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非幸福者同盟 作者:相羽裕司

第六話「たとえばそこにいてくれるだけで」

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131/誓い

 砲弾となった宮澤・武者・ジョーは一筋の流星となって、大巨神に向かって光の尾をひき向かって行く。

 その流れ星の後ろ姿を見て、志麻が思い出していたこと。僅かの間、意識は2011年5月の幼かった自分に時間を超えて降霊する。

 志麻にある大事な二つの記憶のうちの二つ目。大地震から一月後に母親が家を出ていき、さらに一ヶ月。

 食事が喉を通らず痩せた志麻は、大天寺(だいてんじ)山の上のベンチでボンヤリと空を見続けていた。この日も変わらない青い空に向かって思念を送っていた。自分を永遠へと連れて行ってくれませんかと。

 とある日の早朝、長い石段をランニングで駆け上がってきた道衣の男の子と、少しだけ目が合った。歳は同年代くらい。近隣の学校のスポーツをやる者の間では、大寺山の石段は有名なトレーニングスポットなので、空手着や柔道着の人がやってくるのは珍しいことではないけれど、それにしてもこの時期に。避難所になってる学校だって、再開してないだろうに。

 周囲の新緑の中、男の子は水飲み場で一口水を飲んで喉を潤すと、一人でいわゆる柔道の「打ち込み」を始めた。技のイメージトレーニングの一種で、男の子の動作は志麻にも何となく分かる。「背負い投げ」の一人打ち込みなのだろう。

 五分か十分くらい、黙々と男の子は同じ動きを繰り返していた。ただ、頭の中にある理想のイメージの動きに、ここにいる現実の自分の動きを合わせられるようにと願いながら。

 やがて、男の子は大きく息を吐き出すと、道衣の袖で汗をぬぐい、軽く身体の調子を整えるようにその場で数回跳躍すると、また大天寺山の石段を下りて行ってしまった。

 その石段を下りていく男の子の背中が、志麻にはとても印象に残ったのだ。自分は絶対にああいう人間にはならないし、なれないという意味で。

 志麻は家に戻り、炊事場で久しぶりに朝食を作った。ボロボロの父のために、なによりも痩せてしまった自分のために。

 まな板の上でトントンと野菜を刻みながら、この時、志麻の魂から湧き出てきた一つの気持ちが、実は志麻の生き方の大事な指針。今回は、何度か壊れそうになってしまったけれどね。

(まさかね)

 昔日へと遊離していた志麻の意識が、2013年8月の戦場に戻ってくる。

 この苦しさが続く現在で、少年宮澤ジョーの背中を見ながら、もう一度志麻は自分にとっての大事な誓いの言葉をつぶやいた。

「自分が傷ついているということと、他人が傷つけばイイっていうのは違うから」
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