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これはひどい短編集。

たとえばこんな転生令嬢

作者:笹の葉粟餅
私は女子高生である。

厳密には、女子高生である。

今の・・名前はハエモニイ・シプレッス、現役バリバリの七歳の少女だ。

前世の名前は覚えてないが、共学の全日制高校に通う、友達いない歴=年齢、幼児期のあれやこれやで人見知りを人間嫌いにまで拗らせてたけど、特に不自由していなかったので、友達というものは、水や空気、食べ物のようになくては立ち行かないものではなく、嗜好品の一種だと考えていたプロボッチだったことは覚えている。

前世は前世で痛い子だった訳だが、七歳の誕生日に高熱出して魘されまくってるのに放置されてる今の私も、しょっぱい子だろう。

急な発熱、それもかなりの高熱にも関わらず放置されっぱで、炎天下のアスファルトに放り出された蚯蚓みたいな、サイケな光の帯がのたうつ視界に、ふーっと気が遠くなったと思ったら、前世の記憶が頭の奥の奥の更に奥にがっちりかかった何重もの錠前がばらばらに壊れて、溢れ出てきたのがついさっき。

前世の私は、拗らせたぼっちが天元突破した、ぼっちオブぼっちの女子高生だった。

ゲームと読書とガーデニングが趣味なのは、どれも一人で没頭するものだから。

ただしゲームはオフライン限定。

ネトゲ? ソシャゲ? 課金ありきのゲームとか、そんなんは扶養家族抜けてからの話だし、その間の趣味なら小遣いお年玉誕生日プレゼント、バイト解禁後はバイト代の範囲内でするものだと決めていましたが、何か。

周りから根暗とかオタクとか散々言われたけど、だから何? で我関せずしてたら、学校でも有名らしい騎士団(笑)のイケメン(笑)に絡まれた。

一回二回ならスルーもするが、ことあるごとにとなれば、堪忍袋の緒もブチッと逝く。

許容量はでかいけど限界越えたら真顔でブチ切れて宣戦布告、は日本人のデフォルトだとゆーことを忘れたのか。

なので、


『私が根暗のオタクであることが社会の害悪になる明確な根拠を提示して証明してくれないか。そもそも君なんかに興味なんてマクロファージの爪の先ほどもないですよ。大体、女子生徒はすべからく俺に気があるとか自意識過剰か。何で君の痛いナルシシズムに付き合わなくちゃいけないんだい。君の痛さに他人様を巻き込まないでくれるかな。毛布に喰われてエンジニアに踏まれてもげててくれませんかこの顔だけ×××野郎』


と、全校生徒の四分の三の暗黙の共通認識をノンブレスでぶちまけたところ、なんということでしょう。

観客オーディエンスががっつりいるにもかかわらず、顔を真っ赤にしてふじこふじこ喚きながら、非力なもやしを突き飛ばしやがったではありませんか。

バカだバカだと思ってたけど、コイツ真性マジモンのバカだ――突き飛ばされて○田行進曲よろしく階段落ちしながら聞いた、ゴキャッと人体から聞こえちゃいけない音が、私の前世終了のお知らせだった。

解脱できるほど悟ってないから輪廻転生コースだな、と思っていたら、どう見てもSANチェック自動失敗ですありがとうございます、なナニカに引っ張られて、「最近の流行っぽいし、このビッグウェーブに乗るしかないと思って」と、チート押し付けて異世界にそぉい! とか、さすが外なる神。

そこにシビレないしアコガレない。

と、振り返っていると、熱のせいでいい塩梅に茹だった脳味噌が、こんな時のお約束を引っ張り出した。

知らない天井? いいえステータスオープンです。

ほっ、ほらネット小説の転生ものの定番じゃんステータスオープンとか! と、誰に対してだかわからない言い訳をしつつ、ステータスオープン! と念じてみたら、本当にステータスらしきものが出てきてさあ大変。


ハエモニイ・シプレッス 七歳 女
筋 力:7
体 力:7
敏捷性:11
知 性:17
精神力:14
魔 力:9(9^4)
魅 力:16
所有スキル
ノブレス・マナー(初等級):レベル05
生存(高等級):レベル99
鑑定(高等級):レベル99
偽装(高等級):レベル99
亜空間収納庫(高等級):レベル99
言語理解(神恵級):レベル∞
魔力の湧泉(神恵級):レベル∞
緑の王(神恵級):レベル∞
守護・祝福
名付けられざる深淵の神の恩寵
状態異常



名前、年齢、性別、能力値、スキル、守護・祝福、状態異常――そう、状態異常。

何か色々やばそげな内容がずらーっと並んだ、ツッコミどころ満載過ぎてどこからツッコめばいいかわからない数々の項目の下、状態異常:毒とか出てて噴いた。超噴いたけど、死んでやる気は毛頭ない。

ツッコミどころは多々あるものの、ステータスの所持スキル一覧にあったスキルを早速使おう。

神恩級スキル・レベル∞、緑の王。あらゆる植物を支配し、この世界には存在しない植物をも自在に造り出す。

そんな厨二病乙、もいいとこなスキルを使って、二種類の植物を作る。

ひとつは、某二大国民的RPGのドラゴンの方に出てきた毒消しの草で、毒なら何でも中和するぜバリバリー、な出鱈目くさい代物だってイメージがあるから、多分その通りのブツができる、はず。

もうひとつは、ソーマ酒の原料ってことになってるソーマ草にしてみたけど、ソーマといえば、某悪魔召喚ゲームでお馴染み、HPとMPを完全回復してくれるアイテムだけど、その原材料ならそれなりに効果ありそうだし。

まずは状態異常・毒解除のため毒消しの草を作ろう。

スキルの使い方とかよくわからなかったけど、本能と気合いと何となくこれなんじゃないかなー、とイメージを込めると、すぅーっと何かが体の中から抜けてく感覚と共に、手の中に何かが現れるのが感じられた。

握った右手をそっと開くと、ペリドットでできたマスカットのような果実がひとつ――“わたしのかんがえたさいきょうのどくけし”、だ。

最初はハーブとかそんなかな、と思ったけど、その場で即使うならこっちかな、でこうしてみた。

が、念のため鑑定鑑定。


霊樹の果実
いかなる毒もたちどころに解毒する、霊験あらたかな果実。
神気に満ちた深山幽谷の他は、何重もの結界で聖別された神殿内の神域でのみ結実するため、王族以外が手に入れるには、天文学的な額の金銭が必要となる。


……あ、やばい。何かどえらいもんできたけど、私にはいくらでも作れるからなあ、これ。

宝石のような実を口に含んで噛み潰す。

食感と味はマスカットが一番近いけど、庶民の知ってるマスカットとは、メタボ親父の尿道結石とホープダイヤほども違う。

桐箱に恭しく納められた、お値段五桁後半から六桁とか頭おかしいレベルのやつすら、この果実とは比べ物にならないだろう。

口の中に果汁が溢れた途端、霧が晴れるように全身を支配していた熱と痛みが引いていくのは、さすが理不尽高性能。いい仕事してますね。

続けて、もうひとつのソーマ草に取りかかるが、毒消しで感覚を掴めたからか、呆気ないほど簡単に作れてしまった。

七歳女児のてのひらにちょうど収まる、透明なオパールをシャボンの膜ほど薄く削ったような花弁を持ち、虹色の燐光をまとう蓮。何せヒンドゥーの神々がお飲みになる神酒の原料だし、こんくらい派手でもおかしくはあるまい。

さて、これも鑑定しておくか。


神酒花
神々の宴席で供される神酒の原料。
地上では、百年に一度、神々の庭とされる霊山の山頂にある泉にのみ咲くとされる花は、食べれば老い以外のすべての身体的・精神的苦痛や疲労を払い、癒す。


わあ、こっちも大概だった。

食べてもいいけど、ソーマ酒の原料ならそれらしく水に溶かすとかして、液体にして飲むべきではないか。

そう考えて、ベッドサイドのナイトテーブルに置かれた水差しに手を伸ばし――一旦停止。

水差しの水が、安全とは限らない。

寝る前にそこの水差しの水を飲んでいるけど、それが状態異常:毒の原因ではないとは言い切れまい。

石橋は非破壊検査で調べて命綱をつけて渡るもの、とゆー訳でハイハイ鑑定鑑定。


トゥーファ水
服用の三、四時間後に熱病に似た症状を発症し、最短十時間で死亡する。解毒が間に合っても、手足が痺れるなどの後遺症を発する場合がある。
熱病による衰弱死と判別がつきにくいため、この毒物は所持するだけで重罪となる。


……うん。どう見ても暗殺用ですありがとうございます。無駄に終わったけど。

後遺症が手足の痺れとなると、そっちのも作っておこう。

毒消しと同じ、ドラゴンな二大RPGから麻痺状態を回復するアレをイメージしながら魔力を込めれば、うす青いムーンストーンを真球形に削り出したような実が、手の中に現れる。

念のためこれも鑑定しておこう。


月涙露草の実
麻痺した神経を回復し、感覚を取り戻させる効果がある。
月涙露草自体は草原にいくらでも自生しているが、満月の夜、月光があたらなければ結実せず、実を摘んでも十分以内に用いらなければ腐敗し始めるため、実際に用いられることはほとんどない。


あらそうですか。

それではさっそくいただきます。

……うん、普通においしい。食感は柔らかめのナタデココ、味はブルーベリーのフルーツソースを炭酸水で割って、ミントの枝とレモン加えたみたいな感じで、普通においしい。

麻痺予防したところで、さっき作った毒消し作成に取りかかる。

これまでは一つだけだったけど、今度は二つに挑戦しよう。

梃子摺るかな、と思ったけど、一度コツ掴むと案外サクサクできるようで、あっさりできてしまった。

作った毒消しの一つにぐぐっと魔力を込めて、皮も果実もまるごと液状化したものを水差しに落とし、魔力を注いで撹拌し、無色透明だった水が、気のせい程度にうっすら黄緑色を帯びたところで、二つ目の毒消しを同じように加えると、うっすらが透き通った淡い黄緑色になったので、再鑑定。


解毒の霊薬(Ⅳ)
解毒作用のある霊樹の果実を溶かし込んで作られた霊薬。
霊樹の果実と高密度な魔力によって浄められた水を用いているが、もととなった水がトゥーファ水であったため、最高品質のⅤには届かなかったが、限らなく最高品質に近い逸品。


まーた何かえらいのできたけど、退かぬ媚びぬ省みぬの精神でソーマ草をそのままぶっこみ、魔力ミキサー(仮)でがーっと撹拌する。

雑? 細けぇこたあいいんだよ。

透き通った淡い黄緑色が薄れるにつれて、水がほのかな光を帯びだす。

満月の光だけで写真を撮る写真家が撮影した花の写真みたいな、夜中のプールみたいな、何とも言えない光で満ちたところで撹拌を止めて、レッツ鑑定。


神酒花の霊薬(‐)
解毒の霊薬に神酒花を溶かし込んだ霊薬で、地上に存在するすべての毒の解毒剤。
新陳代謝を促し全身の細胞を若返らせ、後天的なあらゆる損傷を回復させるが、先天的な損傷までは回復しない。
定期的に摂取することで一時的ではあるが不老となれる。


……うん、やばい。マジやばい。洒落にならないわこれ。ころしてでもうばいとるレベルの危険物じゃないですかやだー。

ファンタジーなのに鑑定結果がファンタジーくさくないのは、私の知識や理解力のせいかもしれない、と軽く現実逃避したところで、神酒花の霊薬は消えてはくれない。

ひきつり気味の半笑いを浮かべて、水差しからグラスに霊薬を注いで、一気に飲み干す。

美味い。美味すぎる。いやマジでこれ美味いんだけど。

何なのこれ。マスカットの風味を残しつつも、類似するものがないので表現不可能で、だけど確かに花の香りとしか表現できない清涼かつ芳醇な香りと、控えめながら舌が蕩けて消えてしまいそうな蜜の甘さがふわりと広がり、儚く消える。

別の意味でやべえわこれ。この先、どんな果物やスイーツ食べても、「この程度か」としか思えなくなるのは確定的に明らか。最上を知ってしまうって、不幸だと思う。

思うところは多々あれど、とりあえず神酒花の霊薬を亜空間収納庫に水差しごとぶち込み、もう一度ステータスを開く。

状態異常は消えたけど、何か新しくスキル生えてて草生えた。

新しく生えたスキルは、


錬金(中等級):49
魔力操作(中等級):49


の二つ。

初等級すっ飛んでるのは、対象の諸々ががぶっ壊れてるからではないかと予測されるけど、でもだからってこれはひどい、運営クソだなと言われても否定できないレベルでひどい。

うーあーと頭を抱えつつステータス表示を消し、くったくたのぺっらぺらな、廃品回収に出される寸前みたいな羽毛布団にくるまって、目を閉じる。

現実逃避? そうとも言う。だって数時間の間にありすぎでしょ色々と。現実逃避したっていいじゃない、人間だものbyみ○を。

ファッキンクライスト様々にお願い申し上げます。明日は……明日は「植物の心」のような……そんな「平穏な生活」でありますように。



        ☆        ☆        ☆        ☆



「ないわー……」


遠い目をして呟くワタクシ、ハエモニイ・シプレッス。花も恥じらう娘十七番茶も出花なお年頃。

離れとは名ばかりの納屋に放り込まれ、うふふおほほと優雅に贅沢三昧なシプレッス子爵家の皆様を横目に、養育放棄されながらもスキルのお陰でいい暮らししてましたが何か。

時々屋敷を抜け出しては、アイスプラント由来の塩、平民向けのきび砂糖にてんさい糖、貴族向けの上白糖、ヘチマ水美容液やら、古代植物堆積層ミネラル(いや、これまで植物カテゴリに入るとは……ビバ思い込み)配合植物性ファンデーション、熊笹成分配合天花粉ボディーパウダー&フットパウダー、オリーブオイル石鹸にアルガンオイル石鹸、ローリエオイル石鹸等々を、隣の領地で代理人(改良型マンドラゴラver.7プログラム式等身大俺の嫁)に売らせてたから、豪遊しなければ二、三十年は暮らせるだけの財産もある。

だもんで、貴族の子弟子女は有無を言わさずぶっ込まれる王立学園を卒業したら、その日のうちに出奔する気だった。

学費? 教材費生活費その他諸々は自腹ですが何か。

スクールライフは、王太子の婚約者ながら、


「はぁ? あの顔と血筋以外取り柄のないモラハラ俺様野郎に恋? ないないないない。クラスメイトが明日いきなりゴリラやフレディやメカやトンカツばっか食べてるメガネボーズやパンイチ宇宙人になってる方がまだあり得るってレベルでないから。つかぶっちゃけゴリラやフレディやメカやメガネボーズやパンイチ宇宙人のが兆倍マシだから」


と、醤油煎餅をばりぼりかじるご同類、キノケトゥス侯爵家のアリミエル嬢と意気投合し、なかなかに充実してたし、それならに楽しくはあった。

楽しくはあったけど、卒業式前の舞踏会でこうくるとはねー、と、アリミエル嬢と仲良く遠い目をしている。


「やべえ草生える」
「自重しろ侯爵令嬢」


モヒカン闊歩する世紀末の荒野より乾いた目で、半笑いになりそうな表情筋を抑え込みながら、アリミエル嬢――アリーと小声で言葉を交わす。

うん、これは確かに草生える。アリー曰くところの“顔と血筋以外取り柄のないモラハラ俺様野郎”であるところの王太子殿下を筆頭とする学園五大奇行・・子が勢揃い。その中心には、同じ畑の種違いの異父妹いもうと様がいらっしゃって、私の腹筋はダウン寸前よ! やめたげてよお! 状態。

ちなみに、五大奇行子とは王太子殿下以外、王太子殿下の乳兄弟で現近衛騎士団団長の長男、宰相の次男で王太子殿下の相談役、魔術師団団長の長男、我が異父弟を示す隠語だ。

王太子殿下はモラハラ俺様野郎だが、騎士団団長の長男は生真面目な堅物、といえば聞こえはいいが、思い込みが激し過ぎて周りが見えない猪。

宰相の次男は冷徹な策士を気取っているけど詰めが甘く、自分がこうなるべきだと思っているように物事が進まないと癇癪を起こすガキ。

魔術師団団長の長男はクールな天才、とゆー自分像に酔ってる、戦場で後ろから流れ弾(故意)で真っ先にられる七光りの上げ底選民思想エリート。

異父弟は、仔犬系みんなの弟キャラ狙って全力で外してウザがられているのに気付いてない、空気読めずにキャンキャン吠えてる駄犬未満。

全員に共通するのは、恐ろしいまでに独善的で、自分が絶対に正しく、それに異を唱える者はすべからく無能か悪に分類するって思考だ。

だけ・・はいいから、中身を知らずうっかり近付いちゃった連中は、自分のような無能では釣り合わない云々と相手を持ち上げつつFOフェードアウト、知ってる連中は海峡の向こう側から双眼鏡で奇行ウォッチしつつ、反面教師として活用している。

そんな連中だけど、家柄が家柄だけに婚約者がいる。

純粋に政治的な、貴族の義務としての婚約なので、婚約者である令嬢方は、家督を継ぐ長男を産んだ後は好きにしていいとの確約を得ており、学園には将来の愛人の見定めに来ているようなもの――だった。

だった。つまり過去形。では今は?


「早いところ、茶番を終わらせていただきたいものですわ」
「ええ。アリミエル様のアステール×ヴィオレタの生カプがやっと見られると思っていましたのに……」
「全くですわ。そもそも、あんなのが欲しいのでしたら、わたくし、喜んで差し上げましてよ?」


アリーと私の他にも、異父弟以外の三名の婚約者である令嬢が一緒に吊し上げられてるが、お分かりいただけただろうか。


「何まっとうなご令嬢腐らせてるんだいお超腐神」
「転生しても治らないって、業って怖いわー」
「フルカスタムの改良型マンドラゴラver.8自律式有人格等身大俺の嫁を何に使うかと思えば、前世の押しカプのリアル化って……」
「寸分違わず隅から隅まで理想そのままでマジで萌え死ぬとこだったわー。いい仕事し過ぎですわーはっちゃん超愛してる」


……侯爵令嬢はお腐れ様だったのです。

でもって被害者の会サロンに集めた奇行子どもの婚約者である令嬢方まで腐らせた。だめだこいつ何とかしないと。

一方的にヒートアップし、伴侶に相応しくないだの何だのと喚く五大奇行子を侍らかせ、可憐でか弱く心優しい乙女アピールしてる異父妹が勝ち誇ったドヤ顔してるけど、正直こっちとしては「茶番乙」と草生やす気すら湧かない。

稼いだ金も、魔力とスキルで作り倒した、頭おかしいんじゃないかって発狂ものの性能の各種霊薬、塩、砂糖、化粧品(ボディケア&ヘアケア製品含む)、大量の綿、亜麻、苧麻、オヒョウ、ハルニレ、シナノキ、霊樹に神酒花の糸、各種天然樹脂、エッセンシャルオイルの類は亜空間収納庫の中なので、身一つでどこに行っても生きていけるから、家だろうが国だろうが追放されてもだから何? だし、アリーだって、王太子に追放宣言されたところで屁でもない。

アリーの父上が亡くなられた今、アリーの母上をこの国に留まらせているのは、アリーの存在に他ならない。そのアリーを、王太子が王族として追放を宣言すれば、アリーの母上がアリーと共にこの国を去るのは火を見るより明らかだ。

この国を去ったアリーとアリーの母上が向かうのはアリーの母上の生国だが、アリーの母上がその国の王妹殿下だと理解しているのだろうか。

あと、王太子以外の五大奇行子どもも、令嬢方はおまいらみたいなアホをサポートできるほど有能だから婚約者にさせられたのであって、おまいらが俺sugeeeと思い込んでいられてたのも、令嬢方がサポートしてたからだとゆーことを、わかっているのだろうか。いないな。確実に。

得意満面で囀るアホどもに付き合うのも、いい加減飽きたので、見えないようにこっそりとアリーの脇腹を小突き、アイコンタクトではよ終わらせろ、とせっつく。


「……もう結構ですわ。殿下は王家の名において、わたくしどもの婚約の破棄、国籍剥奪の上での国外追放を言い渡されました。たとえ存在しない罪に対するいわれなき罰であっても、王家の名においてなされたことですもの、従いますわ。……皆様もご実家への報告はお済みでしょうから、まずはわたくしの屋敷へおいでなさいませ。母も、この国には愛想が尽きたそうですから、わたくしは母と母の祖国に向かいます。いかがでしょう、皆様もご一緒しませんこと? 皆様ほどの才媛ならば、母の祖国も喜んで受け入れますわ」


……とか言っても、シナリオ通りなんだけどな。

五大奇行子が卒業記念舞踏会でやらかす最悪の事例、“婚約破棄&国外追放宣言祭り”発生時の対応マニュアルに添って、アリーは伯爵令嬢にふさわしい、威厳・気品・優雅さという猫をがっつり着込んで微笑む。

全来場者を「こいつアホだ」と戦慄せしめたであろう王太子のやらかしを、本来諌めるべき立場の奇行子どもが後押しした上に尻馬に乗ったことに加え、王太子のやらかしが何の証拠もない思い込みによる一方的なもので、ちょっと調べればアリーと令嬢方には弾劾されるべき罪など何一つないことがわかる、と匂わせることで、王太子の王としての資質を疑わせるオプションまで付けて巧みに印象付けるとか、いい仕事してるなあ。

会場内の空気に不穏なものが立ち込めるのを、あえて読まなかったことにしたアリーが、こちらを振り向きにっこり微笑む。

うん、普通に怖いからその笑顔。


「それでは皆様、ご機嫌よう」


優雅に一礼するアリーに合わせて、令嬢方と私も、一礼する。

あー猫が重い。

最後の最後まで微笑みで武装し、貴族の令嬢に相応しい毅然とした態度を貫いた令嬢方への視線は、称賛と敬意を含んだ好意的なものだ。

しかしながら、五大奇行子と異父妹には、“罪人を見る軽蔑の眼差し”に見えているらしい。うん、それが向いてる先あんたらだから。

アイコンタクトで令嬢方の同意を得たアリーが、スキルを発動させた。

無生物と人間未満の知性を持つ生命体なら同意なし、人間以上の知性を持つ生命体は要同意ながら、重量質量無制限、アリーが行ったことのある場所、との制約はあるものの、距離自体は無制限でどこにでも転移可能な転生特典のチートスキル、無限軌道。

こんな戦略兵器級のチートスキル持ち追い出すとか、草生えるわ。

しかも、そのチートスキル持ちが転がり込む先が、友好関係にはあるけど最大の仮想敵国とか、NDKと㌧㌧したい。超したいけど自重する。

まあ、私らこの国おん出るんだし、後がどーなろーとどうでもいいんだけどね。どうでも。



        ☆        ☆        ☆        ☆



さて、私らが卒業記念舞踏会どころか国からエスケープした後は、阿鼻叫喚だったらしい。

そりゃそうだ、五大奇行子フォローできる超有能な人材な上に、国家戦略左右するレベルのスキル持ちが最大の仮想敵国に流出しちゃったらそーなるわな。

隣国の王宮の一角、夫を亡くしてからとゆーものの、女手ひとつで育ててきた娘がいわれのない罪で名誉を汚され国を追われ、プッツーンとなった出戻り王妹殿下に与えられた離宮の一室で、アリーと私はそんな話をしながら、お茶請けの麩菓子を緑茶でぼりぼりしてる最中だ。

ちなみに、令嬢方はこの国の有力者の養女となって、能力に応じた役職としかるべき配偶者を得ることになってるから将来は安泰だろう。


「すっげーなグダグダ祭りじゃねーか。腹いてー草生えるー」
「どんだけ草仕込んでるんだい他所の王宮に。草生え放題の王宮って一体」
「いーじゃんいーじゃん、おかげでメシウマなんだから」
「それな」


草――間者がお仕事楽過ぎて楽過ぎて震える底抜けセキュリティなもんだから、情報筒抜けで私らの腹筋が連日やばいことになっている。

まず五大奇行子筆頭の王太子だが、異父妹アレの自作自演な嘘八百を鵜呑みにし、立件に必要な証拠/ZEROにも関わらず、二転三転する証言だけでアリーや他の奇行子どもの婚約者である令嬢方を国籍剥奪の上国外追放、なんて王太子の権限も刑法も明らかに逸脱した処罰を、王家の名のもとに宣言した結果、国内の貴族の支持を一気に失った。

自国の法をろくすっぽ理解してないのもまずかったが、それ以上に、かつて国を滅亡寸前まで傾けた、悪逆非道、奸佞邪知の暴君の再来を防ぐべく定められた法をガン無視し、法の制約<<(越えられない壁)<<俺、と言わんばかりの態度が、暴君の圧政を知るシルバー世代を不支持飛び越え排斥に走らせた。

舞踏会での出来事をあの手この手で市井に流し、


「むぅ……これは……」
「し、知っているのか、雷○!」


雷○かいせつまで用意して、暴君の圧政の記憶を呼び覚まさせ、王太子≒暴君を民衆の頭に刷り込み、心理的離反を促す手口は流石である。

令嬢方の実家も、枝葉末節の分家に至るまで一致団結、シルバー世代を後押ししつつ、あの王太子が王となったら、何時誰が大した理由もなく処刑されてもおかしくないですなあ、と盛大に煙を立たせ、更にぶっ壊れ性能のスキル持ちのアリーと、アリー以上にぶっ壊れ性能のスキル持ってる私が仮想敵国に持っていかれる原因作った超級戦犯王太子だよな、とアリーと私のスキル性能とセットで呟きまくったそうな。

ちなみに私らのスキルだけど、アリーは国王陛下おじさん経由、私は神殿経由で公表した。

こういうぶっ壊れ性能のスキル持ってる場合、身を守る手段て全力で伏せるかフルフロンタルもといフルオープンにするかの二つに一つだからね。

とまあ、マズ過ぎる行いと逃がした魚の巨大さ、国民の圧倒的不人気と貴族の圧倒的不支持から、面倒なことにならないように魔力の源泉である“炉”を破壊されタマを抜かれた上で王太子→廃太子→王籍抹消→出家(=生涯禁固)と華麗なる転身を遂げたそうだ。

五大奇行子の残りの面子はと言えば、実家はもとより枝葉末節の分家に至るまで社交界でプークスクスと笑い者、晒し者はまだいい方で、令嬢方の血縁にあたる家は、未来永劫、奇行子どもの縁戚との縁談はいたしません宣言で両手の指でも足りない縁談が消滅。

関係ない家でも、奇行子どもの余りのアレさ加減に恐れ戦き、誠に残念ですが今回のことはなかったことに、が某ギャングスターの無駄無駄ラッシュの如く降り注ぎ、既婚小梨家庭では離縁ラッシュが某オラオラ系(物理)高校生のオラオラの如くブッパされまくったらしい。

君が! 離縁に応じるまで! 殴るのを(略)が起きたかは知らないけど、立て続けに配偶者が亡くなるケースはあったらしい。偶然って怖い。

そんな家名断絶の危機を招いた奇行子どもの行く末だが、雁首揃えて晒し首、とはならなかったものの、“炉”を破壊されて初等級レベル01の魔術すら行使できなくされた上でロボット三原則ギアス、利き手の腱の切断、タマ抜きの怒涛のバスケがダムダムと決まり、戸籍抜かれて更生不可能な重犯罪者の収容所兼処刑場である鉱山送りになったそうな。

鉱夫としては確実に役に立たなそうだけど、少女漫画や乙女ゲームのひょろこい美形が揃ってたから、ケツ差し出せば当分は大事にしてもらえるんではなかろうか。

良かったな燃料投下で、と麩菓子をかじりつつ言えば、節子それ燃料やない、萌えないゴミやと返された。

あー、確かに腐女子がおおっぴらに喰い付いてくる前の少年漫画をそーいう視線で見てハアハアする派でしたねアリーは。

儚げでか弱い乙女とはお世辞にも言えないけど、黙って立っていればアリーはとんでもない美少女なのに、どうしてこう勿体ないんだろう。

背筋をまっすぐ伸ばし、嵐を前にしても怖れず怯まず立ち向かう意志の強さが、そのまま美しさにつながってるような、凛とした美人さんなのに……本当に残念過ぎる。

で、五大奇行子終了のお知らせの引き金であるところの異父妹だけど、“炉”破壊の上で胎に不妊の呪詛植えて、歯引っこ抜いて最下級の売春宿に格安で払い下げ、となったらしい。

貴族や豪商が利用するようなとこでは、店の品位と格式に障りますので、とお断りしますが多発した結果、そこしが買い手がなかったそうだ。

男に股開いて媚び売るしか取り柄のない売女にとっちゃ天職じゃねーの、とはアリーの談だが、現国王の姪としてそれはどうなんだろう。しみじみ残念だ。


「……アリーはさ。この先どうするんだい?」
「あー、侯爵家の三男に求婚されてるのよね。ちょっと年上だけど有能で誠実って、今まで浮いた話がないのがおかしいくらいの優良株なんだけどさ」
「何だいそれ、初耳だぞ!? 何で黙ってたんだよ水臭いな!?」
「いやだって私プロポーズされてるの きゃっハズカシい とか柄じゃないだろ私の」
「アリー……君……リア充になろうとしているなッ!!」
「……ほう、それを言うか。知っているぞハエモニイ! 貴様もされてるなッ! 求婚をッ!」
「全力でお断りしている最中だよ! って言うか何で知ってるんだ君っ! 誰にも言ってないのにっ!」
「ほほーう求婚されてることは否定しないのかァ~」
「ねえアリー君キャラ変ってるよね、変ってるよね!?」
「ちょっとエキサイティン! しちゃったてへぺろ。……で、どうなの? なかなか落ちてくれないってぼやいてたよー?」
「待って。私の友人、それ以前に姪っ子にそんなこと相談するって何考えてるんだ!?」
「それな。自分の歳考えろロリコンか貴様と屠殺場の豚を見るより冷たい目で蔑んだけど、惚れたものは仕方がないって切り返されて感動した。あそこまで堂々としてると最低なカミングアウトでもいっそ清々しいわー」
「そんなことに感動するなよ! 諌めてよ王弟殿下おじさんが性犯罪者に足突っ込みかけてるんだよっ!? 神官長様がそれでいいのかいっ!?」
「えー、世間の白い目が確定的に明らかな年齢差って茨の道にあえて踏み込む勇気とか、凄くね?」
「引き返す勇気の方が大事だよっ!」
「女なぞ駄菓子と言わんばかりに後腐れない相手適当に喰っちゃポイしてきた男の初恋やで? 応援してやりたいがな」
「あの年で初恋って普通にヒく案件だからっ!」
「……それ本人には言わんといたってな? おっさんって繊細な生き物だから」
「繊細な四十路は十七の小娘に求婚なんてしないっ!」
「ぐう正論ー」


とりあえず、王弟殿下は本格的にロリコン呼ばわりされないうちに目を覚まさせるべきだと思うけど……アレに太刀打ちできるのっているんだろうか。

無駄に顔よし、家柄よし(王族)、地位よし(神殿トップ)なのに残念通り越して犯罪って。

正直思うところは多々あるけれど、しばらくはこのままでいたい、というのは贅沢なんだろうか。

いつまでモラトリアム許されるのかなあ……。

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