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非幸福者同盟 作者:相羽裕司

第六話「たとえばそこにいてくれるだけで」

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133/救出作戦

  ◇◇◇

 ジョーがまとっていた紅の光が徐々に収まっていき、ジョーはなにやらヌメっとした地面に着地した。大巨神の胃の中と思われるが、暗い。

 などと思っていたら、かぶっていた兜の金色の月形が、ちょうど工事現場で働く人たちが夜間につけているヘッドライトのように、ピカっと光りだした。志麻の工夫と思われる。

 光が照らす周囲を見てみると、足場、外壁共に溶岩がドロドロと流れていた。大巨神の胃液は、おそらくマグマなのだろう。

 しばらく足を動かし、首を動かし、目を凝らす。すると、外壁と言おうか、胃壁と言おうか、そんな大巨神の胃の隅に、救出対象はいた。

「エルヘンカディアさん?」

 昼の交戦時に一度だけ名乗っていた名前で、蝶女王に呼びかけてみる。本名なのかどうかは分からないが。

 半身が、マグマに絡め取られている。身に着けていたアオザイは解け落ち、全裸である。火傷もひどい。片腕と片足がおそらく折れている。体の芯の骨にも重いダメージがあるかもしれない。それでも、このマグマの中に居たわりには、人間の原形をとどめている。その理由は、先ほどジョーには感じられた彼女自身のオントロジカのためなのだろう。

(生きてる)

 ジョーが確信すると、エルヘンカディアはゆっくりと目を開いた。

「あなた、は?」

 喉が焼けているのか、美声はガラガラ声になっていた。虚ろな瞳だ。現実をちゃんと認識できるほど、意識の方は大丈夫だろうか。もっとも、いきなり武者姿の男が現れたら、現実感が感じられなくてもしかりではあるが。

「あんたは覚えてないかもしれないけれど、宮澤ジョーだ。助けにきた」
「意味が、分かりません」

(やっぱり、混乱するよな)

 ジョーはおぶっていくのが良いだろうと、鎧の肩当てから胸・背中の部分を外した。自分にしろ近しい人間にしろ、いきなり多大な被害にあってしまうと、精神が追い付いてこないものだ。こういう時は助ける力を持った側が、有無を言わさず連れて行った方が良いとジョーは判断する。

「世界を回って集めてきたオントロジカは、全て奪われてしまいました。もう、私には何もない。生きる意味がない」

 しかし、思いのほかエルヘンカディアは冷静に言葉を話していた。ジョーは大巨神の胃壁に絡め取られていた彼女の半身を、具足に宿っているオントロジカの光を使って引きはがす。

「あんたみたいな強い人間が、一回破綻したくらいでそんなこと言うなよ」

 エルヘンカディアはゆっくりと首を横に振った。

「ここで私が全て奪われたということは、私は世界を正しく支配する0.1パーセントの人間ではなかったということなのです。私は、この世界のためには消え去った方が良い側の人間だった」

 ジョーはエルヘンカディアの脇を支え、彼女の体重を自分に預けさせた。

「支配するとかじゃなくて、そこにいてくれるだけでありがたいって人はいないのか。あんたのことをそう思っている人はいないのか」

 ジョーは器用に彼女の身体を介助・コントロールしながら、おぶった。

「そんな人、いません」

 かすれた彼女のつぶやきには、もう力がない。

「でも、いるぞ?」

 彼女の心を慰撫するための方便でもなく、実際にそうだからジョーは伝えた。

「近くまで来て分かる。最後に残ったあんた自身のオントロジカから感じられる存在変動律とは別に、あんたのオントロジカに重なるように、見守っているオントロジカが、あるぞ? 発してる存在変動律は、色はあんたのに似た黄色の系統で、印象はそうだな……あんたに向かって、お腹空いた? ほら、これをお食べなさい。あれをお食べなさいって、ちょっと構ってくれてる感じ」

 この破綻した人間の背後に、寄り添うように「何か」が存在しているのは、それこそ「真実」だった。エッフェル塔を呼び出して以降、感覚が鋭敏になっているジョーには分かる。

「心当たり、あるんじゃないか?」

 ジョーの背中で、ビクんと体を震わせると、彼女はすがりつくように、ジョーの肩越しに両腕で抱き着いてきた。

「お祖母(ばあ)、様……」

 彼女は小さく震えて泣いていた。

「育ててくれた人です。でも、もういません」
「そうか」

 ジョーはエルヘンカディアが自分に抱き着いてくれたのを幸いと、自由になった両手で二本の日本刀をスキーのストックのように構え、大巨神の胃の中から食道を目指して歩き始めた。

「ま、でも、勝手に助けるぞ」

 ジョーは日本刀を両手で交互にザクザクと刺して、器用に食道を登って行く、このまま喉を抜けて、口から出よう。

 慰めにもならないけれど、大巨神の食道をクライミングしている間、背中のエルヘンカディアに語りかける。雑談だ。無意味な言葉でも、何か聴いてる方が落ち着く時があるんだ。

「傷が治ったら、S市の北の方の沿岸部の街に行ってみようぜ。俺もそろそろ行ってみようと思ってたんだ」

 エルヘンカディアから、返事はない。

 彼女はただ涙を流している。しかしオントロジカに守られていてもなお、大巨神の中は暑い。ジョーは壁を登り続ける。

「ヒーロー博物館があってだな。津波で壊れてたんだけど、この前営業再開したって、テレビのニュースでやってたんだよ」

 エルヘンカディアから、返事はない。

 彼女はただ全身を震わせている。この暑さは、真夏に道場で練習していた時の蒸される感じをちょっと思い出す。ジョーは壁を登り続ける。

 やがて、大巨神の口の部分と思われる箇所に辿り着いた。今、乗っているのは舌の上かな。

 暗く閉ざされたマグマの密室の中、大巨神の上の歯と舌の歯と思われるものを、足と両腕をつかってこじ開ける。

 すると、外の世界から、ひんやりとした風が吹き込んでいた。

 あ、気持ちイイな、と思うと、光が差し込んでくる。陽の光だ。長い間戦っていた夜だった。もう、夜明けなんだ。

 こちらに向かって、手を差し伸べてくれている人がいた。先ほど感じた冷たくて心地よい風は、彼女の本質(エッセン)能力(テティア)によるものだろう。

「アスミ」

 風が収束した球体に包まれて浮かぶ彼女は、いつもの躍動的なツインテールに、光を背負って、微笑をジョーに向けている。

 ジョーはアスミの手をとった。
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