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非幸福者同盟 作者:相羽裕司

第七話「百色の七夕」(幕間エピソード)

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141/昔日の秘密基地

 ジョーとアスミ、志麻と陸奥のペアに別れて探索を開始してしばらく、ジョーとアスミは大天寺山の麓に広がる森の近くまで来ていた。渡された地図に、スタンプがある場所のヒントとして、緑に塗られた木々と(やしろ)の絵が記されていたからだ。森の入口近くで百色ちゃんらしき物体が動いているのを見かけた気がしたので追跡してきたが、意外に素早い彼、ないし彼女の影を追い切れず、すぐに見失ってしまった。現在はしょうがないので、今日の百色ちゃんの追跡はスタンプを回収しながら進めようかと、森に隣接する神社に向かっている所であった。

 ジョーは言ったものか迷ったが、胸の辺りの(うず)きに堪えかねて、横を歩くアスミに声をかけた。

「さっきの、図書館の本の話で思い出したんだが」

 ちょうど森の中の分かれ道。左に行くとスタンプがあるかもしれない神社であるが、道を選ぶ前にこの話題に触れてみる。

「この辺りに、秘密基地あったよな」
「それ、実は私も思い出してた」

 お互いちょっと目線を逸らして、会話がぎこちなくなるのは、童心にやっていたそれの意味合いが今なら分かるから。

 森の奥の廃屋に、ライター、軽食、本などを持ち込んでいた。刺激を求めるというよりは、ただ二人でそこにいるだけの遊び。その「ままごと」は、子供の心情なりに「夫婦」を模していたのだと思う。なんだか、アスミに「ハイ、アーンして」とスプーンで缶詰のフルーツを食べさせて貰った記憶まで思い起こされる。あの頃のアスミは何だか目がイキイキとしていて、ジョーに向ける態度も、何というか距離が近いものだった。

「若かったわ。ここだけじゃなくない? 四つ? 五つくらい秘密基地あったわよね? 何で私たちそんなに元気だったの」

 赤面してるのを取り繕うように、あくまでただの感想だけど、といった風にアスミが述べる。

「ちょっと見てきていいか? 置いてた本とか、どうなったのかなって」
「ええ? 十年前とか、それくらいでしょ? とっくに片付けられてるわよ」

 ジョーの幼少時の読書体験には、アスミと会っていた地域の図書館での読書時間の他に、近所の廃品回収に出されていた本や雑誌を秘密基地に持ち込んで読んでいたというものがあったのだ。今まで忘れていた。

 ジョーが神社を後回しにして分かれ道を右に曲がり、記憶を頼りに森の奥に向かって行くと、アスミも渋々ついてきた。ただ、強く拒否もしない辺り、彼女にも幾ばくか昔過ごした場所を確認したい気持ちがあるのではと思う。

 かくして、しばし森の深部へ向かって歩いて行くとその廃屋はあった。いかなる用途で立てられ、そして使われなくなったものなのか、丸太で組まれたロッジである。

「まだ、あったな」
「リアル『トム・ソーヤーの冒険』よね。この二十一世紀に、私たち何やってたんだか」

 靴の底に木の感触を感じながら階段を登っていく途中、記憶にあるよりも小さな小屋だったんだなと理解する。当時はお城でも手に入れたような感覚でいた秘密基地だったが、面積で言えば現在ジョーが使っているマンションの自分の部屋一つ分か、せいぜい二つ分くらい。

 さて、ドアを開けて小屋の中を確認してみると、目に入ったのは。それは子供の頃に持ち込んだ、あの頃確かにあった冒険心をくすぐるグッズの数々ではなく。

 くすんだ衣服に毛布を羽織ってゴロゴロとしている、三人の男性だった。

 頭髪は不衛生な感じで、髭も不均整に伸びっぱなしだ。三人それぞれが、お互いは関係ないというように背を向けて寝転がり、二人は胡乱(うろん)に宙に視線を泳がせ、一人は唯一の娯楽なのか、小さい音量で携帯ラジオを聴いていた。ホームレスの人たちだった。

 ドアを開けたジョーとアスミを、振り返りもしない。

 ジョーは落胆というよりは、世知辛い世の中だなといたたまれなくなった。ジョーの家の家計もまったく余裕はなかったが、それでもマンション暮らしで、毎日三食食べている。気が付けば社会は、その生活水準を超えられない人々が少しずつ増えている段階に入っていた。

 アスミと視線を交わし、何もせずに立ち去る意志を確認する。

 ドアを閉じる前に、アスミはボディバッグから板チョコを取り出し、銀紙ごと三分割してそっと床に置いていた。

「偽善だったかしら」

 階段を下りて地に立ってのアスミの言である。

「甘いもの。口にできないよりは、口にできた方がイイんじゃないか」
「私、トータルではこれで良いことな気がするの」
「どういうことだ?」
「普通の生活ができなくなった人達が辿り着いて、雨露をしのぐ場所になってるってことでしょ。子供の遊び場になってるよりは、有意義と言えない?」
「一理ある気はする。けど、世界に全員分の家があるっていうのが、やっぱり一番なんじゃないか?」
「それは、そうかもだけど」

 こんな会話をしながら、ジョーとアスミは思い出の旧・秘密基地を後にした。

 ちなみに、本題であった「百色ちゃんスタンプ」については、道を戻ってから神社の境内で無事発見した。

 プラスチックの判と朱肉で現れた百色ちゃんの絵は、よく言えばシンプルだが、別の側面からはお金がかかっていない感じ。常日頃からスマートフォンの画面に映し出される洗練されたCGイラストを見慣れている若者としては、「古きかな」という印象でもあった。
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