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非幸福者同盟 作者:相羽裕司

第四話「サヨナラの色」(後)

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105/259

105/煉獄の中で煌めき始める、彼方より届きし模造の星アカリ

  ◇◇◇

「ぶはっ」

 S市の一級河川に落下したジョーは、水中を移動して何とか河川敷まで辿り着くと、少し飲み込んでしまった水を吐き出して咳き込んだ。夏とはいえ、川の水は冷たかった。

 少し、流されたか?

 周囲の状況を確認すると、愛護大橋が「あった」場所からは少し離れていた。

 その、元・愛護大橋があった地点を見上げると、夜は炎に包まれ、大火を背景に大型機構怪獣と巨大紋白蝶が対峙していた。飛び火した火炎が、河川敷の草を所々焼いており、各所で火の手も上がっている。

「まるで、地獄じゃないか」

 ジョーは今は亡くなったひい祖母、つまりひぃじーじの奥さんだった人から昔聞いた、先の戦争の時にS市を襲った大空襲の話を思い出した。こんな感じだったのかな、と。

 ハっとして周囲を見回すと、何ということだ。アスミの姿がない。大橋からダイブした時に離れてしまったのか? あるいは川の中で離れてしまったのか? もとから背負っていても体の重さが、もっと言って存在感が感じられなかったため、消えてしまっていても分からないでいた。奥歯をきつく噛み合わせ、拳を握る。そんな、大事な存在がいつの間にか消えてしまっていたなんて、そんなのはダメだ。イヤだ。

 次に顔を上げると、ジョーが辿り着いた河川敷の眼前に、一振りの日本刀が墓標のように突き刺さっていた。周囲の火を反射して、発する光は熱を持っているかのよう。そういえば、陸奥の姿も見えない。

 だが、少し呼吸を整えて目を瞑ると、ジョーの背骨の方に、彼女と繋がっている感覚――それは紅い線のイメージでジョーには知覚されるのだが――がまだ感じられるのに気づいた。陸奥の方は、まだ現界しているようである。だとすると、愛護大橋が消滅する際の衝撃で、ジョーと同じく少し流されたか?

 より遠方に向かって目を凝らすと、彼方にはS市の夜の街明りが今まで通りに、ポツポツと灯り続けている。その光が綺麗なままでいることに、ジョーはホっと胸を撫で下ろす。どうやらこの地獄の光景は、愛護大橋近辺に展開されている「結界」の内部で今の所収まっているらしい。外は、S市自体はまだ無事だ。皮肉なことに、敵である蝶女王が展開した結界が、仲間である志麻の機構怪獣が吐き出した大火炎から、S市を守っている。

 さて、街がまだ無事なら、自分もまだ何かしないとな。あの街明りの一つ一つの下に、ジョーにとってのカレンが。各々にとっての情を向ける大切な存在がいるのかもしれないのだから。

 それだけじゃない。アスミも探さないといけない。陸奥とももう一度合流したい。そして、これはおこがましいのかもしれないけれど、志麻も、俺が救ってあげられたなら。場に木霊する機構怪獣の悲しい咆哮を聴いていて、そんなことを思い始めてしまっていた。

 ジョーはえいっと河川敷に刺さっていた菊一文字を引き抜くと、一振りだけ空をスウィングして、前に向かって歩き始めた。向かう先には、炎の中で巨大機構怪獣と巨大紋白蝶がお互いを否定し合わんと向かい合っている。

 一歩一歩、地獄の中を歩いて行く。

 例えば一昔前は豊かだったらしいこの国で、今は幸せなんて見つけ難く、あるのは栄える者の傲岸(ごうがん)と、切り捨てられた者の破壊への意志だけだとして、今もこうして身を焼かれながら歩くことしかできない、弱々しい俺は何を拠り所に生きていけばイイのだろう。

 答えなど分からないまま、ジョーは刀を握りしめて、一歩一歩、歩き続ける。


 ただ最後に一つだけ、この煉獄の中でジョー自身もまだ気づいていない事柄について。

 ジョーの胸元にある、ジョーが律儀に身に着けていた父から貰ったネックレス。その先端に付いている模造の蒼水晶が、淡く輝き始めていた。

 そのプラスチックの宝石は、S市から遠くは西へ、彼の東京の、今ではサブカルチャー文化の集積地として有名なあの場所が以前、電気街として認知されている頃に若き日のジョーの父が購入した、複製されきった消耗品ではあったのだが。

 右手に橋を。左手に塔を。胸には(ほこら)。煌めき始めた、ジョーの胸の玩具の宝石が発する光は、何だか、あるいは幾光年も離れているはずの、天空すら超えた遠い遠い場所から、降り注いできたものでもあるかのようで。

 そう、一言で言えば。


――輝き始めた胸元の小さな明りは、時間も空間も超えて宇宙(そら)の彼方より届きし、原初の星の光に似ていた。


  /第四話「サヨナラの色」(後)・了
 第五話へ続く
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