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非幸福者同盟 作者:相羽裕司

第六話「たとえばそこにいてくれるだけで」

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125/あの時代の抑止力

 志麻が見上げているエッフェル塔と大巨神の交戦は、人ならざる領域の戦いだった。その時、ガンディーラの残骸から少し離れた川べりにポチャリと水音がしたので振り返ると、水から赤い和装の所々が破け、顏はすすけた女の子が上がってきた。陸奥である。こちらも人ならざる存在なのだが、天空で戦いを繰り広げる超絶たる二体と比すると、まだ自分たち人間に近い存在のように感じられる。

「ムッちゃん。無事でよかった」

 ホッとしたようにアスミが言うと、陸奥はブルブルと首を振って顔の周囲の水滴を飛ばした。

「今日はこんなのばっかりですよ。水の中は苦手なのにっ」

 志麻としても、居酒屋で食の場を共にして以来好ましくも思っているこの謎の存在。もといアスミに習うなら「ムッちゃん」の無事に安堵しつつ、同時に先ほどエッフェル搭が語っていた事柄に、頭の理解が追い付いてくる。

「ムっちゃんが消えていないのに、エッフェル搭さんがあれだけの力をふるってるということは、現在この場には本当に遠距離から膨大なオントロジカが送られてきているんだわ。そんなことを可能にする宮澤君の本質(エッセン)能力(テティア)って、いったい?」

 パリ、というか欧州のあの辺りまで日本からは飛行機で十二時間ほどかかる。それだけの遠距離を超えて分け合ったり、受け取ったりできるオントロジカというものは一体? 様々な疑念が胸を過る。

 水から上がった陸奥がアスミと志麻に合流する頃、戦いは次の局面に入った。ちょうど大巨神の視線の真正面に当たる位置で浮遊しながら、エッフェル搭は大きく距離を取った。次に、右手に剣を握ったまま、左手を天に掲げた。

「概念武装・未完成の(ル・ナヴィル)抑止力(・デ・ゲル)

 エッフェル搭がフランス語独特の、音素と音素の連続が踊るような感じでつぶやくと、大巨神が周囲に吹き荒らしていた烈風とはまた異なる、大いなる波動が遥か天空に向かって集まり出した。

「複数の概念武装を同時に!?」

 志麻にはジョーの能力の奥行きも、この陸奥という少女の存在の核心も今一つまだ理解できていない。だが、少なく見積もっても尋常ならざる存在である陸奥が驚いているので、エッフェル塔がやろうとしていることは驚天動地のことなのだと理解する。

 大巨神の頭部がある位置よりもさらに上空に凝縮された波動は、やがて一つの荘厳で巨大な存在へと収斂されていく。蒼い光の中から天に現れたそれは、大巨神と同等か、それよりもさらに巨大な何かだ。

(船?)

 遠目に志麻が目を凝らして確認すると、陸奥が声を上げる。

「あれは、リシュルー!?」
「知っているの、ムッちゃん?」

 確認するアスミに対して、「主にジョーのひい祖父の記憶から」と断った上で陸奥いわく。

「私とだいたい同時代。先の大戦の頃のフランスの戦艦です。ワシントン海軍軍縮条約に翻弄されたという点で、共感を感じなくもないです。爆沈しちゃった私ほどじゃなくとも、未完成のまま戦場に投入され、己の本徒を全う仕切れなかった辺りも含めて」

 なるほど。それにしても、天空に現れたるその古のフランスの戦艦はとにかく大きい。

「アレ、完全に結界の外に出ちゃってるわね」

 アスミが冷静に突っ込みを入れている。めくるめく世界の中で、この地と彼の地の境界が皮一枚であったかのように、日常と非日常の境界も(かす)かなものなのか。その夏の深夜、S市の上空に巨大な戦艦が浮かんでいたのを目撃した者多数。街を守るために呼び出された亡霊船というその存在自体が、夏の怪談めいていた。

 次にエッフェル搭が掌を返すと、上空の戦艦リシュルーは落下を開始した。概念武装として出現させたその戦艦の砲台に頼るでなく、そのまま下の大巨神を圧殺しようというのだ。結界を無視して空から大戦艦を落下させるそのやり口に、さすがに志麻も破天荒なことをする人だと、新たにエッフェル塔のイメージを上書きする。

 大巨神テンマは落下してきた巨大戦艦の艦底を両腕を上げて支え上げた。その重圧を前に膝を折り、首をかしげ、また先ほどの剣の一撃で肩口が負傷しているため、いかな大巨神と言えど、支えるのは辛苦を伴っているように見える。人知を超えた大巨神が、人知を超えた大いなる存在を支えて耐えている。その姿は、天空を支えて立ったという神話のアトラスを彷彿とさせる。

「志麻さん、お願いがあります」
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