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非幸福者同盟 作者:相羽裕司

第七話「百色の七夕」(幕間エピソード)

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138/早朝、志麻の家にて

  ◇◇◇

「妖怪・百色(ひゃくいろ)ちゃんだよ」
宮澤(みやざわ)君? 意味が分からないわ」

 向き合って開口一番にジョーが発した言葉に、志麻は辛辣(しんらつ)に返した。

 内面では、早朝に女の子の家にほとんどアポなしで来るなよ、と思っている。最低限の身だしなみは整えたが、現在の自分はメイクもしていなければ、髪もちょっと跳ねてしまっている。

 早起きな鳥達の(さえず)りが大きく聞こえるような、まだ街が目覚めていない時間である。志麻もまだベッドの中にいた所、急ぎの案件らしいとリンクドゥで連絡が来たので応じたが、昨晩も遅くまでネットを見ていた志麻としては、睡眠も十分には足りていない。ジョーの姿はというと、下はトレーニング用のジャージに上はランニングシャツ。大天寺(だいてんじ)山の石段を走って登ってきたというこの少年への感想は、正直この男、何でそんなに元気なの? という感じ。

「ええと、そうか。志麻の家は商店街からちょっと遠いから知らないか。悪いんだけど、『百色ちゃん』で検索してくれる?」

 言われるままに、テーブルの上に置いてあったラップトップパソコンのブラウザを立ち上げて検索してみる。地名も入れた方が良いというので、ジョーのマンションがある辺りの地名も入れながら。

 画面に出てきたその画像を見て、志麻は。

「ゆるキャラ?」

 何やら四角い立方体の体に、ぬとーんとした目、鼻、口、大きさは人間の成人男性くらい(横幅はもっと広いが)、全体の色はくすんだ黄色系という、謎の生物? が画面には映し出されていた。

「そう、これこれ。近所の商店街のマスコットキャラなんだが」

 横からPCの画面を覗き込み、ジョーが事の経緯を話し始める。どうでもイイけど、ちょっと顔が近い。

「さっきランニング途中で、見たんだよ。ゴミ捨て場で、ゴミを漁ってた」
「待って。ちょっと待って」

 あまりに頭が痛くなりそうなジョーの話の導入に、志麻は少し状況を整理する時間を取った。ちょっとブラウザをスクロールして、その「百色ちゃん」に関する大まかな情報を集めたりしながら。

「ふーん。最近よくある街起こし用のゆるキャラよね。あ、存在し始めたのつい最近じゃない。って、S市公認のあの伊達政宗公とおむすびが合体したようなヤツだって、熊本のアレとかには全然負けてるのに、S市のさらに一角の商店街限定のゆるキャラって……」

 ひとしきり、情報を集めて整理したら気持ちが落ち着いてきた。百色ちゃん、あんまり可愛くないなと内心思ったりしながら。そうして、改めてジョーに笑顔で問いかける。

「で、なんですって?」
「百色ちゃん、ゴミ捨て場でゴミを漁っててさ。俺もマジか!? って思ったんだが。どうしたらイイか分からなくて見つめてたら、俺に気づいたみたいで、足早に逃げて行ったんだ。足は速かった」
「お腹が空いていたんじゃない?」

 このご時世、人間なら人間で廃棄食材で飢えをしのぐ立場の人もいるし、動物なら動物で、(からす)とか人間の食べ残しを(ついば)んでいる。ゆるキャラがそういうことをすることも十分にある。いや、ないか? そんな態度で志麻は少々投げやりに応える。

「まあ、聞け。それで走り去っていく百色ちゃんから、感じた気がしたんだ」
「何?」
「存在変動律」
「あ、これそういう話だったの?」

 フム、と顎に手を当てて志麻は思案する。急ぎの案件というのはそういうことか。オントロジカが絡む話ならば、確かにこの地の守人のアスミか志麻の出番である。まだリンクドゥに「既読」表示が付いてないアスミよりも、志麻の方にジョーはやってきたのだ。

「敵の存在変動者が絡んでる可能性がある、ってわけね」
「ああ、でも」

 しかし、仮に敵だとして、ゆるキャラを使って一体何を? 真面目に考え始めようとした志麻だが、ジョーの態度はどうもはっきりとしない。

「変な感じなんだ。存在変動律の色が、最初は黄色の系統だと思った。でも赤い気もしてきて、青い気もしてきて、色んな色な気もしてきて、気付いたら色も感覚も消えていた。俺、本当に存在変動律を感じたんだろうか、みたいな」

 ジョーの語りは歯切れが悪く、そう曖昧に言われてしまうと志麻としても困ってしまう。先の戦いでエッフェル搭を呼び出して以降、こと「相手の存在変動律を感じる」という特性においては、ジョーはアスミと志麻を凌駕する才能を見せている。そんなジョーがアンビギュアスにしか感じ取れない存在変動律とは何なのか。

「それで、自由に取っていってイイって書いてあったから、商店街のチラシを持ってきた」

 渡されたチラシは単色刷りで、お金がかかっていない如何にも少ない手間暇で作られたという感じのものだった。どうやら商店街のイベントの告知パンフレットらしい。

「何々。七夕スペシャルイベント、百色ちゃん現る。N町商店街近辺を探索で、豪華景品をゲット……ああ、いわゆる地域振興のイベント、的な。開催日は、もう今日じゃない」
「これに参加してみないか? 百色ちゃんに近づくチャンスだ」

 チラシにあまりにも訴求力がないせいもあるが、率直な所イベント自体にワクワクする感じはない。

「正直、N町商店街近辺にも、百色ちゃん本体にも興味はないんだけど」
「でも、イベントを巻き込んで何か企んでるヤツとかいたら大変じゃないか?」
「ということよね」

 ことオントロジカにまつわる非日常の事件を置いておいても、何らかのイベントに便乗してテロを起こす、といった類の手口は最近の大型犯罪の傾向の一つでもあった。

「分かったわ。今日はこれで過ごしましょう。あとでアスミにも連絡入れておくわ」

 そして、そういった手口を防ぐために、警備の人間がイベント自体に参加するというのもまた常套の対策なのであった。ただ、油断はならないと気を引き締める一方、ジョーの証言が明瞭さに欠ける点や、百色ちゃんのルックスにやる気がない点も相成り、志麻としてはまだそこまでの切迫性を感じていないのが正直な所であるが。

「それはそれとして」

 これは、守人としてではなく、個人の見解を手近にいたジョーに述べてみただけ。

「私、S市の七夕の日のキラキラした感じとか、クリスマスの頃のイルミネーションとか、ああいう雰囲気、苦手なのよね」

 ジョーの、返答はこんな感じ。

「そんなことを真顔で言う志麻さん」

(「さん」付け!)

 ちょっと癪だけど、自分よりも色々なこの街の素敵な部分を知っていて、それを空気を吸うように生きてきたであろうこの少年には、独特の育ちの良さを感じる時がある。

「百色ちゃんの件が何でもないようだったら、俺が知ってるS市の七夕の日の綺麗な所、志麻に案内するよ」
「そ、そう」

 アスミの心の奥にあるという、この地の街明りの美しさ。遅れてしまったけれど、志麻も探し始めるタイミングなのだろうか。だとするならば、ガイドはジョーにして貰うのが良い。何故だかそう思ったので志麻は応えた。

「それは、期待しているわ」
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