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非幸福者同盟 作者:相羽裕司

第六話「たとえばそこにいてくれるだけで」

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129/志麻

 ジョーの話を聞いているアスミは、彼女なりに頭を巡らし、一定の結論を導き出しつつあるらしい。

「『倫理』、みたいな話かしらね。今日の戦いは戦争だったとして、殲滅戦だったのか、邀撃(ようげき)戦だったのか。あるいは、敵を無力化できたなら、殺傷するのか、捕虜にするのか、みたいな? 私、心持ちジョー君寄りだわ」

 そう言いつつ、あとは志麻の判断に任せるという態度をアスミは取った。

 そう振られると、困ってしまう。蝶女王に対する拒否感は残っている。だが一方でこのまま死んでしまえばいいというほど彼女を否定したいだろうか?

 志麻は迷いの表情のまま、上空のエッフェル搭を見上げた。志麻の理想像のようなあの人ならどうするのだろうと。

 すると、意外なことに、いかなる原理なのか。場に満ちているパリからのオントロジカに波が立ち、信号が伝わってくるような感覚。遠距離にいるエッフェル搭が志麻に声をかけてきた。

「志麻ちゃん、だったかな。普遍的な答えはないよ。長い世界の歴史を見れば、無力化した敵を虐殺した出来事もあったし。憎み抜いた敵と和解したなんて例もある。つまり、志麻ちゃんがどうしたいかに、委ねられている」

 続いて、横にいた陸奥を見やる。先ほどは、志麻が大巨神を撃つべきだと言っていたが。

「ジョーさんは、根本的に戦艦の使い方を間違っていると思います。ただ、私がいた時代から一世紀近く経ったこの常世。今を生きる志麻さんと私で、この国の脅威を打ち倒せるのなら本望、なのですが……」

 続く言葉は、ちょっとケロっとした感じで。

「ついでに人一人助けられるというのなら、もっとイイことかもしれません。あ、これが『グローバル』っ?」

 何らかの見解に達した陸奥に対して、ジョーとアスミがそれぞれ返す。

「いや、分からん」
「半分くらいはあってるんじゃない?」

 結局は、志麻の決断に委ねられるらしい。志麻は、改めて左手首の古傷を見つめた。まったく嫌になるくらい、価値がない人間。

「志麻ちゃん。劇的な動機なんてなくてもイイ。本当はどうしたいか。どういう風に生きていきたいか。自分では、もう分かってるんじゃないの?」

 上空より、陽気なお姉さん、もといエッフェル搭の声。そういえば、あんまり自分の悩みを人に話したりって、なかったな。

 湧き出るままに、自分の気持ちを言葉にしてみる。

「母に傷つけられたと思っています。本当に守りたいものなんかもありません。この街にそこまでの愛着も感じられないです。未来に希望も感じられないです。今でも、傷ついた敵を助けようって話に、そんなにピンときてません。私はダメな人間だと思います」

 しかし、見つめていた手首は、自分でつけた傷跡が残っているけれど、これまで本質(エッセン)能力(テティア)を行使してきた手でもあった。

「ただ、こんな私なりに、何故か与えられたこの力をどんな風に使っていきたいかっていったら。壊したり、傷つけたりよりも、助けたり、守ったりするように使っていきたいです。本当、どちらかというと、くらいなんですが」

 主に、エッフェル搭に向けて伝えた告白を、周囲の三人も聞いていた。

「けっきょく、どっちなんだ?」
「ばか。助けるって言ってるのよ。なんか、志麻らしくてイイんじゃない? 義憤(ぎふん)とか正義の心で助けたいとか言われるよりも、そのやる気ないけど助けたいみたいなの」

 とはジョーとアスミ。

「志麻さん、カッコいいですっ」

 とは何故かテンションを上げる陸奥。

 最後の一押しは、志麻よりも強く優しく美しい、エッフェル塔から一言。

「だったら、一念発起して、そういう風に生きちゃいなよ」

 志麻は左手を握りしめて拳を作った。

(なんかこんな私で本当にゴメン)

 ヒュっと、残骸と果てたガンディーラに拳を向ける。

「ムッちゃんの右手に、主砲を合体させればイイのね?」

 不思議と、今度はできる気がした。何故、こんな自分みたいな人間にこの本質(エッセン)能力(テティア)が宿っているのか分からない。それでも、このいつもの遠くから『(ゆう)』なるものが供給されてくる感覚。これが、私の能力だ。

(この地のオントロジカさん。やっぱり、壊したいっていうのよりは、助けたいっていう方に、力を貸してくれるみたいね)

 ガンディーラの残骸が、青い光の粒子を発生させ始める。

 山川志麻。嫌いな言葉は自己実現。馴染めない言葉は幸せ、家族愛、エトセトラ。こんな私だけど、やってやるよ。

 志麻は叫んだ。

「『機構的な(リ・エンゲージ)再契約(メント)』っ」
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