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非幸福者同盟 作者:相羽裕司

第七話「百色の七夕」(幕間エピソード)

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144/余裕をもって仕事したい

 時間は少し遡り、志麻達がどうしてイベント終了時間にジョー達と合流できなかったかというと。

 出来事は仮設住宅地区と近い、災害復興住宅の建設現場に志麻たちが居合わせたことに端を発する。

 陸奥とエッフェル搭とで、探索を続けていた志麻は、最初にその光景を見た時から、何か危ないなと感じていた。

 建築現場の作業風景自体はこの二年半で見慣れてしまったS市の住人であるが、その時、足場の上方でロープにまとめられた鉄骨群を引き上げる作業をやっていたお兄さんは、フラついている感じで様子がおかしかった。つるしている鉄骨群が、引き上げ途上でゆっくりとズレ落ち始めていた。

 下に作業している人が数人いるので危ない。志麻がそこまで確認した時には事態は逼迫していて、ロープがほどけ鉄骨群が落下を開始した。

 志麻は本質(エッセン)能力(テティア)を発動させて落下する鉄骨群を何か安全なものへと組換えようと試みるが、既にタイミングはギリギリであった。

 しかし落下する鉄骨群は颯爽と空中に現れた人影によって落下方向を変化させられた。陸奥である。一蹴り、二蹴りまでは志麻にも見えた。鉄骨群は三方向に分断され、いずれも人がいない地面へと着地した。さらに気づけば、落下地点にいた数人は志麻とは対面のかなり遠くの場所まで瞬間移動していた。彼らの横にはエッフェル搭が佇んでいる。こちらも、エッフェル搭が物理的なスピード、あるいは何らかの能力で避難させたものと思われた。

「大丈夫か!」

 近くで作業していた工事のおじさん達がワタワタと集まってくる。筋骨隆々でがっちりした風貌のおじさんの一人が、とりあえず被害者がいないことに安堵の表情を見せる。同時に、陸奥とエッフェル搭の動きは追えなかったのであろう、鉄骨群が落下する数瞬に何が起こったのか、今一つ状況が把握できていないようだ。

 何人か集まってきた人達の中に、現場の責任者らしき男性がいた。こちらは長身で眼鏡をかけ、手にはタブレット端末を持っている。仕事ができる人という印象で、状況の把握、原因の追究、責任の所在の明確化、そういった事柄をテキパキと始めようとする。

「少し、休んではいかが?」

 その男性に向かって、場に居合わせた外国からの観光客を装って、エッフェル塔が声をかけた。

「本日は、街のお祭りの日だって聞いてるけど?」

 志麻も、鉄骨群を引き上げていたお兄さんをはじめ、みんな疲れた感じなのが気になっていた。事故の直接的な原因を把握することは大事だろう。しかし、遠因は現場全体の疲労なのではないのか。

 眼鏡の男性は、観光客に接するのも慣れているという調子で、丁寧に応えた。

「休みたい所ではあるのですが、納期というものもあります。スケジュールがあり、その日にやらねばならない仕事の量も決まっています。本日は、まだまだやらねばならないことがあるのです」

 すると、エッフェル搭はこう返した。

「なるほど、でも実は計算を間違っていて、スケジュールには余裕があった。本当は休日が一日余分に取れたのを思いがけず発見することとか、たまにあるよね。失礼」

 そう伝え終えると、いつの間にか男性が持っていたタブレット端末が、エッフェル塔の手の中にあった。

(時間を稼いで)

 志麻と陸奥にだけ聴こえる声でエッフェル搭はそう伝えると、おもむろに隣にいた陸奥のシャツをまくり上げた。何らかの力が発動し、シャツごとブラウスもはだけ、その状態で固定される。陸奥の乳房が顕わになって、特に邪な気持ちがなくとも、いきなりの出来事にその場にいた人たちの視線が陸奥に集中する。ちなみに衣服こそアスミに借りていたものの、陸奥はノーブラであった。

 あたふたとする陸奥の素のリアクションは、その場の意識を集中させるのに十分だった。その間にエッフェル塔と志麻で成されたやり取りは。

「いける?」

 そう言ってエッフェル塔はタブレット端末を志麻に見せると、ビフォアとアフターを把握させるように、二つの画面を交互に映し出した。ビフォアは現時点で組み上がっている鉄骨。アフターは今日一日の予定作業量が終わった後の鉄骨だと理解する。自分に宿る能力と付き合ってきた関係上、この手の機構的なものの構造把握は志麻の得意とする所であった。

「いけます」

 エッフェル搭の意図を理解した志麻はそのままこっそりと本質(エッセン)能力(テティア)を発動させ、左手を資材置き場、右手を空に向かってかざした。

 この日の現場作業の中心は、ビルディング本体の建築を補助する鉄骨の足場の組み立てであった。志麻の能力により資材置き場にあった鉄骨が光の粒子に解体され、空中にて足場として再構築される。ちょうど本日一日分の作業量が終わった形である。

 エッフェル搭は満足そうに頷くと、陸奥のおっぱいポロリな出来事を、性的な目を向けるというよりは、小さい子が何か困ったことになっちゃってるなという風に反応していたおじさん達に声をかけなおす。

「ほら、やっぱり、一日余裕があるんじゃない?」

 責任者の男性は、エッフェル搭からそう言われて返されたタブレット端末をしばし操作し、上を見上げて工事の進捗状況と照らし合わせてみている。

「本当、だ。ううむ。私も疲れていたのかな?」

 何か狐にでもつままれたように、今一つ現在の状況に戸惑っていながらも、男性は結局決断してくれた。工事従事者の疲労回復のために、本日は一日仕事をお休みにすると。

「あー、良いことしたなぁ」

 撤収準備を開始するおじさん達を眺めながら、エッフェル搭は体を伸ばした。この日この場に生まれたのは、余裕という目には見えない無形のものであるが、彼女はそれを生み出すことに価値を感じているようだ。

「私がさんざんだったんですけどっ」

 痴態を演じさせられたことに関して、陸奥が両手をパタパタとさせてエッフェル搭に抗議する。

「エッフェル搭さんが、ご自分のキョヌーを見せれば良かったんですよ」

 すると、エッフェル搭は顎に手の甲をあてて、上半身だけロダンの「考える人」のポーズを取り、何か哲学的なことを深淵に考えているように目を細めた。

「そう、私は胸が大きい」

 そう言えばオーギュスト・ロダンもフランスの人であった。エッフェル塔が「考える人」ほどに熟考した後におっぱいを題材にどんな深い話をしてくれるのか志麻はちょっとだけ気になったが、この話は続かず、エッフェル搭はカラっと明るい顔になって、話題も変えた。

「いい汗かいたから、お風呂行きたい。志麻ちゃん、案内して」

 どちらかというとエッフェル搭よりも志麻や陸奥が働いた局面だったのでは、と突っ込みたい気持ちがほのかに過ったが、志麻は口には出さずに了解した意を伝えた。

 先ほどの責任者の男性の丁寧な態度に少し感化されたのもある。お風呂、温泉などは、わりとこの国を訪れる観光客には定番のネタなのだった。
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