撃を仕掛ける前の、僅かな問答。

「世界は0.1パーセントの優れた人間のためにあるって。それ以外はどうでもいいって、本当にそう思ってるのか」
「思う、思わないの問題ではない。この世界が有している、真実性の問題なのだ。現行世界が、間違っている。真実性とはほど遠い世界だということは、貴様とて感じているはずだ」

 そう前置きして、大王は語り始めた。

「間違った世界を一掃し、正す必要がある。誤謬(ごびゅう)に塗れたこの世界を、真実に至らせるために絶えず進展させ続ける。それが生命の目的と言って良い。では、『正しさ』の指針とは何なのか。ある。この星の魂として存在している我々人類の精神の法則性にただ忠実であれば良いのだ。それが、正しい。幸福や喜びや充実感、どうすればそういったものが感じられるか。追及していくことが正しい世界に繋がっていくのだ。それらの質と量を高めていくことが、世界の『真実性』に合致しているのだ。そして、方法はいたって単純だ。良きもの・正しいものを栄えさせ、劣るもの・間違っているものを排除する。それだけだ」
「だから陸奥も、街の人も殺したっていうのか」
「そうだ。古に敗北した戦艦は、もうこの世界には必要ない。一定以上の幸福も喜びも生み出さない偏角の市民も、消えた方がイイ。そんな存在に割り当てられた食糧は、金は、オントロジカは、より優れた人間が使った方が世界のためだ。我は、真実を体現する王だ。消え去る方が正しい存在には、消え去ってもらう。我は、その審判を任された人間なのだ。そして、思っている以上に、消えた方が世界のためになる存在は多い。小僧、貴様も、後ろの女たちも、みなその類だ」

 言い切った真実大王の言葉は、ジョーにある種の内省を促した。劣った商品よりは優れた商品が欲しいとか。弱い人間を倒しながら、競争の勝者を目指すとか。そういった営みに喜びを感じる感覚は、自分の中にもあった気がしたのだ。

「私は、そうは思わないわ」

 僅かに逡巡(しゅんじゅん)したジョーの代わりに、決然とアスミが言った。

「あなたの言う消え去る側の人間が灯してくれた……取り戻してくれた街明りを、私は綺麗だと思ったもの」
「エルヘンカディアの報告にあった、誤謬人間か」

 大王は大きな眼でギョロリとアスミを一睨みすると、ジョーに背を向けて、アスミに向かって歩を進め始めた。

「貴様など、まさに消え去らねばならない存在だ!」

 大王は、腹の底から声を出して、魂の核から怒りを感じているようだ。彼の言う『真実性』にそぐわない存在が、如何に悪であるか。この世界の間違いの真因が、アスミが存在していることにあるかのように、今にも噛み殺さんとする気概を放つ。

 ジョーはゆっくりと左手を天に掲げた。どんな真実の暴風の前でも、揺らいだり、脆かったりする自分の心の中でも、ソレは消すわけにはいかなかったから。どんなに積み重ねても、全ては一瞬で壊れ去ってしまう。そう痛感した夜に、心が絶望に染まる前に、ジョーを照らしてくれていた僅かな光が、ジョーにとってのアスミという存在であったから。今もそうであるから。

 今は、同盟国の戦艦が援軍に来てくれることはなくとも。彼の地にあと一つだけ、自分たちのことを認めてくれる存在の宛てがあった。

 四号公園上空。掲げた掌の先に、紫の立体魔法陣が現れる。

「力を貸してくれ、エッフェル搭!」

 ジョーは叫んだ。
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