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非幸福者同盟 作者:相羽裕司

第七話「百色の七夕」(幕間エピソード)

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142/ミリオンアート・オン・ザ・ローカル

 一方、志麻と陸奥はN町商店街の南方面へ。

 旧来の商店街と新興の再開発地区が同居している地区である。また、再開発地区はさらに先の地震で被災した人たちが住む仮設住宅地区とも繋がっている。

 一方では、倒壊した建物がまだ散見され、それらを修復するという、かつてあったものを直す力が働いている。また、もう一方では大規模な商業施設を作ろうという、未来に新しいものを創造しようという力が働いている。ある知見からは、それはブレーキとアクセルを同時に踏んでいるようなチグハグさだった。しかし、そのベクトルの異なる力が様々に交差していたのが2013年のS市という場所で、その様々な力がモザイク状に組み合っていた中で、どこに行っても見られるという共通したものを一つあげるとするなら、ただただ行き交う重機と、工事のおじさん達の筋肉・汗、そういったフィジカルな確かさがあるものだけだった。

 ファストフード店、居酒屋、カフェテラス、そういったものが立ち並ぶ活気を伴った地区から、様々なものが修復中の地区に入った時、志麻はそういえば工事のおじさん達は地震の本震の次の日から、もう道路を直していたなと思い出したりしていた。

 途中、ファストフード店で買ってやったハンバーガーとポテトが両手に収まっている陸奥を連れ、志麻が人々が集まってる場所からは(はる)けさが伴ってくる辺りまで歩いて行くと、見覚えがある姿が、道路越しに仮設住宅地区を眺めているのを見つけた。夏の暖かい風に、蒼い軍服ワンピースのスカートをなびかせているその人は。

「エッフェル搭さん?」
「やあ、志麻ちゃん。と、陸奥ちゃん」

 振り返ったエッフェル搭は、風になびくサイドの金髪を片手で押さえながら、朗らかに応対してきた。

「あれ。宮澤君が呼び出したんですか?」

 百色ちゃんの探索のためにわざわざ? と思って志麻は尋ねたが、どうやら事情は少々異なるらしい。

「ううん。勝手に来たんだよ。観光、かな」
「どうぅっ!?」

 さらりと応えたエッフェル搭に、陸奥はマスタードの香りを鼻にツンとさせつつ、思わず驚きの声も出ちゃったというリアクションである。

「ふーん。この国のかつての抑止力さんは、そういうことはまだできない?」
「私はジョーさんがスイッチをオンにしてくれないと現界できません。また、基本的にこの地のオントロジカの供給を受けてここにいるので、外国に観光に行ったりもできません。おそらく、私がこの世に出現できるのは、最大でも『概念として』の『この国』の領域内だけです」

 別にエッフェル搭は挑発してるわけでもないのだろうが、陸奥の方はムぅっという態度で返した。

「どうでもイイけど、あなたこの前、異国の助けを借りるのはちょっと、みたいなこと言ってたのに、そういうのはモグモグ食べてるのね」

 エッフェル搭が、陸奥の手にあるかじりかけのハンバーガーに視線を送る。

「そ、それはそれ、これはこれ、ですっ」
「イイけど、さ。ポテト、ちょうだい」

 陸奥が無言でポテトを差し出すと、エッフェル搭は上品に一本だけつまんで口に運んだ。巨乳金髪お姉さんと、貧乳黒髪娘とで姿は違うが、このやり取りは何か姉妹っぽいなと志麻は思った。

 閑散とした場所ではあったが、たまたま通りすがった家族連れが、不思議そうにこちらを見ていた。いったいこの人達は何者なのだろう? といった視線である。三人がどういう関係なのか分からないというのもあるが、大きくはエッフェル搭が華美な方に目立ち過ぎるのも理由だろう。

「あ、そっか。私、この格好だと目立つよね」

 エッフェル搭がパチンと指を鳴らすと、身に着けていた軍服ワンピースが光の粒子へと変わり始める。間を置かずに光が収束すると、彼女はヴィンテージのトップ。レースのボトムにカラフルなエスパドリーユ。全体的な透け感が夏の装いという格好に落ち着いていた。

「どどうぅっ!?」

 アスミから借りた服をそのまま着ている陸奥は、再び驚きのリアクションを見せる。エッフェル搭の謎の能力もともかく、陸奥なりにエッフェル搭の服装がカジュアルでありながらも何か行き届いているというのが、直感的に分かったようだ。

「素敵です。休日の雰囲気なのに、バングルのアクセントとか。他に埋没しないコーディネートになってる感じがします」
「庶民のモードはバランスだよね。エレガントに過ぎないのがポイントってね」

 志麻とエッフェル搭の会話を何やら異次元から降ってきたもののように聞いている陸奥は、なるほど、彼女の記憶はジョーとジョーのひい祖父経由からのものが主で、女の子のファッションに関する知識などは乏しいらしい。志麻から見ると、アスミのお古を着ている陸奥も十分に可愛らしいのだが、アスミの中学時代の服なので、幼い印象は残る。良く言えばイノセントにコーディネートされているのだが、陸奥としては女性的に洗練されてるエッフェル搭のコーディネートの方が、凄いものとして映るのかもしれない。

「言葉に気をつける必要があるかもしれないけれど、アートだね」

 エッフェル搭は道路を挟んで向えの仮設住宅地区を見やって、目を細めた。敷き詰められている仮設住宅の壁面には、一戸一戸にカラフルなイラストがワンポイントで描いてある。今でも全国各地からボランティアの人達が定期的に訪れているが、何かのきっかけで描こうということになったものなのだろう。

「でも、パリは芸術の都ですよね」
「そうだね。でも私の国のアートが何か高きものを目指して美を志向している感じなのに対して、この国のアートは、ただ純粋に分かち合いたいという気持ちから来ている気がするよ」

 なるほど、そういうものか。

「ムっちゃん、褒められてるよ」

 志麻はポンと後ろから陸奥の両肩に手を置いた。

「え? そうなんですか? 私、今の会話もよく分からなかったのですけど?」

 そう言いながらも、陸奥はエッフェル搭と同じ方向を見ながら、そこにある人々の営みというものを慈しんでいるように思える。

 その時、一陣の風が吹いて、涼やかに陸奥の黒髪を揺らした。

 両肩に手を当ててみて、陸奥には体温があることに志麻は気づいた。

 その後ろ姿を見ながら、志麻は先の戦いで陸奥が語った、自分という存在は、全てが戦うという用途のために設計されているという言葉を思い出していた。
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