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エピローグ
ハジメとの別れから数か月後に、あたしの家に郵便物が届いた。
それは分厚い漫画雑誌だった。週刊少年なんとかって書いてある。
「平良ペンタデビュー!?」
そこにはハジメのペンネームが書かれていた。
表紙には大きくロリィタの少女がコミカルに描かれている。
中はどたばた学園もので、すごく明るくパワーがあるラブコメディだった。
それもすごく面白い。
(ハジメ、こんな作品描けるようになったんだ……)
しかも本誌デビューって確かすごいことなんだよね!? さすがっ。
思わず久住さんにメールを送る。
『見た!?』
『見た見た! 最近連絡つかなくなったと思ったらデビューしてやんの、すげーなあ』
『すごく面白かった』
『夢子ちゃんの個性を残しながらまるっきりオリジナルキャラにアレンジできてたな』
『うん』
『俺も負けられないぜ』
『がんばって』
そして、ハジメに電話を掛ける。
が。
一向に応答がない。数分おいてかけてもそれは同じ結果で。
(嘘、かからない……)
話し中。なんでだろう?
デビュー前後で忙しいのかな?
携帯を握りしめながら迷うと、メールが来た。ハジメからだった。
『受験と、短期連載の話が来たからしばらく夢子さんと距離を置きます。いい報告をおくれるようにがんばるんで』
「ハジメ……」
メールを読んで思わずほっと溜息が出る。
よかった、うれしい忙しさなんだね。
というかもう連載の話が着てるってすごすぎるでしょ。受験と並行は確かに大変だ。
ぶっちゃけ寂しいけど、あたしも我慢しなきゃね。それも努力のうちだ。
(帰ったら、パターンでもひこうかな? で、ハジメと再会したときに着るドレスでも作ってみよう)
きっと春には幸せな報告が舞い込んでくるから、それまでの辛抱だ。
春がきた。桜の花びらまう、明るい季節。
あたしは無事専門学校(おばあちゃんが先制しているところ)に入学を果たし、もうすぐ初登校を迎える。
針が引っ掛からないようにレースを抑えたロリィタ服を着て、今度こそたくさん友達を作るつもりだ。
あれから、ハジメからの連絡はまだない。
ふいに懐かしくなって、ハジメと出会ったリナさんのお店に来ていた。
「ご入学おめでとうございます」
「ありがとうございます、リナさん」
「今日のお洋服もとてもお似合いで」
「新作見本はありますか? あれすごくかわいくて」
いつも通りの日常。かわいいロリィタ服を見て、ワイワイと騒ぐ。学校にはどんな鞄で行こうか。
「夢子さんは、今日もやっぱりかわいい」
「ありがとうございます……って……」
リナさんかと思ったその声は、間違いなくハジメのもので。
振り返ってみれば少しだけ痩せて大きくなったハジメがそこにいた。
「やあ」
「ハジメ……なんでここに」
「だって進学先はこっちにしたから」
あたしがあんぐり口を開けていると、ハジメは当たり前のことを言うように言った。
「東京にはこっちのほうが近いし、仕事場として部屋も借りなきゃいけないし」
「……嘘」
「いやだった?」
ハジメは不安そうに笑う。
「そんなわけないじゃんっ」
あたしは慌てて否定する。ハジメがそばにいてくれるなんて、思って思いなかったからびっくりしただけだ。
「ひさしぶり」
そう言ってあたしをなでてくれるハジメの手は前よりペンダコが増えて固くなっていた。
それはとても頼りがいのある手で。
「大学も、連載も成功して見せる。そして漫画で夢子さんを食わせてあげるよ」
「……本当?」
「嘘はつかないよ」
その時あたしはロリィタ服を着て、ハジメのためにお料理したりするのかな? それともその時ばかりは汚れてもいいような恰好をするのかな? でも、ハジメ前ではずっとかわいいロリィタちゃんでいたいな……。
「これ、合いかぎ」
そう言ってハジメはピンクの鍵をあたしに渡した。キーホルダーはうさぎちゃん。
「いいの?」
いかにも恋人というプレゼントに胸が高まる。
「もちろん、夢子さんにもらってほしいんだ」
「……嬉しい」
にっこりほほ笑むハジメに、あたしは泣きそうな顔になって返した。
「あたしからは何も用意できてないのに」
「夢子さんがいたからデビューできた。それだけで十分だよ」
「才能と努力だよ」
「そんなことないよ」
「……そう言っても堂々巡りになるだけなんだろうね」
ハジメとあたしはそのままクスリと笑った。
。
「この場所も懐かしいね」
「あたしもそう思って、きたの」
「ここに来なかったら夢子さんに出会えなかったわけだ」
ピンクのかわいいお店は、普通の男の子には縁がないだろう。
「この県の、この場所で」
ハジメが呟く。
2人で会えたそれが奇跡。
神様本当にありがとう。
あたしは目を細めて笑う。
「そしてまた、ずっとこの場所で」
今度はあたしが言った。
これからはいつだって会える。
ずっとそばにいて応援して上げれるんだ。
「夢子さん、僕の仕事場見に行きませんか?」
「いいの? あ、リナさんまた今度!」
「はーい、ありがとうございました」
ハジメの声に、あたしたちは店を飛び出す。
空は青く輝いていて、虹が見えた。
それはまるであたしたちの未来を暗示しているようで。
思わずあたしは笑ってハジメの手を取ったのだった。
読んでくださってありがとうございました。
この話はコバルト文庫で一次落ちした作品です。
少しでも楽しんで下されていればうれしいです。