理由と気持ち
羊と狼 19「理由と気持ち」
朝が訪れ、太陽が沈むと一日が終わります、どんなに笑ってもどんなに悲しんでも、時間は誰にでも平等に流れていきます。
黒い森の出口で別れた二匹は、考え方までも別々になってしまいました。
一方は「何とかならなかっただろうか」と悔やむ者、もう一方は「こうするしかなかった」と諦める者・・・。
この二匹に共通しているのは、心の中に片方の存在がこの先もずっと生き続けるということ、例え生き絶えようともそれだけは決して変わらないのです。
白い狼は、ただ最後の役目を待ちました。
白の湖に行くことを止め、洞窟から出ることもなく、食事も一口か二口くちにするだけです。
時間は存在していないかのように、白い狼は動きませんでした、ただ洞窟の中で「無」になっていたのです。
・・・そして白い狼は、最後の朝を迎えました。
朝日がまだ昇ったばかりの時間が、白い狼のいつもの起床時間です。
洞窟を出ると、狼のリーダーによってすでに朝食が用意されていました。
しかし白い狼は、その朝食を食べる気にはなれず、そのまま洞窟の上へ登り、見納めとばかりに黒い森を見渡しました。
朝日はぽかぽかと暖かく、朝の少し冷たい風がより気持ちの良い朝にしてくれています。
朝日や風、木々や花達は小鳥達と共に朝を歌っています、その光景はいつものこの森の姿です、違うのは今夜行われる儀式の準備に動き回っている狼達くらいでしょう。
しかし白い狼には全てが違って見えていました、まるでこの地に初めて訪れたかのように、白い狼は何度も辺りを見渡していました。
ふと白の湖の方を見た白い狼は、一匹の白い生き物がいることに気づきました。
よく目を凝らして見てみると・・・、そうです、探求心の強い羊がこの黒い森に帰って来ていたのです。
白い狼は探求心の強い羊が白の湖にいる限り、他の狼達には見つからないのはわかっていました、しかし白い狼は走ります、何処かへ捨てた感情を拾い上げ、探求心の強い羊の所に必死に走りました。
こちらへ走って来る白い狼に気づくと、探求心の強い羊は笑顔で迎えました。
息を切らせながらも白い狼は聞きます。
「なぜ? なぜ帰って来たの?」
「君は今日でいなくなるつもりだからさ」
「私をここから連れ出すのが目的で帰って来たって言うの?」
「そうだよ」
探求心の強い羊は、「来て当たり前だろ」といわんばかりの表情で白い狼の問いに答えました。
「あの時ここから出れない理由を伝えたはずよ!!」
「もちろん覚えてるし君の考えはわかっってるよ、でも僕の気持ちもわかって欲しいんだ」
白い狼は何も言えずただ探究心の強い羊を見つめます、探求心の強い羊も白い狼を見つめ、さらに続けました。
「君がこの森を出て行けばどうなるかはわかってる、だけど中途半端な気持ちで生きて、そして死んでいくなんて絶対間違ってるよ、もしここで君を助けなければ僕は前へ進む理由がなくなるんだ」
探求心の強い羊はニコリと笑顔を見せ、首を少し伸ばせば鼻と鼻が当たる距離にまで近づき、白い狼の瞳に入りました。
「見捨てれないんだよ、だから今僕は君の前に立ってる、君は今まで誰かの犠牲になって生きてきた、今度は誰かが君を救う時なんだよ」
殺したはずの感情が、流し尽くしたと思っていた涙が白い狼を包み込みます。
つづく・・・ |