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非幸福者同盟 作者:相羽裕司

第一話「思いがけない助力」

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11/胸も大きい

 時間はやがて夕方から夜と呼んだ方が良い時間に移っていく。いい加減学校内で内省し続ける訳にもいかず、ジョーは立ち上がり、裏門に向かって歩いて行く。

 地域としては伝統ある女子高だったという歴史があり、共学になったのは数年前という学校である。シックな女子の冬の制服に、街の人々は長く続いている正統性のようなものを見ているが、今は夏。ワイシャツやスカートといった外装よりは、汗の匂いや肉体に目がいきがちだ。

 それもこんな時間になると、女子生徒、男子生徒共に姿は見えなくなる。

 と、思っていたら、裏門へのルート途上。校舎裏で人影と遭遇した。

 人影。女子生徒は壁面に体を半分張り付かせながら、窓の中を覗き込んでいる。何か、校内の状況を隠れて伺っているような?

 本日二度目の邂逅(かいこう)である。何か事情があるのを察しつつ、後ろから近付いて静かに声をかけてみる。

「何やってるんだ?」

 女子生徒。空瀬アスミは振り向いた。周囲が暗くなってきていたせいか、光る眼が猫のようだなと思った。

「ジョー、君」

 アスミが伺っていた校舎内を、ジョーもあちらから姿が見えないように気をつけながら覗き込む。

 階段の下で、男と女子生徒が話をしている。

「インヘルベリア先生と、誰だ?」

 ひそひそ声で話す。女子生徒の方は、顔は知っているが、名前まではすぐに出てこない。遠目から、明朗な印象を受ける。

進藤(しんどう)真由美(まゆみ)さん。成績は学年一位」
「へぇ」

 なんだ、アスミも定期テストの成績上位者の情報とか、チェックしてるんじゃないか。昼間の話は、自分がチェックされる側としては無自覚だった、ということなのか。

「可愛くて、肌が柔らかそうで、胸も大きいわ」

 進藤真由美は、長い梳かれた黒髪を胸のあたりまで流し、前髪だけピンで留めている。伸びた背筋に、会話の折々に見せる姿は優雅だ。頭からつま先まで、幼少時からの厳格なしつけが行き届いているような。優等生という枠を超えて、令嬢、といった雰囲気を携えている。

「こんな時間まで講師に質問とか。よくやるもんだ」

 外見はともかく、学年一位というのは勉学の質と量も相当なものなのだろう、などと漠然と関心した。

 アスミが、そんなジョーの態度に憐れむような視線を横目で送ってくる。

「バカなの?」

 辛辣(しんらつ)な物言いだ。幼馴染じゃなかったら、今日会ったような人間には言わないだろう。

 ただ、やがてジョーもアスミのその表情の含意に気が付いた。

「え、そういうこと?」

 アスミは目で訴えかけてきた。その含みから、恋慕(れんぼ)、という言葉を連想する。

「尊敬、の範囲なんじゃないのか?」
「ジョー君はまだ甘い。思考を一歩進めても、生徒と先生の禁断の恋とか、そんな段階を想像してる。でもたぶん、もっと、こう」

 アスミは言葉を続けづらそうに、言いよどんだ。

「肉体関係とか、そういうこと?」

 アスミは進藤真由美の方を注視したまま、不機嫌そうに眉をぴくりと動かした。

 ジョーの方も改めて進藤真由美の方を見やってみると、なるほど、艶っぽいというか、緩んだ表情をしている。

「だが仮に、二人がそういう関係だったとして、お前は何をするつもりなんだ?」
「本当にそういうことが行われそうだったら、止めるわ」

 ジョーは頭を抱えた。

「アグレッシブなヤツだ。あれ、でもこういうのって、法律とかだとどうなんだっけ?」

 先生が生徒に手を出すのはアウトだった気はするが。

 やがて、インヘルベリア先生と進藤真由美は、近い距離のまま、ともすれば寄り添うように階段を登って行った。

 続いて、アスミが軽やかにジャンプし、窓から校内に入る。不思議と、着地の靴音はしなかった。

「私、こういう時はうだうだ言ってないで、許さない! って強い方に飛び掛かっていく男の子の方が好きかも」

 アスミの言動からは、インヘルベリア先生の方が、進藤真由美よりも強い立場だ、という点に力点を置いている。その点が、どうもアスミにとっては大事なことらしい。

 続いて、ジョーも跳躍して窓から校内に入る。特に怒りは湧いてこなかったが、アスミをこのまま放っておくのが躊躇われた。

 アスミはジョーの方を一瞥(いちべつ)すると、階段に向かって歩きはじめる。その堂々とした態度に、そういえばこういう勇ましさがあるヤツだった、などとジョーは思い出していた。
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