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非幸福者同盟 作者:相羽裕司

第六話「たとえばそこにいてくれるだけで」

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130/257

130/この地の英雄(ヒーロー)

 残骸と化したガンディーラは一旦、青い光の粒子へと解体され、陸奥の右手に向かって収束していく。陸奥はその光を掴みとると、こちらも己の最大出力モードに入る。

「概念武装・主砲」

 陸奥の右手に融合する形で現れたのは、志麻の破滅の意志の具現であった機構怪獣ガンディーラの主砲と、古の戦艦である陸奥の主砲が合体したものだ。ガンディーラの主砲のフォルムは動的で近代的なレイザーライフル。支える陸奥の主砲はありし日の巨砲主義的な大筒形式。二つが合わさって出現せしは、陸奥の小柄な体躯には不釣り合いの大型で、かつ和洋折衷・古今東西・温故知新・なんか全部盛りみたいな、色々混ざった感じ。

「よっし」

 ジョーは、当時の戦艦陸奥の40センチ砲よりもさらに拡張されている、いわばこの「主砲・改」の大口径砲の中に乗り込んだ。ジョーの体重が加わってなお、微動だにせず主砲・改を支えている陸奥の存在感はさすがである。

(人間砲弾になる日が来るとは、予想してなかったな)

 この主砲・改でジョー自身が飛んで、大巨神の腹の中に突入するつもりであるが。上空では、戦艦リシュルーの重量攻撃で大巨神を押さえてくれているのはありがたいのだが、何故かエッフェル搭が地上の四人の光景を見て笑っている。

「あれ? 志麻、さすがに俺、このまま発射されたら死ぬんじゃないか?」
「知らないわよ」

 志麻はちょっと怒っているのか、態度がそっけない。蝶女王を助けるという行動そのものには同調したものの、回りまわってジョーに賛同したことや、ジョーに助けられたことがまだ心理的に受け入れ難いのか。

「なんか、防護服みたいなのも作ってくれるとありがたいんだけど」

 志麻はじとっと大砲の中に半分入ってるジョーを見つめた後、無言で残りのガンディーラの残骸に手をかざすと、能力を発動させた。ガンディーラ、もとい元は愛護大橋の残骸は一旦光の粒子へと解体され、ジョーの姿を覆い、一種の防護装備へと再構築される。

(お? なんかイメージと違うな)

 ジョーとしては近未来SF作品に出てくるような防護服を想像していたのだが、実際にジョーが装着したものは違っていた。志麻の想像力というのもよく分からない。

「なんか、俺、伊達(だて)政宗(まさむね)みたいになってるんだけど?」

 ジョーが纏った具足は、金色(こんじき)の月形の前立が印象的である。胴は五枚に分割される構成で、黒い漆塗(うるしぬ)りである。草摺(くさずり)は九間六段下がり。兜は六十二間の筋兜。間違いなく、S市、もといかつてのS藩の藩主、伊達政宗公の鎧であった。

(これ、S市博物館に展示されてるヤツじゃん)

 もっとも、重要文化財になっている本物ではなく、志麻が愛護大橋の残骸から再構成した模造品ではあるのだろう。

「イイでしょ? 伊達政宗公」

 ジョーとしてもこの地に住む者として、戦国武将の中で好きな武将をあげろと言われれば、真っ先に出てくるお方ではあるが。

(確かにイイけど、防護能力的に大丈夫なのかな?)

 志麻が作ってくれた具足には脇差(わきざし)も付属されていたので、抜いてみる。この月の光を反射して幻想的に輝く日本刀は、政宗の愛刀の中でも「くろんぼ切景秀(ぎりかげひで)」と呼ばれるものである。今宵、大猿ならぬ大巨神、斬ってみせるか。

「ジョーさん、これもっ」

 次いで、陸奥から投げて渡されたのは菊一文字。はからずも二刀流になる。

「じゃあ陸奥、雄々しく解き放たれるんだけど、どこか静かで、あくまで目的は喜びが久しく続くことを願ってる感じで頼む」
「注文多いですねっ。難しいですが、やってみますっ」

 陸奥の右手の主砲・改に、この夜、陸奥が使える残りのこの地のオントロジカの全てが集まってくる。怪しく光る巨大砲は、常世に現れた一抹の夢の産物のごとしだ。

「アスミさん、ジョーさんの要求に答えるのにオントロジカを回すので、起爆力が足りませんっ。私に火をっ」

 言われたアスミは両腕を開いて、周囲を覆っていた地獄の業火を本質(エッセン)能力(テティア)で動かし始める。

「私の能力じゃなくて、パリから供給されてるオントロジカを使えばいいんじゃないの?」
「あんまり、異国任せなのもちょっとっ」
「ムっちゃんなりのこだわりがあるのね。分かったわ!」

 アスミが広げた両手を胸の前で合わせると、周囲の炎はくるくると回転しながら、陸奥の頭上で一か所に合わさり、大きな炎の鳥になった。現れた不死鳥はそのまま滑空(かっくう)し、陸奥に直撃する。

「火力、おーけーっ。ジョーさん、行きますよ!」

 陸奥は体に烈火を纏い、両の(まなこ)は炎に燃えている。全部チャージ完了。あとは解き放つのみ。ぐーっと、ジョーが入った右手に顕現している主砲・改を、勢いをつけるために一旦グっと引いた。

「うむ」

 巨大砲からぬっと上半身をせり出し、兜の前に二刀を構えながら、宮澤ジョー、ここで気持ちを落ち着かせるために一句詠んでみる。自分で創作する詩才はないので、伊達政宗公の時世の句を借り受けてみた。

「曇りなき 心の月を 先立てて 浮世の闇を 照らしてぞ行く」

 次の瞬間、陸奥は引いてタメた右手のバネを、否、全身に宿った全ての力を解放するように、力強く、歴戦の空手家の上段突きのように洗練された速さと動作で、その右拳もとい主砲・改を突き出した。

 古の戦艦は、あの時から幾星霜。守りたかったこの国の、北のともすれば忘却されがちな土地の片隅で叫んだ。

「主砲発射っ」
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