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魔法使いたちは旅をします
作:雑草生産者



第6話〜こんわいメイドさんとティータイム



「ティータイムですね」
 こんわい目のメイドさんことヨノはふと腕時計を見て呟きました。
「そーですね」
 ハーリングは落ち着いた声で応じました。そーいえば、操舵室にティーセットを用意したままなのを彼は思い出しました。
「お茶でも如何ですか?」
「そーですね。ティータイムはお茶を楽しむ為にあります。御一緒して宜しいでしょうか?」
 ハーリングが何となく言ってみると、彼女は頷きながら聞き返しました。ハーリングは頷きます。先に誘ったのですから断るわけがありません。

 すぐに船の甲板上でお茶会が始まりました。
 空は曇天で、風も少し寒く、あまり良い環境ではありませんが、せっかく、謎の遺跡まで来たのですから、遺跡を見ながらティータイムと洒落込もうとのことで、甲板で行うことにしました。
 既にティーセットは操舵室に運ばれ、少しだけ用意を進めていたので、お茶会はすぐに始められました。
 それに、お茶を淹れるヨノの手際の良いこと良いこと。
 客にお茶を淹れさせるのはマナー的にどーかとも思われますが、ヨノが、
「私が淹れます。メイドが非メイドにお茶を淹れてもらったとあってはメイドの名折れです」
 と、頑強に主張するので、ハーリングも渋々とティーセットを明け渡したのです。内心、面倒臭い1つの作業から離れられたのを喜んでいたのは内緒です。
「あれ? その道具ってそーやって使うんですか?」
「ええ、そうです」
 ハーリングは首を傾げます。今まで自分がテキトーにやっていたっていうのがヨノの見事な手際で分かります。順番とか道具の使い方とか、色々と自分が今までやっていたのとはかなり違うのです。軽くショックを受けます。
「まぁ、いっか」
 しかし、すぐに気を取り直します。どーせ美味しくお茶を淹れたとしても、彼は角砂糖を3個もぶち込み、その上、ミルクをたっぷり注ぎ込んでしまうのですから、元のお茶の味なんて殆ど分からなくなってしまうのです。これは、お茶に対する冒涜といっても過言ではありません。
 いや、私もコーヒーには砂糖は2杯にミルクはたっぷり入れるんですけどね? だって、苦いじゃないですか。
「どうぞ」
 ヨノがハーリングとルヨにお茶を差し出しました。
 ハーリングはそこに容赦なく砂糖とミルクをぶち込みます。ルヨもたっぷりとミルクを注ぎ込みます。以前、熱いお茶で舌を火傷して大騒ぎしたことを彼女はしっかりと学習しているのです。
 2人はずずっとお茶をすすり、いつも通りの甘ったるい味を舌に感じます。
「……うん、美味しい」
「うん、甘くて美味しいよ」
 いつも通りの甘くて美味しいミルク茶でした。まぁ、よくよく注意すれば、何となくいつもより良い香りがするような気がするようなしないようなー。
 反応の鈍いこと極まりない2人を見つめるヨノは、見た目こそ紅茶に猛毒を入れ、2人が死に絶えるのを冷酷に待つ受ける暗殺者のような感じですが、実際は毒なんて入れているはずもありません。何を考えているのかよく分からないけど、超絶恐い目つきで、いそいそと作業します。
 顔だけ見れば、遺体をバラバラにして捨てやすくしている殺し屋のようにも見えますが、実際は自分の分のお茶を淹れているだけです。
 彼女はティーカップにお茶を注ぎ、角砂糖を5個放り込み、ミルクをたっぷりと加えてティースプーンでしっかりと混ぜました。きちんと混ぜないと砂糖がカップの底に沈殿してしまうのでしょう。
 もう元がお茶なんだかミルクなんだか砂糖なんだか分からない色合いの液体をハーリングとルヨは唖然とした顔で見つめます。いくらなんでも、そこまではせんだろーといった顔です。
 しかし、そんなことはお構いなしにヨノは無表情でそれをすすります。
「……あの、美味しいですか?」
 ハーリングが遠慮がちに尋ねます。自分でも角砂糖3個はちょっと甘すぎるなー。でも、この甘ったるいのがいいんだよなー。と思っていた彼には角砂糖5個なんていう荒業は予想外のことだったのです。
 彼の隣に座っているルヨも口をぱっかーっと見事におおっぴろげながらヨノを見つめます。それよりも口を閉じなさい。虫が入ってもしりませんよ? 私は小学生のときに松前城で桜を見ているときに、口の中に蝿がって、まぁ、これは関係ない話ですね。
 尋ねられたヨノはハーリングを見て、ルヨを見て、見られた2人はやっぱり目が恐いのか、背筋を凍らせ、それから、彼女はゆっくりと静かに答えます。
「べりーまっちんぐ」
 彼女の言葉にハーリングもルヨも沈黙します。
 これはジョークなのでしょうか? しかし、ヨノの顔は真面目で無表情のままです。逆にこっちが冗談を言ったら絶対零度の視線で射殺されそうな雰囲気です。
 これでは反応に困ってしまうというものです。
 笑えばいいのでしょうか? ツッコミを入れればいいのでしょうか? それとも、彼女は真面目に言ったのでしょうか? ジョークでもないことを笑われたりからかわれたりするのはとっても気分の悪いことです。そうなることは避けなければいけません。しかし、ジョークを言ったのに分かってもらえず何も言われないのも寂しいものです。
 ハーリングは1人で大変頭を悩ませました。しかし、ユゼル・ヴァニラ帝国立魔法学院の最終学年学力順位七位の秀才である彼の頭脳をもってしても、これは容易に答えが出るものではありません。何しろ、こんな問題テストに出たことありませんし。
 彼が頭を悩ませ、ルヨがぽけーっとして、ヨノがのんびりお茶を飲んでいる様子は、それはそれで平和とも平穏とも見えました。
 暫くしてハーリングは面倒臭くなって悩みを止め、ルヨは近くの柱に止まる海鳥に気を取られ、ヨノは例の超劇甘茶をおかわりしました。

「あ?」「う?」「ん?」
 のんびりとお茶を3人はほぼ同時に同じようなマヌケ声を出して、空を見上げました。
 彼らの頭上には相も変わらない重ーい雰囲気の曇天が垂れ込めていました。その分厚い濃灰色の雲からはぽつりぽつりと雫が落ちてきます。
「雨か……」
「雨だよー」
「雨ですね」
 3人は同じようなこと言い合い、席を立ちました。
 雨が降っている中、開放式甲板(つまり、屋根なし)で穏やかにティータイムを楽しもうという愚か者はここにはいませんでした。
 彼らはテキパキとティーセット、テーブル、椅子を船室の中に運び入れていきます。
 ヨノは女性なのにとっても力持ちで、ハーリングとルヨがひーひー言いながら(言っていたのは殆どハーリングですが)2人がかりで運んだテーブルをいかにも軽そうにひょいと運んでしまいました。
「ヨノって力持ちだねー」
「そうでしょうか?」
 いつの間にかヨノの眼力の恐怖にいくらか慣れたルヨの言葉に、大柄なメイドは危なげなくテーブルを運びながら首を傾げます。
「そーだよー。だって、それすんごく重かったんだよー? ハリさんなんかそれ運ぶのに泣きそうになってたもん」
 その言葉に後ろで椅子を運んでいたハーリングは微妙な顔をします。そりゃ確かに私は力無しですよ。魔法とか以外には何の能力もありませんよ。特に体力関係では全くの役立たずですよ。と、ちょっとひがみっぽく考えたりしました。考えただけです。口にしては余計に虚しいですからね。
「ヨノって凄いねー」
 ルヨは尊敬を込めたキラキラした瞳でヨノを見上げます。
「そんなことはありません」
 しかし、ヨノは無表情で謙遜するのでした。見事なメイドっぷりなのか、無愛想なのかはよく分かりません。

 甲板上に出していた全てのものを収納し終えてから数分もしないうちに、ぽつぽつと落ちていた雫は、大量の仲間を引き連れ、地上へと突撃してきました。
「わー。すんごい雨ー!」
 ルヨは船室の窓から外を見て何だか感心しています。彼女のいた世界ではこんな雨は降らなかったのでしょうか?
「ところで」
 ハーリングはおもむろに呟き、隣に立っているヨノを見上げます。
「あなたはこれからどーするつもりですか?」
「さあ?」
 彼の問いに謎のメイドさんヨノは首を傾げます。相手のこれからの予定を聞いているのに「さあ?」言われては困ってしまうというものです。
 しかし、ハーリングは前もってこの答えを予想していました。さっきも彼女は同じような問い掛けに同じような答えをしたのですから。
 ハーリングはちょっと真面目な顔で彼女を見つめます。
「ところで、ヨノさん」
「はい。なんでしょう?」
 ハーリングは彼女に3つの質問をしました。
 1つ。
「あなたは料理はできますか?」
 2つ。
「あなたは掃除はできますか?」
 3つ。
「あなたは洗濯はできますか?」
 この問いに対するヨノの答えは全て一緒でした。
「できます」

「ルヨ」
「ん? なーに? ハリさん」
「旅の仲間が1人増えます」


178日ぶりに更新です。
もう誰も覚えていないと思います。私も忘れてましたから。
しかし、なんとなく更新いたします。続きは未定です。











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