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非幸福者同盟 作者:相羽裕司

第五話「彼の地よりきたる」

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114/絶対強者

 ジョーもまた、(そび)える大巨人を見上げることしかできなかった。

 最後に蝶女王が大巨人の口の中から外に向かって手を伸ばしている時、ジョーはカレンから聞いた、孤独死するお年寄り達の最後の光景の話を思い出した。どんなに人に頼らず、最後まで強く自立した人間を標榜していたお年寄りでも、死ぬ間際は、ドアの外に向かって移動を試み、その途中で事切れていることが多いのだという。その話を聞く度に、誰かドアの外から手をさし伸ばしてくれる人がいたら良かったのにと、そんなことをジョーは思ったものだった。

「やはり、そうだったか!」

 大巨人テンマは両足を大股に開き、胸を張り、両手を広げ、明確に人間の言語で喋りはじめていた。ジョーは、昼間の戦いの時、天魔(てんま)だけは蝶女王に使役されている男達の中でも自身の名を名乗っていたのを思い出した。こうして今、己を支配していたはずの蝶女王さえも捕食してみせたのは、その常軌を逸するほどの自我の強さゆえなのだろうか。

 やがて、蝶女王を体内に取り込んだ大巨人テンマは、さらなる変貌を開始する。灰色の巨大な身体が、さらなる巨体を志向するようにまた膨らみ始める。

「最初は肉体の強さを求めていた。だがそれだけではこの世界の勝者になれないことをやがて知った。次には金を手に入れることを求めた。これは中々の力だった。物が、食い物が、女が、手に入った。やがて、金と情報が結びついていることを学び、優れた情報も収集した。これは主に人間の精神を支配するのに有効だった。だが、まだ足りぬ。この世界の全てを支配するには、まだ何かが足りないと思っていた」

 拡大を続けるテンマはついには七十メートル級か百メートル級か。矮小な存在からは正確には知覚もできない巨大さに達すると、今度はその肉体の色が変わり始めた。灰色から、凝縮された熱を帯びてるようなマグマの色へ。熱を、衝撃の波を、光を周囲に波及させるその巨体は、どこか神々しくもあった。

「そして、オントロジカ! やはり、こんな力があったのだ。この世界を支配する、本当の力! 真実の力! 次の世界では、この力を収奪し切った者が、絶対強者になるのだった! さあ、時はきたぞ! 全てを手に入れるのは、このテンマ・ソウイチロウだったのだ!」

 最後に、極大化した体にマグマの光をたたえながら、テンマの背中に強い光を放つ羽が現れた。蝶女王がそれまで世界中を回って収奪してきたオントロジカの全てを食って生成されたそれは蝶の羽のようでもあったし、もはや人知を超えた姿としては、天使の羽のようでもあった。かくして大巨人テンマは、最終的には大巨神(だいきょしん)テンマへと至った。

 大巨神テンマはカパっと口を開くと、マグマ色に輝く凝縮熱線を発射した。超スピードの熱線の「通り道」にガンディーラがいたが、防御する暇すらなく熱線が通り抜けた時には、ガンディーラの機械の左腕は切断されていた。

 熱線はそのまま軌道を弧を描くように変化させ、やがてジョーがいる河川敷の方にも向かってくる。熱線が通り過ぎた場所には、遅れて巨大な火柱が上がっている。

 全てを焼き払う大巨神の熱線がジョーの元に到達する時、ジョーの前に両腕を十字型に組んで熱線からジョーを守ろうとする少女が一人。陸奥だ。

「概念武装・鋼板(こうばん)

 その身を盾に変えた陸奥に熱線が到達する。陸奥が己の身に概念として顕現させたアーマープレートは、厚さ三十センチというありし日の戦艦としては最高水準のものであったが、大巨神から放たれた圧倒的なエネルギーの前にもったのは、ほんの数瞬であった。その数瞬で陸奥はジョーを蹴り飛ばし、何とか熱線の破壊圏内から逃がす。

 派手な爆発が起こった。

 倒れ伏したまま爆風をやり過ごしたジョーが河川敷周辺の状況を確認すると、熱線自体は消滅していたが、各所で上がる火柱が見える。そして、陸奥の姿もなかった。

 体が軋みを上げて、立ち上がろうにもいきなりは体が動かない。

 現れた大巨神の前に、戦いは何人と何人が戦っているとか、お互いの物量がどうとかいう次元を終え、ただ純粋なる一体の蹂躙者と、力なき蹂躙される者達という構図だけが残った。
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