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非幸福者同盟 作者:相羽裕司

第六話「たとえばそこにいてくれるだけで」

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126/陸奥より志麻へ

 エッフェル搭の矢継ぎ早の敢然たる攻撃に心を奪われていた志麻に、陸奥が声をかけてきた。

「エッフェル搭さんの助力は甚大で、感謝の言葉もありません。このまま、あの大巨神を葬り去ってくれるかもしれません。ですが」

 志麻も同感だった。今宵の激戦に幕引きが訪れるのが近いと感じている。志麻にもようやく実感が追い付いてきている。最初に戦争における物量の重要性を語ったのは志麻だったが、今、この場に満ちているエッフェル搭がパリから供給しているオントロジカの量・質は、蝶女王がこれまで世界中から収奪してきたオントロジカの全ての集積であるはずの大巨神すらも、凌駕しているのだ。油断もならないが、一方で道理として、戦局は自分たちに傾いているはずだった。だとするならば、一体これ以上陸奥は何を?

「一方で思ってしまうんです。この国を襲った脅威は、この国の古の戦艦である私と、この国で生まれ育った志麻さんとで、最終的には撃ち倒すべきなんじゃないかと」

 陸奥は真剣な目つきで語りかけてくるが、志麻にはまだ今一つ真意が理解できない。横からアスミが一言いれる。

「国防については、海外から助力までは受け取っても、最終的には国内の戦力で決着させたいとか、そういう話? ムッちゃん、このグローバルな時代に意外と保守的なのね」
「あうぅ。『グローバル』、その言葉、ジョーさんや兵司(ひょうじ)の知識から把握はしてるのですが、何か考え始めると頭が痛くなります」

 そう言って、陸奥は本当に頭を押さえた。志麻としては、保守的も何も、この和装で、正体はかつて国防のために作られた戦艦である。陸奥が控えめに言っても「この国」という概念に重きを置いているのは別に不思議じゃない気がした。

 陸奥はさらに続けた。志麻の祖母は志麻が幼い頃に既に他界しているので、そういうものかもしれないという想像になるが、陸奥は幼い少女の顏をしているのに、表情の皺の寄せ方、眼差しの深さ。そういう所にどこか蓄積された「歴史」が感じられて、孫を心配しているお祖母ちゃんみたいな印象も受ける。

「志麻さんのこと、少し考えていたんです。自棄(じき)的な行動を取ってしまうという人は私の時代にもいました。でも、志麻さんのそれは少しあの頃とは性質が違う。そんな、私の時代より時を経たあなたの苦しみに、どうしたら寄り添えるのかと」

 志麻は、陸奥が自分のことを存外に考えていたことに驚いた。居酒屋で会った時から?

 あるいはジョーから何か聞いていたのか?

「私の結論は、共に戦うということです。私という存在はあくまで戦艦です。戦うことがその本徒です。あの能力を使う志麻さんなら分かるはずです。私を構成している全てが、『戦う』ということを全うするために設計されている。こんな私だから、これしか言えない。志麻さん、傷を負っても、世界があなたに対して過酷でも、自分の価値に疑念を抱いてしまう夜があっても、戦って下さい」

 この子、随分と言ってくれると志麻は思った。こっちはもう、ボロボロの体だぞ、と。

 だが一方で、上空のエッフェル搭を見上げた。あの強くて美しい志麻の理想のような人が、今宵の暴虐な収奪者は倒してくれるかもしれない。それはありがたいことだけど、じゃあその後で、あんなに強くも美しくもない自分は、どうやって生きていくのだろうと。

(逃げるな。ここで逃げたら、後々響くぞ、ってこと?)

 陸奥の姿勢は真摯だが、ちょっと先輩目線から、お説教も含まれているのかと思い至る。もちろん私なんて存在は、咎められても文句なんて言えないのだけど。

 志麻は左の掌を返し、手首の古傷を見つめた。

「私に、どうしろと?」

 ちょっとキツい目つきになって、正面から陸奥に問いかける。

 返された陸奥の提案は、今まで志麻が考えたこともない発想に基づいていた。

「私の右手の主砲に、志麻さんの本質(エッセン)能力(テティア)で、残骸になってるガンディーラさんの主砲をくっつけて下さい。合体、みたいな?」
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