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BUMP OF CHICKENメドレー〜タンポポ編〜
作:タンポポ



第2話〜ベストピクチャー〜


ーー坂の下の安アパートが僕の家。隣のビルのせいで日が当たらない。

俺は砂盤菜からこの町に引っ越してきて、はや五年。

未だに絵は全く売れない。でも、俺は自分の好きな物を書いている。

自分だけの、オリジナルの…夢を書いてるんだ。

生活は苦しいが、まんざらでもない暮らしをしている。

今日も良い景色がないかな? と、キャンバスと筆を持って外に出た。

賑やかな町中には様々な格好をした人がいるため、絵かき独特の格好をしてたって変に思われない。

…まぁ、変に思われたって俺は気にしないがね。

愛着している赤いのベレー帽子に薄茶色の短いコートにズボン。その下にはワイシャツ。

絵の具が着いた汚れも俺にとっては勲章のような物だ。安くてボロい服装だが、それがまた気に入っている。

しかし、今日に限って強い視線を感じた。

その視線の正体は学生服を着た青年が二人。

二人共高校生くらいだろうか。凛々しい顔立ちは頭脳明晰を想像する。

その二人組が俺の方へ近寄ってきた。

「こんにちは、インタビューして良いですか?」

『俺にか…?』

「はい、現代の若者に必要な物のアンケート調査をしているんです。お願いします」

こんな真っ直ぐで素直な子達に頭を下げられたんじゃ、答えない訳にもいかないな。

『いいだろう。なんでも聞いてくれ』

「ありがとうございます。では早速、今の若者をどう思いますか?」

おいおい、俺はまだ二十五だぜ? そんなに老けてるのかな…。

まぁ、良いか。さて、今の若者か。

『あぁなるのは…夢がない証拠なんだよ』

俺はそう言って指を指す。その指先を青年達も追う。

俺が指さしたのは、こんな平日の昼間なのに、学校も仕事も行かないでファーストフード店の前に群れる若者。

赤や紫など、目がチカチカする程変色した髪は、目が隠れる長さ。

明らかに見た目は未成年なのに、タバコを吸っていた。

「…夢、ですか」

『そうだよ。自分が本当に叶えたい夢や守りたい宝物があれば、あんな事してる暇はないし、こんな事してる場合じゃないってなるだろ?』

「なるほど、夢…宝物を持つ…ですか。ありがとうございました!」

『なぁに』

俺は青年に背を向け、右手を軽く振って歩き始める。良い景色を見つけるために。

「あ…あの」

だがその足取りは青年の俺を呼び止める一言で止まった。






「あなたの宝物って…何ですか?」









『俺の宝物か?ーー電気スタンド・筆・机だ』














〜ベストピクチャー〜






俺は公園のベンチに座り、ポカポカの陽気に眠気を誘われていた。

さっきの青年達との出会いも運命だろう。

『今日のテーマは夢にするか』

ーーこんな家に住み、こんな暮らしがしたいなんて事をキャンバスに塗りたくる。流す涙もタメイキすらも。

絵を描くのが俺の夢だった。それが叶って幸せだ。

ただ、絵を書いていると、やっぱりまだ雪の事を思い出しちまうけどな。

『ーーねぇ、僕ここで生きてるよ。まだ、絵を描いてるよ』

雪は、俺を思い出してくれているかな?
こんな俺を認めてくれるかな?


本日、俺が描き上げた絵はキャンバスの中には家があって俺がいて、雪がいて、タンポポが咲いている絵。

小学生が描きそうな無邪気さを出したつもりだ。

「綺麗な絵ですね」

背後から話しかけてきたのは先ほどの二人の青年だった。

『よう、褒めてくれてありがとよ』

「あの、前に学校の方でチラシを見たのを思い出したんです。絵の大きなコンクールがあるんですが、それに作品を出品してみてはいかがでしょうか?」

『ハハハ、面白そうだな。チラシを見たら…考えてみるかな』

俺は青年の言う事が半信半疑だった。どうせコンクールっていったって小規模な物だろう…と考えていたからだ。

しかし、翌日。再び青年が俺の前に現れ、チラシを渡してきた。

『お…おい、こりゃ…スゲェな』

小規模なんてとんでもない。俺は甘く見ていた。

全国の絵描きが集結し、有名な鑑定士や金持ちのボンボンが顔を出す大会じゃねぇか。

出品した作品が気に入られたら一気に絵描きの名前も売れ、富も名誉も手に入る。

正直な所、俺は今の暮らしに飽きていた。そろそろ誰かに俺の作品を認めてもらいたくなっていた所だ。

雪と離れてからと言うものの、町の住民じゃ、芸術を理解しようとしない人がほとんど。

絵を売るどころか見てすらもらえない。

でも、コンクールとなれば、結果は別として、とりあえず作品を見てもらえる。

俺は久しぶりに熱く燃えるものを感じた。

このコンクールに出よう。

『…って、スポンサーがいなけりゃ駄目なんかい!』

チラシの参加条件の覧にはスポンサー必至と書かれていた。俺にスポンサーなんているわけもなく、諦めようとした。

「大丈夫です。うちの高校は美術・芸術の専門学校なんです。先生に頼めば、スポンサーになってくれますよ。なんて言ったって、アンケートに真面目に答えてくれた唯一の方ですから」

おぉ、なんと奇跡だ。

『じゃあ、そっちはまかせた。俺は早速だが、作業に取り掛かるから!』

俺は夢中になって、ただひたすら絵を描いた。

上手くは描けている…でも何かが足りない。

『…駄目だ!こんなんじゃ駄目だ!……ん?』

そうだ…五年前、雪の華向けとして、想いを込めた砂盤菜でのタンポポ丘。

実はあれから未完成のままの絵。大切に保管してあっただけに汚れもない。

『これを完成させよう』

俺は自分の全てをキャンバスぶち込んだ。五年前の事だが、あの日の記憶は繊細に残っている。

こうして俺はタンポポ丘の絵を完成させ、作品として出品した。

ーーーーーー。

「優勝は藤本さんのタンポポ丘でーす!!」

ーーーーーー。

「君の絵は素晴らしい。どうだ?この金で…」

ーーーーーー。

「どうだろう?我社と組んで…」

ーーーーーー。



ーー坂の上のお城みたいな僕の家。雲の上のような日の当たり具合。

「藤本様、作品の出来高が落ちて来ています。もう少しペースを上げなくては…」

『分かってるよ!うるせぇな!!』

くそぅ…なんでこうなったんだ?
俺はいつ間違えたんだ?

あのコンクールから五年。今年でもう三十歳だ。確かに富も名誉も全て手に入れた。

でも、絵が…もう絵が描けない。何を描けば良いんだ?

「藤本君の作品は素晴らしいよ。金になる!藤本が描いたと言うだけで入れ食い状態だ!これからも頑張ってくれたまえよ」

なんでこんな心も込めてない絵が売れるんだよ?

こんな…こんな絵、ただ景色を写しただけじゃないか。

でもーー地位と名誉と満足感。無くす事を恐れてひたすら絵を描く。

ーー
「こんな風にしろと」筆も心も何かに縛られたままキャンバスを埋め尽くす。

俺は生きてるのか?
なんで絵なんか描かなくちゃいけないんだ?

もしこんな姿を雪が見たら、あいつはなんて言うかな?

いや、俺の名前はもはや全国に行き届いているんだ。

雪の耳にも入っているだろう。


生活は苦しかったが、夢を追って絵が宝物だった五年間。

今となっては夢も宝物も無くなった。絵は仕事になっちまった、この五年間。

昔みたいな絵はもう描けない。かと言ってもう戻れない。

戻れないなら…絵を描くのを辞めるしかない。

『ゴメンなぁ』

俺は重い腰を上げると一本の筆を取り出し、折ろうとした。

しかし、何か不思議な力に包まれた。

聞こえる…何か聞こえる。

ーー折ろうとした筆がこう言った気がした。
「ずっと見ていたよ 絵が好きなんだろ?」


なんだ、俺の宝物はまだ生きてるじゃないか。

『ーーねぇ、僕ここで生きてるよ。まだ絵を描いてるよ』

周りから見たら頭がおかしいと思われるだろう。

なんせ、大の大人が筆に喋りかけているのだから。


「ーーここからは何が見えるの?」

でも筆は俺にちゃんと喋りかけてくれるんだ。…俺だけにしか聞こえない声で。

『ここから見えるのはねーー僕が描かずにいられない景色!!』

久しぶりだな。絵を描きたいって思う気持ちは。

俺はワクワクしていた。今ならきっと良い絵が描ける気がする。

押し入れの中から引っ張り出した物は、五年前に俺が愛着していた服とベレー帽子。


こいつらの存在も忘れる所だったぜ。

いっそのこと、あの頃と同じようになればいいじゃないか。

筆は何本も持っていなかった。
キャンバスはこんなに大きくない。

ボロボロの服に、毛先が乱れた筆に、小さなキャンバス。

でも、これが俺の宝物。

夢だった〈絵描き〉は仕事に変わったけど、宝物は変わらないのさ。

「そんな格好して外出はさせません!人に見られたらどうするんですか!?」

変わったのは周りの目。

今の俺はこの格好で外出する事を担当者は許してくれなかった。

「それと、外出の際には車の手配をするので一言声をかけて下さいと言いましたよね!?」

もう…うんざりだ。
確かに楽に好きな場所へ移動できるにこした事はないが…。

…あ、また筆が…

「ーーねぇほら見てくれよ!生きてるんだよ?だって、絵を描いてるんだぜ!?」

そうだったな。俺は〈生きてる〉んだよな。

なぁ、雪。ーーあなたにも見えるでしょう?

ベストピクチャー
ベストピクチャー。

『俺のベストピクチャーは、世界の為でも自分の為にでも描いたんじゃない。たった一人に見てもらいたくて描いたんだ』

「こ、こら!藤本君!!タンポポ丘は一番の目玉商品なんだぞ!?今更、返せと言うのかね?」

『この絵は俺の全てだ』

「ま…待ちたまえ!」

全く、見失う所だった…。そして大切な事を忘れる所だった。

俺は見世物にされてた絵を持ち出して、この城を飛び出した。












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