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非幸福者同盟 作者:相羽裕司

第七話「百色の七夕」(幕間エピソード)

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152/願い事

 街角に、その場で毛筆で短冊に願い事を書き、笹の木につるせるというコーナーがあった。エッフェル塔の勧めでジョー達三人も書いてみることにしたのだが。

「いきなり願い事とか夢って、思いつかなくないか?」
「私もだなぁ」

 横で志麻が首肯する中、ジョーは以前聞いたアスミの話を思い出した。

「アスミ、言ってたな。これからは、少数の創造的な仕事をする人と、消耗品的に誰にでもできる仕事をする沢山の人に別れていくって」
「言ったわ。競争と貧困が世界中に平等にばら撒かれ始めた今、自然とそうなっていくのよ」

 そう現状を認識した上で、アスミは自分は自意識だけ目覚めても、創造的な一握りの人間にはなれないと言っていた。

「なんか、ますます書きづらいな。誰にでもできる仕事が悪いってわけじゃないんだが。夢や願い事として書くとなると、違う気もする」
「私の場合、守人は続けるとして、実際の生活の方は、家のお寺の仕事を継ぐってことになるのかしら。でも、檀家も不景気なご時世なのよね」

 ジョーの場合はどうだろう。父親はサラリーマンで、母親は翻訳業の自営業であるが。

「もっとアバウトでいいんじゃないの?」

 悩める若者三人に、エッフェル塔があっけらかんと言った。

「あなた達ぐらいの年から、目標は具体的に一つに決まっていて、それに向かって突き進むというのはどうなのさ」
「でも、世の中は夢を持てとか、本当の自分とか、そんなメッセージに溢れていますよ」

 志麻の問いかけは、ジョーも感じている所だ。具体的な目標に向かって燃焼することが素晴らしいという雰囲気を、この国で生きていると感じてしまう。

「それは、そういうメッセージを喧伝した方が都合が良い何かがあるだけなのかもしれないよ。考えてみるといい。一つに決めてそれに全てのリソースをつぎ込むということは、裏を返せば、その他の可能性を捨ててしまってるということだよ」
「分かった。エッフェル塔方式で、アバウトに書いておくことにする」

 ジョーはそう言って、達筆で堂々と短冊に、『喜び』と書いた。

「本当、エラくアバウトにしたわね。でも私も」

 そう言って、アスミは古風な筆致で『静けさ』と書いた。

「じゃあ、私はこれで」

 志麻は小さい字で『道』と書いた。

「陸奥とエッフェル搭も何か書いたらどうだ?」
「特に私は常世の者ではありませんからね。願い事を書くという立場ではないと思うのですよ」

 そんなことを言う陸奥に、ジョーはえいっと短冊と筆を差し出した。

「細かいこと、気にすんな」
「そ、そうですか。じゃあ」

 ジョーの勢いに押されたこともあり、陸奥は小筆をテーブルの上の(すずり)に尖端だけ少し浸すと、流麗に『奈』と書いた。奈良県の「奈」か。確か実りを加えるとか、そんな意味があった気がする。

「ついでに私も」

 そう言ってエッフェル搭は、文字についてもその場の文化を尊重したのか、漢字で『余裕』と書いた。

 五つの願い事が書かれた短冊を、五人それぞれ笹につるしていく。短冊の色は五つとも違ったのだけれど、天に近い場所で杜の街を装飾し始めた五人の気持ちを感じて、フとジョーが至った想念。

 この五つの願いは、相互に補完し合っている気がする。この先、夢や希望のようなものが例え理想的には叶わなかったとしても、この五つが関連し合っている場にジョーがいられたとしたら、それは満ち足りている時間のように思われた。
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