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魔法使いたちは旅をします
作:雑草生産者



第1話〜猫を飼いたいと思ったのです〜


 昔々、ある所で、若く小柄で少し長い黒髪で冷ややかな青い目の魔法使いが小さな船で旅をしていました。

 ある日、魔法使いが、いつものように、ぼんやりと午後のお茶をしている時、唐突にその考えは浮かびました。

 猫を飼いたいな。と思ったわけです。

 そう。猫です。あのふわふわして、毛むくじゃらで、温かくて、血の通った生き物です。目はくりくりっとして大きく、顔はとても小さい。だんろ暖炉の前で丸くなったりするあの動物です。
 魔法使いは自分で淹れたお茶をすすりながら更に思うのです。
 色は夜闇よやみのような黒がいい。瞳は満月のような金色がいい。金色の輝く瞳の黒い猫がいい。
 魔法使いはそんな猫を何故だか無性に飼いたくなったのです。膝の上に猫を置いてゆっくり読書なんて素敵じゃないですか。とても、まったりした気分になり、いやされることは間違いないのです。
 この素敵な考えは、もう突然に、何の前触れも、前振りもなく、いきなり、降って来たかのように魔法使いの頭の中にぽっと浮かんだのです。そして、その思いは中々にあらがいがたい強さを持っていました。
 そういったわけで魔法使いは猫を飼うことにしたのです。
 彼は魔法使いですから、わざわざ、猫を拾いに行ったり、愛玩動物を扱う店に行って買って来たりはしません。魔法で猫を出すことは、そう難しいことではないのです。
 魔法を使わない人の中には勘違いをしている人も多いようですが、魔法というのは万能ではありません。魔法は、無から有を取り出したり、有を無にしたりはできないのです。
 じゃあ、何をするのか?
 魔法使いがするのは、違う時空からモノを持ってきたり、または、違う時空に持っていったり、100を101にしたり、100を99にしたりする程度のことです。
 ですから、彼は全く何もない、そこから猫を出すわけではなく、どこか違う時空から猫を持ってくるのです。
 その魔法を行使こうしすることはそう難しいことではありません。
 まず、船の床に白いチョークで魔方陣を描きます。大きな丸を描いてからその周りや中に小さい丸や三角、ばつ、線を描いていきます。
 それから、魔法使いにしか読めない大昔の難しい文字を書いていきます。
 時折、本を読んで魔法陣が正しいか確認しました。少しでも違うと色々と困ったことになってしまうのです。
 それから、魔力を高めるお香をきます。その匂いは甘いような苦いような酸っぱいような匂いで、決して良い匂いではありません。しかし、魔法使いは慣れているので平気です。
 そして、最後、ここが最も重要なのですが、呪文を唱えながら、ただ一心に魔法の神様に祈るのです。

〈神様、神様、魔法の神様。私の願いを聞いて下さい。魔法使いとして、私は私の欲望と身勝手によってのみ願い、欲します。猫を下さい。夜闇のように黒い絹のような毛並みで、満月のように黄金色に輝く瞳を持つ猫を私に下さい〉

 そうすれば、どこからともなく、魔方陣の上に猫は現れて、魔法使いは膝の上に猫を置いて、ゆっくり読書をできるのです。
 しかし、この時、魔法使いの祈りが少しぶれてしまったのが、全ての始まりでした。
 魔法の強さといいますか効力というものは、魔法を唱える人の思いの強さに比例します。
 ひたすらに強い思いで行使すれば、強力な魔法ができますし、薄弱な思いだと、弱い魔法や望まない結果の魔法になってしまいます。
 ですから、魔法を行使する時は、その魔法で実現させようとしていること以外のことを頭から追い出し、極限まで集中することが必要なのです。
 魔法使いは、その魔法の大原則をうっかりと忘れていたのです。この時、魔法使いはちらっとだけ猫以外の別のことを考えてしまったのです。
 一般的に魔法使いという人間には、変人でずぼらで魔法以外のことには集中力を欠き、魔法を使える以外は全くの能無しという者が多かったりします。
 中でも魔法使いに最も足りないのは生活力です。魔法使いは人一倍、部屋を散らかし、服を汚し、お腹を減らすくせに、掃除洗濯料理といったものが大変苦手というか嫌いなのです。
 多くの魔法使いの例に漏れず、彼も大変ずぼらで生活力の無い人間でした。
 自分の世話だけでうんざりなのに、猫を飼ったら、その世話もしなければならないのです。
 それはとても面倒臭いので猫を出すのは止めにしようかなと魔法使いは思いました。
 ですが、すぐに思い付きました。自分と猫の世話をしてくれるメイドさんを雇えば良いのです。そうしたら問題ないです。
 魔法使いは掃除も洗濯も料理もしないでいいですし、猫もきちんと飼うことができます。前の小鳥のように、うっかりミイラにしてしまうこともありません。

 この時、魔法使いの集中力が乱れていたのは言うまでもないことです。
 そんなことを考えていたせいで、魔方陣に現れかけていた影は猫になったり、メイドさんになったり、小鳥になりかけて止めたりして、結局、現れたのは、
「ありゃりゃ? ここ、どこー?」
 その声で魔法使いははっとして魔方陣に現れたモノを見つめました。
 少女でした。年齢は10代後半ほど、身長は155cmくらい。体格はほっそりとして、しなやか。全体的雰囲気も猫っぽい少女です。
 植物繊維しょくぶつせんいと思われる緑色の袖なしシャツに何かの毛皮を加工したと思われる薄茶色のハーフパンツという服装。
 夜闇のように黒い絹のようなセミロングの髪。満月のように黄金色に輝く金色の瞳。お尻から生えた細長い黒い尻尾。二つの三角耳。確かに、魔法使いの望んだとおりです。しかし、その生き物は確実に猫ではなく、少女なのです。しかも、普通の少女じゃありません。
「猫耳……猫尻尾……ですか…」
 魔法使いが魔法で出したのは猫少女でした。


短編連作だと言ったばかりにも関わらず続きます。
だって!予想外に長引くんだもの!ごめんなさい!











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