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非幸福者同盟 作者:相羽裕司

第六話「たとえばそこにいてくれるだけで」

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135/身に染みわたる昆布出汁のスープ

  ◇◇◇

 戦いの後、ジョーがマンションの九階に戻ってくると、カレンが朝食の準備をしていた。メイド服からジャージ姿に着替えている。鼻歌混じりに野菜を刻んでいる姿を見て、良かった、心身の衰弱は治ったようだと思い至る。エルヘンカディアによって奪われた彼女のオントロジカも、一旦はさらに天魔に収奪されたが、大巨神となったテンマに集積していたオントロジカが解放された今、カレンのものも戻って来たものと思われる。

「朝ご飯、食べてから寝る? もう寝る?」

 カレンが聞いてきた。声にも張りがある。大丈夫そうだ。

「もう寝るかな。へとへとなんだ」
「そう? じゃあ、味見だけしていってよ」

 そう言って、味噌汁のスープと具を少し、小皿に取ってよこした。スープを啜ってみると、昆布出汁が効いていて、殊の外美味しい。疲れた体に染みわたる。

「私、暮島(くれしま)さんとはお別れしちゃった」
「あ、ああ」

 味見の間に雑談がてらと、カレンが話し始めた。

「明け方にまたメールが来たんだけど。彼、入院中なんだって。微妙だよね。お別れしちゃったわけだから、お見舞いに行きますかっていうのも違う気がするし」

 暮島さんと言う人も、ジョーが会ったのはエルヘンカディアに支配されていた時だけなので、本来はどういう人なのか今一つ分からなかった。

「それで、懺悔と、決意みたいなものも付記してあったわ。今の会社辞めちゃうんだって。これもどう言ったものか。この不景気にイイのか? 私が安定職を持ってなくてどれだけ大変かとか、色々言ってやろうかとも思ったんだけど。でも、本人なりの考えがあるんなら、私なんぞがあれこれ言えないよねぇ」
「それで、何て返信したんだ?」
「『Good Luck!』ってだけ書いて送ったわ」
「ああ、まあ。幸運くらいは祈りたいよな」

 刻まれたニンジン、ネギといった小皿に取り分けられた具も食べ終わったので、さて寝るかと台所を後にする。

「七階のあんたの部屋にはひぃじーじが寝てるから、私の部屋使っていいよ」
「あ、そうなの? 昼くらいには起きると思うから」

 もうすぐアンナお祖母ちゃんも起きてくるだろう。カレンはこのまま午前中の家事・介護をやるつもりのようだ。

「ジョー」

 廊下のカレンの部屋の前まで歩いてくると、背後から声をかけられた。

「ありがとうね」

 カレンが何をどこまで知っているのかよく分からないけれど、とりあえず返しておく。

「まぁ、気にすんな」

 扉を開けてカレンの部屋に入り、姉のベッドにごろんと横になる。カレンの部屋は半分がネット放送用の個人スタジオみたいになっているが、もう半分は机があり化粧台がありベッドがありと、わりと普通の女子の部屋の様。クローゼットの中にはコスプレ衣装とかもあるけれど。

 すぐに、睡魔が訪れてきた。しんどい戦いだった。本当に疲れている。

 眠りに落ちる間際、しみじみと姉について心に過ったことはこんな感じ。

 カレンも、就職できなかったり、その頃ちょっと荒んでいたり、毎日家のことやったり、ネット活動もメイド喫茶活動も頑張ったり、巨乳ポロリ事件があったり、男にふられたりと色々大変だけど、でもそれでも。


――姉ちゃん。そこにいてくれてよかったよ。


  /第六話「たとえばそこにいてくれるだけで」・了
 物語前半のエピローグへ続く
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