プロローグ〜ダンデライオン〜
ハァ…ハァ…
「警告!警告!
市民のみなさんはただちに非難して下さい。」
ハァ…ハァ…ハァ…
「いたぞ!射撃班は銃の構え」
ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…
「くそっ、また逃げられたか…」
ハァ…ここまで来れば大丈夫だろう…。
でも…なぜ僕は嫌われるんだろう?
僕はただ、みんなと仲良くしたいだけなのに。
人間は僕を見ると奇声を上げる。
なんで…?
あんなに猫は可愛がられているのに。
僕が…ライオンだから…?
〜ダンデライオン〜
ーーーーーーー。
ここサバンナという町は小さいながらも実に豊かな町だった。
追い出されたライオンは自分の居場所を求め、ひたすら歩いた。
すると目の前に一つの大きな橋があった。
『どうせサバンナには居られないんだ。どこか遠い所に行こう』
そう悲しそうにつぶやくライオン。
橋を渡りきったライオンは思わず
『いつになったら僕の居場所が見つかるのかな…』
と、呟いた。
しかし、橋を渡ったその時、目の前にいたのはこの後、ライオンの運命を大きく変えてくれる奴だった。
そいつは小さいながらもーー太陽に良く似た姿だった。
『どうせ俺を見て逃げるんだろ…?早く遠くに行けよ』
「…………」
そいつは何も言わなかった。
『ーーお前は俺が恐くないのか?逃げないでいてくれるのか?』
〜コクッ〜
そいつはーー吹き抜ける風と共に一度だけ頷いた。
生まれてから天涯孤独。そんなライオンに初めてできた友達だった。
ライオンは涙が止まらなかった。
温かい涙…いつもの寂しさで流れる冷たい涙とは違う、温かい涙。
涙の理由…?
それはライオンにも分からなかった。
ただーー濡れた頬の温かさは…おそらくお前がくれたんだ。
ライオンは何度もそう自分に言い聞かせた。
ライオンはここで何日も日々を過ごした。
しかし、それを良く思わないのがサバンナに住む人間達。
そもそもこの橋はサバンナと隣町を繋ぐ唯一の連絡橋であったために、人間を襲うかもしれないライオンが橋にいられては、食料の配達もできない。
人一人がやっと通れる様な幅の細い吊橋だ。ライオンと出くわしてしまえば勝ち目はない。
困り果てたサバンナの村長は軍にライオンの討伐を依頼した。
討伐決行の日、あいにくの雨だった。風も強く、雲の流れも早い。遠くの空では雷さえも鳴っている。
しかし、そんな事も知らないライオンは友達の為にプレゼントを取りに、朝早くから出かけていた。
ライオンは金色の琥珀をくわえて友達の元へ帰る。
『それにしても、この琥珀は友達によく似た色をしている。あいつは喜んでくれるだろうか?』
早く…早くあいつの喜ぶ顔が見たい。
その一心でライオンは、はしゃぎながら帰り道を走ってきた。
しかし、サバンナの討伐軍に見つかってしまう。
銃口を向けられるライオン。人間達は何のためらいもなく引き金を引くだろう。
『苦労して見つけて…ここまで来たんだ』
ライオンは銃弾を避けながら帰路を急いだ。
淋しがり屋だが、弱虫ではない。むしろ野性の王とまで言われるライオンに本来の力が戻った。
それに加えて何かの為に頑張る時のパワーは、時に想像を超越するものだ。
しかしながらも人間には発達された知恵と道具がある。待ち伏せされていた兵士が投げた剣が、ライオンの背中に命中してしまう。
命からがら、なんとか友達が待つ橋まで逃げてきたが、すでに疲労困憊。
背中に刺さった剣を自力で抜こうと、ライオンは跳びはねた。ライオンがジャンプをする度にその振動が橋を揺らす。
そのせいでバランスを崩したライオンは転んでしまった。しかし、その衝撃で背中から剣が抜ける。元々深い傷ではなかったようだ。
ライオンは抜けた剣を大きく蹴飛ばした。その剣は空高く舞っていく。
その時…不運にも雷雲がサバンナ地方に流れてきていた。
空高く舞った剣が避雷針となり、一直線に雷が落ちた。
橋は崩れ、ライオンと共に谷底へ落ちてしまった。
ーーーーーー。
あまりの痛みに目を覚ますライオン。
どれくらい落ちただろうかとふと上を見上げる。
ーー空は遠く狭くなった。
これはかなりの高さだ。登る事はまず不可能だろう。
あいつはどうしているだろうか…?
心配しているだろうか…?
…でも、あいつを泣かせたくない!
そう考えたライオンは大きな声で鳴いた。
力強く、元気な声で。
ーーこの通り全然平気だぞ!…と。
…しかし、自然と涙が流れた。
冷たい涙。
それもそのはず、ライオンの体は傷だらけである。
…否、決してライオンは傷が痛くて泣いているのではない。
ここは…谷底は孤独だ。
嫌われる人すらいない。
この涙はあいつには生涯分からないだろうな。
いや、知らなくていいんだ。
あいつは俺とは違い愛されている。
『もし生まれ変わるなら…お前の様な姿になれれば、愛してもらえるかな?』
雨が止まず、血もいっしょに流れていく。
もはやライオンは死を覚悟した。
もう元気な声など出なかった。
それでもライオンは鳴き続けた。
ただの力弱い声。迫力のない鳴き声。
…でもライオンは別に淋しくなんかなかった。
なぜかって…ただ一度、友達と呼べる奴に出会えたから。初めて自分を相手してくれたから。
『涙の理由が分かった気がしたよ。ーーこの心の温かさがそのまま答えで良さそうだ』
ーー季節は巡り、春が訪れ、谷底まで金色の化粧。
一面に咲いたタンポポの花はライオンによく似た姿だった。
目をふさいでしまったライオンは、たくさんの友達に囲まれて幸せそうだった。 |