ボク ハムスターになりました
ぼく、、稲荷神社のお使いのキツネです。
まだ、見習いです。昨日まで、新年を迎える準備で社をぴかぴかに磨き上げました。
もう疲れてくたくたです。
それでも社の奥で、神社にやってくる人間を観察しながら勉強中です。
でも、、人間って、とってもヘン・・・・
ぼく、見習いでも神様のお使いなので人の名前や考えてることは分ります。
最初の参拝客はTさんという女の人でした。
「今年も美味しいものがお腹一杯食べられますように。」
ぼく、思いました。
(ふっ、、いくらでも自分で作って食べたらいいんじゃない?)
2人目はPさんという肉体派の男の人。
「今年こそ、ネットの掲示板でむかつくrsの奴をギャフンと言わせてやれますように。」
ぼく、首をかしげて思いました。
(えっ、人間関係のトラブルを持ち込まないでよ。)
3人目はHさん・・・・
「今年も創価学会が発展していきますように。」
ぼく、びっくりしてひっくり返って、社殿の床に頭をぶつけてしまいました。
(おいおい、、創価学会ってぼくたち神社を馬鹿にしてるとこでしょ?この人、、、まじめな顔で神社に喧嘩を売りに来てんの?)
4人目はOさん
「今年こそ、、、○○さんとの禁断の愛が報われますように。」
ぼく、ぽかんと口を開けました。
(あのっ、、、禁断??? 愛はもっとずっと清らかなもんだと思いますけど、、)
5人目はZさん
「今年も旨い酒が飲めますように、、、」
ぼく、ため息をつきました。
(元旦から、飲む事ばっか考えて、、、)
こうやって、、、いろいろな人がやってきました。鈴を鳴らして拍手を打つ人が増えるたびに、ぼくの疑問は増えるんです。
(あーあっ。人間ってどうして自分のことしか考えないの?)
こんな小さな神社でも元旦の午前中はちょっと参拝客があって慌しいんですよ。
でも、午前中を過ぎると、小さな神社は赤い鳥居を風が吹き抜けるぐらい暇になります。暇になって、ぼくはちょっとがっかりして考えました。
(人間ってわがまま、自分勝手・・・・えっ、、、)
突然、驚いたのは誰かの雰囲気を感じたせい、、、
なぁーーんだ。
社殿の外にちらりと見えるその雰囲気の主は小さな女の子でした。
元旦なのに着古した服を着ているのを見て、ぼくは思いました。
(お母さんと二人暮らしの、貧しい女の子だ。それにしても薄汚れてやんの。)
ぼくは女の子の願いを想像しました。
(どーーーせ、お菓子がたくさん食べたいとか、、、)
午前中の参拝者の願いを思い出すと、女の子の願いも想像がつきました。
(お年玉が沢山もらえるようにとか、、、)
ぼく、寝ころんだままで思いました。
(どーせ、この薄汚いガキも、自分のことしか考えてないんだ。)
女の子が大切そうにポケットから出して投げ入れたお賽銭を見て、ぼくは思いました。
(たった、10円ぽっち?)
女の子は遠慮がちに鈴を鳴らして小さな声で2つのお願い事をしました。
「フラッピーがちゃんと天国に行けますように、、、。」
女の子の考えている事は分りました。フラッピーは去年の冬に亡くなった女の子の友達のハムスターの名でした。
(えっ、、、、)
女の子は2つめのお願いをしました。
「それから、いろいろな生き物がこの世で幸せに暮らせますように。」
その言葉を聴いたときのぼくの気持ち分ります?
ぼく、この子にとっても悪いことを考えちゃった。
何か、何か、お詫びをしなきゃ。
その時に、女の子が頭に描いたフラッピーの姿が見えました。真正面からみたハムスターは太りすぎのネズミのようでした。ぼくは今まで見たことの無いハムスターに化けました。天国のフラッピーになったつもりです。ぼくは社殿の奥から駆け出して、女の子の足元から肩まで駆け上がりました。
そして、耳元でそっと、、、
「ぼくたちは いつまでも ともだち だよ。」
フラッピーのぼくは、女の子に微笑みながら優しく姿を消しました。
突然の出来事に女の子は驚いたようでしたが、
やがて、顔を上げてフラッピーがいるはずの空を見上げた女の子の笑顔は透き通って青空に溶け込むように素敵でした。
ぼく、笑顔で振り返りながら帰っていく女の子を見ながら、とても嬉しかったです。女の子を見守っていた神様が言いました。
「あの女の子と、今のお前はとてもいい笑顔をしているよ。その笑顔を忘れないようにしなさい。」
「うんっ。」
「でもね。今度ハムスターに化けることがあったら、お尻の尻尾は隠すんだよ。ハムスターにそんな長いネズミの尻尾はついてないから、、、、、」
「えっ? そうなの?・・・・・」
前作と同じく、以前にthebbsという掲示板の三題噺のスレッドで投稿したものです。
もとネタは掲示板の利用者のHNがそのまま出ていたので、名前と一部の表現を変更しました。