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「……は?」
(いや、それはないだろ)
アイドルみたいな顔をしておいて。髪も長いし、声だって女の子のそれだ。窓から見える体も華奢で着てる服もピンクのふりふりだ。どう見ても女の子だ。
「千鶴さん、小枝子さん混乱してますよ」
「あの、何であたしの名前を?」
「それはオレが小枝子の事が好きだからだ」
「だから千鶴さん!!」
千鶴の言葉にお姉さんは千鶴を窓からひきはがそうとする。
「姉さん、痛い……」
「千鶴さん、あなたには羞恥心というものがないんですか!?」
「しゅうちしんって?? オレわからない」
千鶴は困ったような顔をしている。
「あなたに期待した私がバカでしたーーーー!!」
「? 姉さんは頭いいだろ?」
「……千鶴さん、もうおとなしくしててください。貴方がしゃべるとややこしくなるんで。あのすみません、小枝子さん、保健室の隣の、右側の部屋に私たちいるんで、着てください。そこの男の子は、すみません……」
「あ、いっすよー」
遠目から茫然としてた田中がマッハで消えた。
小枝子は、頭が痛かった。元々小枝子はもてる方で、男友達も多いから(むしろ女子は苦手だった)多少のスキンシップでは動じないし、アタックぐらいじゃダメージは受けない。そういうところが女子の反感を買うのだろうと自分でも思う。
けれど、女装した男性に迫られるという経験はさすがにない。
(何でまた学校で女装してるの……わけわからない……)
言われたとおりの道筋をたどって、部屋に入ると、そこはメルヘンな少女趣味な部屋だった。ギンガムチェックだとかピンクだとかはながらとか。女の子の好きそうなものだらけ。やっぱ女子なんじゃないの、千鶴って人。
「わあ、小枝子だー」
「小枝子ですけど」
何となく、千鶴の頭はよくないっぽい。
千鶴と並んでみると、思ったよりはでかかった。170は行かないまでも女子としては長身になってしまうぐらいはある。でも、それ以外は大体女の子で、一生懸命のど元を見て、ようやくうっすらとしたのど仏が見えた。
「わあい!!」
思いっきりだきつかれた。ものすごく弱い力だったので、小枝子はされるがままにしていた。何だこの人。
「だから千鶴さん!!」
「えへへ、小枝子やわらかーい」
「そうですか」
「小枝子さんもリアクションさっきから薄すぎません?」
「はあ」
慣れてるんで、と言えばさすがに印象が悪くなるだろうか。
「本当すみません……なんていうか、本当頭悪いんで千鶴さん」
「オレ頭悪いらし~」
千鶴はあまり気にしてないようだった。ずっとニコニコしている。
「千鶴さん、嬉しいのは分かりますがとりあえず座りましょう?」
「わかったー。小枝子は隣な」
「はあ」
「小枝子さんも少しは抵抗してください」
「何か変な事されたらしますけど」
「だいぶ初対面としては変な事されてますよ!?」
ほのかの言葉に千鶴は「変な事?」ときょとんといいほのかに睨まれる。
「ああ、もう少し常識を教えてから連れてくるんでした……」
「むー……じょうしき?」
「普通の事の事です!」
「オレ普通じゃないのか?」
ほのかが頭を抱えている。小枝子は千鶴にもらった紅茶を気にも留めず飲んでいた。ちょっと甘すぎる味だった。
「美味しいか?」
きらきらした目で千鶴が見るので「うん」と答えておいた。
「あのな、金平糖とか、マシュマロもあるぞ」
(甘党なのかな、この子)
「小枝子さん、美味しいゼリーがありますからそちらを」
「何でオレのじゃダメなんだ?」
千鶴は不満そうに膨れた。
「千鶴さん、紅茶たくさんの砂糖入れましたよね?」
「だってそのほうが美味しいだろ?」
「あのですね、甘ったるいお茶に甘いお菓子はさすがに辛いと思いますよ」
「あ! そうかー」
(いや、わかるでしょ普通)
千鶴はどうも天然らしい。
「じゃあ小枝子ミントチョコ食べるかー?」
「千鶴さん、ミント足したから合格と思ってますよね?」
「すーすーするだろ?」
「根本的に甘いものから離れてください。小枝子さん、レモンゼリーです。甘くないですよ。お肌にもいいです」
有難うございます、と言って小枝子は受取それを口に含む。千鶴は隣でむくれていた。
「なーなー小枝子―」 そして小枝子にかまってほしいらしく小枝子の服を引っ張る。
「しょ・た・い・め・ん!!」
ほのかが千鶴を捕獲して連れてった。
千鶴はバタバタしているが、力の差が見ているだけでもすぐ分かった。
小枝子は特に気にせずにゼリーおいしいな、と思っていた。
「すみませんね、本当。千鶴さん、ずっと小枝子さんをこの部屋から見てて惚れちゃったみたいで」
「うん、オレ小枝子大好きー凄い綺麗だし、笑うと可愛い」
「ありがとう」
黙々と食べながら、小枝子はさして気にせずに言った。
「小枝子さんも結構マイペースですね?」
「B型なんで」
「オレO型!」
千鶴がはいはいっと無邪気に言う。
「千鶴さんはいい加減黙るという事を覚えてくださいっ!」
「だってそこに小枝子がいるから」
「人をそこに山があるから、みたいに言わないっ!」
ほのかは絶対160もないのに、男(だと言い張る)千鶴が全然反抗できないのはほのかが強いのか千鶴が弱いのかどっちだろう。どっちもっぽいけれど。
「千鶴さんって本当に男性ですか?」
ゼリーを食べ終わった小枝子がごちそうさま、と言ったあとに聞いた。
「そうですよ。学生証みせましょうか? 一応3年生ですよ」
ほのかが千鶴を抱きながら答えた。
「……え。3年生?」
「これが? って顔してますよね、お気持ち察します」
ほのかが同情するように言った。
「残念ながら中学3年生の男子です」
「何で残念なんだ?」