先代の意思
羊と狼 20「先代の意志」
白い狼は、白の湖でたくさん泣きました、探求心の強い羊と別れた時よりも、もっともっと涙を流しました。
「誰かに救われる・・・」今の今までそんなことを考えた事のなかった白い狼は、これから死ぬ必要などなく胸を張って生きていいのだと、自分の意志を持って未来を見ていいのだと実感しました。
そしてそれを知った時、生まれてから今まで体中に巻かれていた鎖を、一気に解いてもらったような気持ちになれました。
探求心の強い羊によって、白い狼はこの時すでに救われていたのかもしれません。
白い狼は何かを得るためには何かを捨てなければならないことを知り、そしてその何かを犠牲にしてまで手に入れたい何かが白い狼にはあったのです。
夜になれば、狼達が最後の儀式のためにこの洞窟にやって来ることを知っていた白い狼は、今すぐに黒い森から出る事に決めました。
黒い森の出口に通じる洞窟までは何度か来た事はあっても、洞窟に入ったことのない白い狼は、ドキドキとビクビクを抱えながら探求心の強い羊と入って行きました。
探求心の強い羊は白い狼に外の話を少ししました。
「洞窟を出てず〜っとまっすぐ行くと、長い草ばかり生えてる草原があるんだ、すぐ横にはとっても綺麗な川が流れてて、そのすぐ近くに一本だけりっぱな木がある、その場所で一度休もう」
「うん!」
探求心の強い羊が笑顔で話すと、白い狼はそれを上回る笑顔で応えました。
暗い洞窟が少し明るくなってきた時、白い狼は我慢できずに走り出しました、それを追いかけるように探求心の強い羊も走り出します。
洞窟を抜けると、白い狼は太陽の光が森の中にいる時よりも明るく感じられました。
「自由・・・」、真っ青な空を見上げながら白い狼の頭の中にはその言葉が思い浮び、そしていつの間にか声に出ていました。
「よう羊、何日かぶりだな」
出口のすぐ横の岩の陰から声をかけてきたのは、なんと狼のリーダーでした。
そして狼のリーダーは白い狼の方を向き直し、頭を下げ言いました。
「使い殿帰りましょう、あなたにはこれから大事な役目があるはず、あなたが居なくなれば我々に何が起こるかくらいおわかりでしょう」
「・・・・」
白い狼は無言のまま下をうつむいてしまいました。
探求心の強い羊は、白い狼の後ろから様子を黙って伺っています。
すると白い狼は、少し考えた後顔を上げ、迷いのない強い眼差しで狼のリーダーに言いました。
「私は帰りません、私のこれからは私自身が決めます、あなたがたも不確かなものに頼るのではなく、自分達の道は自分達で決めなさい」
「そうはいきません、あなたはこれまでの先代の意志を、あなたの一つのわがままで崩すおつもりですか?」
「先代の意志? 何もわかってないのはあなた達の方よ、私は神の使いとしてこれまで生きてきて、先代達が何を思い、何を考えて死んでいったか、今では手にとるようにわかるわ、でも決してあなた達には理解できないでしょうけどね、こんな悲しい役目は私の代で終わらしましょう」
「・・・そこまで決意を固めてらっしゃいますか・・・、では力ずくでも連れて帰るしかありませんな・・・」
つづく・・・ |