第4話〜猫が家事をして魔法使いは〜
昔々、ある所に、船で旅をする魔法使いと猫少女がおりました。
魔法使いはハーリングという名前で、若く小柄で少し長い黒髪で冷ややかな青い目をしていました。
猫少女はルヨという名前で、すらっとした体つきで黒い髪に金色の瞳をしていて、猫のような三角耳と尻尾を持っていました。
二人は船に乗って当て所もなく、その日その日の気分で西へ東へふらふらと旅をしているのでした。
二人は船で旅をしていますから、当然、船の中で寝起きします。ご飯を食べるのも船内ですし、お風呂もトイレも船内でします。
船内で生活していますと、当然、あちこち汚れたりしますし、ご飯の用意もしなければなりませんし、何日も同じ服を着ているわけにもいきませんから着替えて洗濯もしなければなりません。
しかし、以前も言ったとおり、魔法使いは生活能力に欠けています。ハーリングもそうです。
彼は掃除がゴキブリよりも嫌いですし、ご飯を作るのが面倒臭くて何日も断食したり、風呂を適当な水浴びで済ませたり、同じ服を何日も着たりするようなダメ人です。
つまり、彼は家事が嫌いであり苦手なのです。
彼の相棒はどうでしょうか?
猫少女のルヨに家事ができれば、問題はないのです。
「そんなわけで、少し家事をやってくれませんか? 私は色々と勉強をしなければならないのです」
ある日、ハーリングはルヨに言いました。
「かじー?」
ルヨは首を傾げた。きょとんとしている。
「そうです。家事です」
「かじー……」
ルヨは承諾するでもなく拒否するでもなく、ただぼーっとしています。
「えーっと、嫌なら良いのです。嫌がることを無理にさせたりはしません。ただ、やってくれると少し助かるなと思ったのです」
ハーリングは穏やかに言いました。
「かじーをやったらハリさん助かるの?」
ルヨはきょとんした可愛らしい顔で尋ねました。
「まあ、助かりますね」
「じゃあ、やる!」
ルヨは嬉しそうに宣言しました。ハーリングも心底助かったなと思っていました。
「それでさ?」
ルヨの問い掛けにハーリングは「何でしょう?」と応じます。
「かじーって何?」
ハーリングの思惑は脆くも崩れ去りました。
「はぁ…………」
ハーリングは憂鬱そうに溜息を吐きます。
そりゃ溜息の一つも吐きたくなります。
船の中は惨憺たる有様でした。
台所には数時間前よりも汚れた食器が山積みになり、洗濯籠には数十分前よりも汚れた服が満載され、部屋は刻一刻と汚れていきます。
「そーじーそーじー♪」
ハーリングは家事が嫌いですが、やり方は何となく知っていたのです。
だから、彼は家事のやり方をルヨに教えてみたのです。
まず、食器洗いをやらせてみたのですが、ルヨは食器は数個使用不可にし、更には、何をやったのか洗った食器も前より汚くなっていました。
次に、洗濯をやらせてみましたが、ルヨは服を何枚か海の彼方に流してしまい、更には、何をやったのか洗った服も前より汚くなっていました。
そして、掃除をやらせてみていますが、どーにもいかんのです。
「ルヨ。そんなに、乱暴に走らないで下さい……。モップで机の上を拭かないで下さい……。ああ、バケツがひっくり返りましたよ……。あー……」
暗澹たる表情のハーリング。
対して、ルヨは何だか楽しそうです。モップを抱えて船内を走り回ります。楽しい上に役立っていると思っているのです。彼女は本当によい笑顔をしていました。
ハーリングは泣きたくなりました。これは、もうダメです。本当にメイドさんを雇おうと彼は溢れ出そうになる涙をこらえながら思いました。
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