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【スカッとする】JKが3年間のイジメに対する公開復讐を今からやってみる【生放送】

作者:識原 佳乃
 楽にスカッと読んで頂けるとありがたいです。この物語はフィクションです。

2015年5月9日加筆修正
「はい。じゃあ、みんなからなにかある? なければ終わりにするけど?」
「……先生ひとつ言いたいことがあります」
「あら、雨海(あまがい)さんどうかしました?」

 全授業が終了し帰りのホームルーム(HR)に突入した教室内は、放課後をどのように過ごそうかと相談するクラスメイト――“犯罪者共”の騒音で満ち溢れていた。残念、犯罪者は帰れませんよ?
 そんな中立ち上がったのは、私――雨海(あまがい)千尋(ちひろ)
 いきなりだけれど私は高校3年間をイジメと共に歩んできた。きっかけがどんなことだったかなんてもう覚えていない。
 イジメあるところに雨海在り、とは私の二つ名的なものだ。うん、何か違う気もするけれど……。
 とにかくこの3年間、私は上げれば(きり)の無いありとあらゆるイジメのオンパレードをスペシャルフルコース気味に味わい続けてきた。それはもう噛めば噛むほどに味が出るという具合に。

 そして今日、この犯罪者共を地獄に叩き落とすために私は初めて戦う。初戦にして最終戦。始まり(イニッツィアーレ)終わり(フィナーレ)

「私はこの3年間イジメられ続けてきました」
「……えっ?」

 感情を押し殺した深い、深甚な笑みを湛えて努めて冷静に底冷えを孕んだ声で言い放つ。
 恐怖なんてものはなかった……ただあるのは異様な昂揚感だけだった。
 水を打ったように静まり返る教室内。誰の息遣いすらも聞こえてこないそんな空間に耳鳴りがした。
 私が投下した爆弾発言を処理できなかった先生が口を鯉のようにパクつかせて絶句していた。
 なんてアホ面……コホン、なんて素晴らしい顔をしていらっしゃるのでしょうか先生。無能で愚鈍で梼昧な先生にはお似合いの表情です。

「あれ? 聞こえませんでしたか? ではもう一度……私は3年間をここにいる犯罪者共にイジメられて過ごしてきたんです」
「……あ、雨海さ――」
「――っ、ゴミガイ!」
「黙れクソアマ!」
「あらら……先生、早速犯罪者が釣れましたよ?」

 先生の言葉を慌てて遮るようにして絶叫に近い声を発したのは、イジメのリーダー格の男女だった。
 ……あら、黒幕は釣れなかったわね。

「大体証拠もないのに何いきなり言ってんのよ? バカなんじゃない?」
「そうだ! 勝手なこと言ってんじゃねぇよ!」
「刑法231条、侮辱罪、カウント3。先生、この反応を見てどう思います?」

 ゴミガイ、クソアマ、バカ。既にこれだけでも証拠になるのだけれど。録音と“公開生放送中”だし。

「……え……えっと、み、みんなはどう思う?」

 犯罪者に思考を丸投げだなんてさすがです先生。教職を即座にお辞め頂きたいです。……きっとそう遠くない未来に辞めることになるでしょうけどね。

「先生? 先ず証拠がありませんし、雨海さんの妄言って可能性だってありますから」

 つれた……釣れた! 黒幕が釣れましたよ! 思っていた以上に早く釣れたので取り敢えず一安心。
 私同様に立ち上がってそう発言したのは黒幕の女帝――神藤(しんどう)セリカだった。
 妄言だなんてよく言えるものね。これだけ“証拠”を残しておいて。

「神藤さん……いえ、間違えました、犯罪者の黒幕さん。“証拠”ならありますよ? ごく一部ですけど」

 そう言って私は自分の鞄を机の上で引っ繰り返した。
 パンパンに膨れていた鞄から雪崩のようにして出てくるのは、3年間のうちに溜まりに溜まった“証拠品”のごく一部。
 死ね、ゴミなどと落書きされたり破られた教科書やノート、切り刻まれた体操着に下着、ヘドロがこびり付いてカピカピになった内履きに、液体がこびり付いて黄ばんだ体育館シューズ、ディスプレイが粉々になったスマホに折り曲げられた電子マネー……そしてハサミが突き刺さったお弁当箱に至っては最早一種のアート作品にも見えるレベルだった。

 教室内を見回して犯罪者共を確認すると、蒼ざめている者、私を睨みつける者、関係無いとそっぽを向いている者、といった感じで三者三様の反応を示していたが、神藤だけは全く意に介さないといったフレーズが当て嵌まる様な普段通りの表情をしていた。
 さすがね。それでこそ黒幕。それでこそ首謀者。敵ながら天晴。

「それを私達が行ったという証拠がないでしょう? 雨海さんの自作自演って可能性もあるでしょうに」
「残念でした黒幕さん。ここにある証拠品は全て犯行現場を録画してあるの……ほら、どうかしら? 綺麗に映っているでしょう? 貴方達の醜い姿が」

 そう言って私はタブレット端末を取り出して証拠の動画を再生する。

『あのメスブタ随分と可愛らしい下着を着ているのね。親のコネかしら? コワールの新作なんて』
『あー! ほんとだー! セリカどうする? 捨てとく? 汚しとく?』
『そんなの手緩いんじゃない? もっと過激な下着に私達でリメイクしてあげましょう』
『セリカ最高~! ハサミもってくるねー』
『よく切れるのでお願いね』


『あ、雨海のやつ美人だからって調子に乗りやがって……はぁ、はぁ』
『うわっ! お前何してんだよ? 変態じゃん』
『見りゃわかんだろ? ナニしてんだよ! これはおかずだ、おかず!』
『お前サイコ野郎だな。体育館シューズに発情するなんて』
『ちくしょう! いつか……いつかぜってぇ犯してやるからな……うっ、イク……』

 切り刻まれて何も隠せなくなった下着編と変態サイコ野郎の体育館シューズでオナニー編を一気に流して反応を待つと……、

「メスブタ! あなたよくもやってくれたわね」

 平時の表情をどこかに捨ててしまったのか、修羅の面を被った神藤が烈火の如く吠えた。
 「よくもやってくれた」ですって? この状況で面白いことを言うなんて反則でしょう?



 それはこっちのセリフだ。



「ふ、ふざけんじゃねぇぇぇ! 消せ! 今すぐ消せよその動画! 犯すぞクソアマ! うおぉぉぉぉん!」

 リーダー格の変態性癖持ちのオナニー男子も吠えた。遠吠えだった。
 だからどうしてふたりとも私を笑かしにくるのかしら?
 もしかしてギャグを披露して私から笑いを取れば許されるとでも思っているのだろうか?



 残念。許す訳がないだろう。



「それで先生はどうお考えなのでしょうか? 先程は思考を丸投げなさってましたけど、今回は先生のお言葉が聞きたいんです」
「……お、お話しましょう雨海さん。みんなで考えて、よりよい解決方法を考えて……今は大切な時期だから」
「先生また丸投げなさるんですか? ……いえ、やっぱり話しが進まなくなるので一旦そちらは置いておきますけど、先生は事を荒立てず穏便に済ましたいということで良いんでしょうか? 当事者や皆を交えて円満解決という選択肢で?」
「え……えぇ、だってそうでしょう? みんな合格内定をもらっているのだから」

 全く……この先生は素晴らしい対応をして下さります。事実隠蔽ですか……さすがです先生。
 それと先生? 良いことを教えてあげましょうか? それは……、

「先生? 私はこの時期だから言ったんですよ? この大切な大切な……それこそ今後の人生を左右するようなこのタイミングで」

 ニッコリと、自分でも驚く程に深く冷酷な笑みが出てしまった。
 そんな私の言葉を聞いた先生は無様に頬を引き攣らせて蒼ざめていた。
 うふふ……とても素敵な表情です先生。惨めで汚い大人を凝縮したアーティスティックな表情を見ると私、アドレナリンの分泌が止まりませんの。

「あ、雨海さんとにかく一旦落ち着いて?」
「皆は無視するだけでは飽き足らず、私にぶつかったり、足を掛けて怪我を負わせました。時にはデマを流されてあること無いことを言われて、からかわれました。ある時はお財布から電子マネーを盗られて破壊されたり、体操着や教科書を破られたり、体育館シューズに精液を掛けられたりもしました。そして、バカ令嬢、や、クソアマ、犯すぞ、と罵られ、あまつさえ、死ね、や、殺す、自殺しろ、などの生命を脅かされたこともあります」
「あ、雨海さん……」
「これらはすべて立派な犯罪行為です。刑法208条、暴行罪。刑法204条、傷害罪。刑法230条、名誉棄損罪。刑法231条、侮辱罪。刑法235条、窃盗罪。刑法261条、器物損壊罪。刑法222条、脅迫罪。刑法202条、自殺関与・同意殺人罪。これでもまだ話し合いで解決するとお思いですか先生?」

 証拠は全て揃っている。それにこの場で終わらせられない様に既に“公開生放送中”だ。きっと今職員室では電話が鳴りやまない状態になっているだろう。

「けど……」
「お、おいっ! ワクワク動画の生放送で今のこの状況が配信されてるぞ!?」
「あら? 気付いてしまいましたか」

 私のスマホで音声のみの“公開生放送”をしているということに、どうやらやっと気付いてくれた者がいるようだ。
 学校の住所と電話番号、そして私の所属する学年と組みを載せておいたのが功を奏したのだろう。
 タイトルは『【スカッとする】JKが3年間のイジメに対する公開復讐を今からやってみる【生放送】』。
 時既に遅しとはまさに今のこの状況を的確に言い表す言葉だろう。

 この辺りから教室内は嗚咽やすすり泣く声が占め、私を睨みつけているのは神藤ただひとりだった。
 犯罪者の癖に何を勝手に泣いているのだろうか? 自己の感情だけで泣き出すなんて私は認めないし許さない。この程度で泣くぐらいなら初めからするな。
 その点神藤を見て欲しい。やはり彼女は黒幕で女帝なだけはある。皆にもあれだけの覚悟と憎しみを持って私に接して欲しいと思う。

「雨海さん放送をきっ――」
「メスブタァァァァァァァァァァァ! 今すぐその放送をやめろ! 消せぇぇぇ!」
「見苦しく取り乱して叫んで、はしたないことこの上ないわね……けれど残念でした黒幕さん。この生放送の開始と同時に犯罪者の皆さんの証拠動画を各種動画サイトや掲示板に自動でアップロードしてあるので、今更この配信を切っても意味なんてないんですよ。お分かり?」
「しねシネ死ね死ね死ねぇぇぇぇぇぇぇ!」

 今の私の言葉がトドメになったのか、髪を掻き乱し半狂乱の様相を呈してきた神藤。
 うふふ……実はアップロードしたというのは嘘なのだけれど……どうせならもっと狂って。そして私を快感に浸らせて頂戴。

 そんな調子で私がトリップしそうになっていたら教室のドアが乱暴に開かれた。あら、はしたない。
 見れば頭をこれでもかとハゲ散らかした校長先生が戦々恐々とした表情を顔面に貼り付けて、飛び込んできた。あら、眩しい。そんな攻撃反則ですよ。

「雨海くん今すぐ放送をやめろ!」
「校長先生どうもこんにちは」
「雨海! はやく、早く停止しろおぉぉぉ!」

 私の挨拶を無視してハゲ上がった頭をゆでだこの様に真紅に染めて喚き散らすハ……コホン。校長先生。
 挨拶は基本ってそこの校内教訓にも書いてあるのにそれすらも守れないのかしら? だからこそこんなにも腐った犯罪者を養成する教育機関になってしまったのね。嘆かわしい。

「校長先生落ち着いて下さい。そんな言葉遣いは美しくありませんよ? ましてや生徒を呼び捨てにして怒鳴りながら威嚇するなんて……これ生放送なんですよ? お忘れなのでしょうか?」

 愛嬌5割増しの笑顔を湛えてあざとくちょこんと小首を傾げる。
 すると校長せんせ……コホン。ハゲ……あらやだ間違えてしまいました。

 ……改めまして、ハゲは先程までの煮えたぎるマグマの様な紅蓮色から一転して、淀みのない澄んだスカイブルーに頭の色を変えた。あらやだ、うちの学校のハゲったらカメレオンだったのね? 挨拶ができないのも得心が行ったわ。

「雨海くん。どうか放送を止めていただけないだろうか?」
「ハ……コホン。校長先生、それは不都合が生じているから事実の隠蔽を行うために止めて欲しい、ということでしょうか?」
「い、いや、断じて違うぞ?」
「ならば止めなくてよろしいですね? 本校の校則には、HR中に生放送をしてはならない、という決まりは載っていませんもの」
「え、あ、いやその、あれ? だが?」
「それよりも校長先生? いじめ防止対策推進法が定めるところの重大事案である“いじめにより当該学校に在籍する児童などの生命、心身又は財産に重大な被害が生じた疑いがあると認めるとき”が発覚したのですから、至急やらなくてはならないことが他にあるのではないでしょうか? ……それと私は校長先生の今後の身の振り方を切に憂慮しています」
「そ、そそそれは今、たいさ……」

 このハゲ先程から日本語を話せなくなってきているのだけれど、もしかして本当にカメレオンなのかしら?
 あ、最後に一番重要なことを言うのを忘れていたわ。
 チラリと壁掛け時計を見ていつの間にかリミットが近づいていることに気が付いたので、捲し立てる様に言う。

「言うのを忘れていましたが金銭的被害のご報告をいたしますね。先ず、財産的損害による損失補填費、計272万円。次に精神的損害は3年間の合計ですが目一杯おまけして、持ってけ、泥棒! の大特価、大手通販サイトのアマゾネスもビックリのスペシャルプライス、計3億8千999万円です。詳しくはこちらの詳細にあります。尚、これからの交渉はすべてそちらに書かれている弁護士さんを通して下さいね」
「さ、さささんおく」
「犯罪者の皆さん、良かったですね私が“バカ令嬢”で。普通の生徒だったら損失補填費を払えなくて自殺していたと思いますよ? それでは時間なので私は帰らせていただきます。さようなら犯罪者の皆さん。塀の中で仲良くお過ごし下さい。さようなら先生と校長先生。今後の身の振り方に悩んだら私の所に来て下さい。召使いとして雇ってさしあげます。それでは本当にさようなら。黒幕さん、最後にあなたの醜い泣き顔が見れて私は満足よ」

 神藤は乱れた髪を直しもせず目を吊り上げて私を睨みつけながら、マスカラが溶けた黒い涙を零していた。
 その涙を見れて私は本当に満足だった。もう、これで終わり。
 そんな神藤を横目に私はチャイムと共に教室を去り、「雨海くん、待ってくれ!」と追いかけてきたハゲと先生に「私言いましたよね? 弁護士を通して下さいと?」ニコリと笑顔で牽制を入れ、固まってしまったふたりを放置して校庭に乗り込ませた漆黒のボディにウイングドBが光る自家用車に向かった。

「御嬢様。見事な立ち振る舞いにこの爺、熱く込み上げてくるものがございました」

 車の横に扉を開けて控えていた爺やが私を労わる様に声を掛けてくれた。
 その言葉に返答しつつ私は後部座席に乗り込んだ。

「ありがとう爺や。さぁ帰りましょう。……車通学というのは楽ね。初めからこうしていればよかったわ」
「御嬢様、誠に勝手ではございますが爺は初めて御嬢様をお迎えに来たもので、少々ドライブを嗜んでみたいと思っているのですが、いかがですかな?」
「えぇ、そうね。爺やに任せるわ」

 車中は他人にパーソナルスペースを犯される心配が無いので全ての緊張の糸が切れてしまったらしく、私は鈍く回らなくなってしまった思考回路から導き出された、人任せという答えを口にしていた。

「この車は防音で後席はスモークとサンシェードに覆われていて外からは全く見えません」
「あら? 知っているわそんなこと」

 口では平静を装っているけれど今更ながら足が震えてきた。
 きっと今までの異様な興奮状態が解除されつつあるのだ。
 それにトドメは今の爺やの言葉で間違いないだろう。私に再確認させるように車中は声も漏れないし、他人からも見られないと敢えて言ったのだ。

「えぇ、ですからごゆるりと御嬢様の気が収まるまで爺はドライブに勤しみたいと思います。それでは発車致します」

 爺やはそう言うと運転席後方の防音パーテションを自動で締め、ゆっくりと私を気遣うように車を発進させた。
 分かっている。爺やが気を使ってくれているということは。
 ……それでは、その優しさに甘えさせてもらいましょうか。

「……あ、りがとう……爺や……うぅぅ」

 この3年間様々なことに耐え続けてきた私の心は決壊し、間欠泉のように爆発的に込み上げてきた涙を止めどなく川の様に溢れさせ、きっとこの先これを超える大泣きはしないだろう、と思える程に思い切り泣きじゃくった。
 ――そして万斛の涙を流した私は泣き疲れ、いつの間にか深い眠りへと意識を手放していた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 あれから早いもので既に1ヶ月が経とうとしていた。
 私は“復讐の令嬢”や“ひとり復讐者(アベンジャーズ)”としてメディアで大きく取り上げられ、ネットやお茶の間で時の人となっていた。
 朝食を食べながらザッピングすると、どのチャンネルも繰り返し飽きもせずに私の特集をただただ流しているだけだった。
 確かに彼らのことを考えて音声のみの生放送にしたけれど、まさかここまで大事になるとは思っていなかったので、父の力で更に圧力を掛けてもらおうと口を開いた。……親の力を使うなんてズルい、と思われても私にも言い分はある。だって私“バカ令嬢”ですもの。

「いい加減私達に関する報道はやめてもらいたいのですがお父様」
「何を言うか千尋。私はお前の考えを聞いた時、強い子に育ってくれた、と歓天喜地したのだぞ?」
「お父様、それはさすがに私引きます」

 いやだ! 私、お父様が小躍りしているところなんて見たくないです! お父様には威厳たっぷりにどしんと構えていて欲しいです。

「そんなこと言わないでおくれ。それで本当にいいのかい? 請求の方と彼らの断罪は?」
「はい。お父様にメディアに圧力をかけてもらったおかげで彼らの個人情報は出回っていません。ですから私にもまだ見ぬ未来があるように彼らにも無限の可能性があります。今回のことで人を思いやり慈しむ心が育まれたのならば、私は満足です」

 口ではこんなことを言っているけれど結局私は彼らに一矢報いたかっただけなのである。
 あんなタイミングで言ったのも最高潮に脅かすためで、私の私的な復讐で彼らの今後の人生を潰していい権利なんてものはない。……けれど、全くないといったら嘘になるわね。

「そうか……では“これも”メディアにリークして愛娘の株を上げる――」
「お父様? それをしたら私は今後一生涯口を聞きませんからね? お母様からも何か言って下さい!」

 “これも”……ですって? こんなに大袈裟に私がメディアに取り沙汰されているのは……もしかしてお父様のせい?
 なので私はうちで一番強いお母様に泣きついた。お母様、お父様をぎゃふんと言わせちゃって下さい!

「あらあら……あなた、千尋ちゃんがそう言っているのだからこれ以上の手出しはダメですからね? 守らなかったらロウソクあっちっちの刑ですよ?」



 え? お母様?
 お母様の言葉は私の想像していた斜め上だった。



「それはちょっとされてみた…………ウエッホン。さて、私は仕事に行ってくるかな」



 え? お父様?
 お父様の反応も私の想像していた斜め上だった。



「お父様頑張って下さい」

 どう声を掛ければいいのか分からなかったので、取り敢えず普段通りの言葉を口にしておいた。
 まさかお母様とお父様の力関係がこんなところで分かってしまうなんて……。
 そんなことを考えながらお父様の背中を文字通り茫然と見ていたらお母様に抱きしめられた。

「千尋ちゃん、ママとパパはいつでもあなたのことを見守っているからね」


 これから大学の入学式だというのにお母様ったら私を泣かせようとしていませんか? ……絶対に泣くものですか。
 そして私は爽やかな笑みを湛えながら大きく頷いた。


「それでは大学に行って参ります」と。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


~復讐後の後日談“卒業式”【ちょっぴり加筆分】~


 今日は卒業式。
 “一般的”には名残惜しさや友達、後輩との別れに涙を流すといった高校生活最後の行事。
 講堂内が嗚咽とすすり泣きで満ち溢れている中、私はきっと誰よりも清々しい気分だった。

「あ……雨海さん」
「卒業式中になんの用ですか神藤さん。弁護士を通して下さいって私言いましたよね?」

 せっかく人が清々しい気分に浸っていたというのにそれを邪魔したのは、私をイジメていたグループの黒幕――神藤だった。
 他のクラスは名前順の座席なのにどうしてうちのクラスだけが変則的な席順なのだろうか、と思っていたのだけれど、どうやら私の復讐に復讐でもするつもりなのだろうか? ややこしいわね全く。

「ちゃんと面と向かって伝えておきたいことがあったの……」

 やけに畏まった神藤は震える声でそう言うと、いきなり頭を下げた。
 あら、何か物でも落としたのかしら? それとも……カエルパンチでも放つつもりなのかしら?
 私がカエルパンチを警戒して顔を正面に戻したところ……、

「今まですみませんでした……」
「……神藤さん?」

 え? 今なんて?
 その言葉に顔を横に向けると肩を震わせて滴を零す神藤の姿があった。


――END――
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