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栄光の陰
作:松谷ソウイチロウ


時間の感覚がはっきりしなかった。

朝なのか夜なのかさえ感じることができない。

ここは何処だ。

カーテンが窓枠を覆い、あらゆる光が遮断されていた。

音が無い。

寂寥としているのでは無い。

そこには、音という概念が無かった。

ただ、自分の心臓が動いている鼓動だけが耳を打つ。

部屋の中を見回す。

殺人事件の現場を調べる刑事のようにまじまじと。

殺風景な部屋だ。

壁に貼られた世界地図は、男のちっぽけさをただ印象付けている。

果てなく縮小された平面のごくわずかを占める赤い島国。

そこに鉛筆の先でちょん、と点を付けた様な場所に男は住んでいる。

世界中で11億人と云う人が飢餓に苦しむ。

生まれた場所の運命が、人生の運命を決める。

食べることができるという僥倖。

世界地図から読み取れる人間の格差は、偉そうな薫陶をたれないだけ、

今の男にはましだった。

男の世界は回っていた。際限なく、ぐるぐると。

幸運も回るのだろうか。

全ての人間が同じだけ人生の辛苦を嘗め尽くすことができるように、平等に。

苦の後には楽があって、雨の後には晴れがあって、別れの後には出会いがあるように

飢えの後には、豊饒ほうじょうがあるのだろうか。

回り回り、めぐり来る。

男は今その円の中に身を任せている。ふらふらと、ぐるぐると。

頭の中を激痛が走る。

思わず顔をしかめ、男の額にうすら汗が滲む。

痛みが一本の線となり、脳内を貫き通す間に、自分の過去が痛みと共に蘇る。

失ってしまったもの。

二度とは再生されないもの。

側から離れていった妻と子。

テレビドラマで何度も経験したはずの別れのシーンは、

自分が当事者となって初めてその意味を知る。

手を伸ばせば届きそうなのに、その空間は、ひしゃげた鏡のように

時空を正確には反射させない。次元が違ってしまったのだ。

不意に、男の頬を涙が伝った。

頭の痛みがまし、壁にガンガン頭をぶつけられたような衝撃を受ける。

わかった。

そうだ。

精一杯の気力を振り絞り、部屋の中を這いて回った。

胸を締め付ける痛みが、全身に転移したように体中に警鐘を鳴らす。

ドク、ドク。心臓の早まりが響く。

ちっぽけな存在。そのささやかな幸せさえ守れなかった過去。

口の中がからからに渇き、のどがうめき声のような声にならない叫びを上げる。

這って部屋の埃をかぶった、濃紺の四角い箱を見つける。チクタク時を刻んでいる。

予感が確信に変わる。

胃の中を苦い思いが逆流し、後悔と共に口の中に広がった。

起き上がり、6畳一間の部屋を横切りながら、耐え続ける。

目的地までたどり着き、世界中の苦しみの順番が自分に回ってきたことを感じながら

男は全てを悟った。口の中をつんとした強烈な刺激臭が襲う。



二日酔いだ。



カーテンを開ける。高層マンションの上から照りつける太陽がまぶしく顔をしかめる。

男は長方形の薄っぺらい箱から、白丸の小さな固形物を取り出し、ぐいっと飲み干した。

「ふーっ」

部屋にある世界地図が無言のまま、咎めるように見つめている。











読んでくださりありがとうございます。オチが途中でよめてしまったでしょうか。稚拙な文章ですが感想を下さると嬉しいです。













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